01
病気の概要
骨折とは、骨に力が加わって連続性が断たれた状態をいいます。犬や猫では、交通事故や高いところからの落下といった大きな力によるものだけでなく、ソファからの飛び降りや、抱っこしていた腕からの落下といった日常のなかの出来事でも起こります。
大切なのは、「折れたかどうか」よりも「どこが、どんなふうに折れたか」です。同じ「骨折」でも、数週間の固定で治るものから、手術をしなければ一生骨がつかないものまで幅があります。最初にそこを見きわめることが、その後を大きく分けます。
02
小型犬の前脚 ― 「ギプスで様子を見る」の落とし穴
日本で飼われている犬の多くは小型犬です。そして小型犬にいちばん多い骨折のひとつが、前脚の橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)が、手首に近いあたりで折れるものです。
この骨折には、他の骨折とはっきり違う特徴があります。
骨がつかないまま時間が過ぎると、その脚は使えないままになり、あとから治そうとしても最初よりずっと難しくなります。「まずギプスで様子を見て、だめなら手術」という順番が、この骨折では通用しにくいのはそのためです。
一方で、近年はロッキングプレートという、ねじとプレートががっちり噛み合う器具を、あえて硬く固めすぎない配置で使う方法が報告されています。体重5kg未満の犬8頭・10件の単純な骨折を対象とした研究では、全例で骨がつき、癒合までの平均は53日でした。症例数の少ない研究ではありますが、固定の「硬さ」を適切に選ぶことが骨の治りを左右することを示しています。当院でも、その子の骨の太さと折れ方に合わせて器具と配置を選んでいます。
03
猫が高いところから落ちたとき
マンションのベランダや窓から猫が落ちる事故は、都市部では珍しくありません。海外の119頭を調べた報告では、次のようなことが分かっています。
46.2%
四肢の骨折があった割合
61.5%
骨折のうち後ろ足だった割合
36.4%
最も多かった脛骨(すねの骨)
59.6%
1歳未満だった割合
骨折の部位は後ろ足が6割、前足が4割で、なかでも脛骨が最も多く、次いで大腿骨(23.6%)でした。落ちた高さの平均は4階です。若い猫に多いのは、まだ高さの危険を学んでいないためと考えられています。
※ これは119頭を集計したひとつの報告の数字です。落下事故の集計は報告によって幅があります。ここでは骨折の部位を知っていただくために引用しています。
ここで知っておいていただきたいのは、骨折よりも先に命に関わるのは胸の中の損傷だということです。気胸(肺から空気が漏れて胸にたまる)や肺の打撲が同時に起きていることがあり、これらは落ちた直後には分かりにくく、数時間してから呼吸が苦しくなることがあります。胸の損傷については外傷・事故のページで詳しくご説明しています。
04
折れ方によって、できることが変わります
治療方針は、次のような点を組み合わせて決まります。
| 見るところ | なぜ大事か |
|---|---|
| どの骨か | 太ももや上腕は外から固定できません。前脚の先は血の巡りが乏しく治りにくい部位です |
| 関節にかかっているか | 関節の面がずれたままくっつくと、将来の関節炎につながります。正確に戻す必要があります |
| 単純か、粉々か | 粉砕していると、骨のかけらを並べ直すより、全体の長さと向きを保つ方針が向きます |
| 皮膚が破れているか | 開放骨折は感染のリスクがあり、扱いが変わります(下記) |
| 成長期かどうか | 若い子では、骨の端にある成長板が傷むと、その後の伸び方に影響することがあります |
| その子の体格・持病 | 麻酔のかけ方、選べる器具、術後の安静の守りやすさが変わります |
05
開放骨折は、時間との勝負です
折れた骨が皮膚を破って外に出ている、あるいは骨折した場所に傷が通じている状態を開放骨折といいます。外の細菌が骨に届いてしまうため、感染が起きると骨がつかなくなることがあります。
できるだけ早く、傷の洗浄と汚れた組織の除去を行い、抗菌薬を始めたうえで、骨を仮に固定します。最初の数時間の扱いが、その後を左右します。
06
ご家庭での応急処置 ― やってはいけないこと
出血しているときだけは、清潔な布を当てて手で押さえてください。それ以外は、無理に触らないことが大切です。
07
診断・検査
まず全身の状態を確かめます。骨折そのものより、出血・ショック・胸の中の損傷のほうが先に命に関わるためです。呼吸と循環が安定していることを確認してから、骨の評価に移ります。
- レントゲン検査 — 折れた場所・折れ方・ずれの程度を確認します。左右を比べたり、角度を変えて複数枚撮ったりします
- CT検査 — 粉砕した骨折や、関節の中に及ぶ骨折で、立体的な形を把握したいときに行います(必要に応じて提携施設をご紹介します)
- 血液検査 — 麻酔をかけられる状態かを確かめます
- 胸部のレントゲン・超音波 — 落下や交通事故のあとでは、胸やお腹の中を必ず確認します
08
治療方法
骨折の治療は、折れた骨を正しい位置に戻し、つくまで動かないように保つことに尽きます。その手段がいくつかあります。
外からの固定(ギプス・添え木)
麻酔をかけずに済み、体への負担が小さい方法です。ずれの少ない骨折、体重を支える負担が小さい部位、成長期で治りの早い子では選べます。ただし前述のとおり、小型犬の前脚の先では、この方法だけでは骨がつかない可能性が高くなります。
髄内ピン
骨の中心にある空洞にピンを通して、長さと向きを保つ方法です。回転する力には弱いため、ワイヤーや創外固定と組み合わせて使います。
プレートとスクリュー
骨の表面にプレートを当て、ねじで留める方法です。しっかり固定できるため、術後に早くから足を使えるのが利点です。骨が細い小型犬では、ロッキングプレートという、ねじとプレートが噛み合って角度が保たれる器具を使うことがあります。
創外固定
皮膚の外から骨にピンを刺し、体の外側で棒とクランプをつないで支える方法です。傷が汚れている開放骨折や、粉々になった骨折で力を発揮します。外に器具が出ているため、退院後にピンの周りを清潔に保つお世話が必要です。
09
術式の選び方 ― 当院の考え方
どの方法がよいかは、折れ方・その子の体格・年齢・生活のしかた、そしてご家族が術後にどこまでお世話できるかによって変わります。
高度な器具や設備が必要な骨折、当院で行うより良い結果が見込める骨折については、提携施設をご紹介します。紹介することも選択肢のひとつだと考えています。
10
術後の経過とリハビリ
骨がつくまでには、若い子で数週間、成犬・成猫では2〜3か月ほどかかります。この間、レントゲンで骨のつき具合を確認しながら、運動の許可を少しずつ広げていきます。
- 安静 — いちばん大切で、いちばん難しいことです。元気が戻るほど動きたがるため、サークルやケージでの制限が必要になります
- 痛みの管理 — 痛みを我慢させることに利点はありません。お薬で抑えながら、足を使えるようにしていきます
- 少しずつ足を使う — 固定が十分であれば、早くから足を着かせるほうが回復は良好です。いつから何をしてよいかは、その都度お伝えします
- 体重管理 — 体重が増えると、治りかけの骨に余計な負担がかかります
11
起こりうる合併症
正直にお伝えしておきたいことです。
- 癒合不全・遅延癒合 — 骨がつかない、つくのに時間がかかる。前述のとおり小型犬の前脚で起こりやすい合併症です
- 変形癒合 — 曲がったままくっつく。歩き方に影響が残ることがあります
- 感染 — とくに開放骨折や創外固定で注意が必要です
- 器具のゆるみ・破損 — 安静が守られなかったとき、骨がつく前に器具に力がかかり続けたときに起こります
- 関節の動きの制限 — 関節に及ぶ骨折や、固定期間が長かったときに残ることがあります
- 成長への影響 — 成長板を含む骨折では、その後の伸び方に差が出ることがあります
これらの多くは、折れ方そのものの難しさから来るもので、必ずしも何かの失敗ではありません。起こったときにどうするかも含めて、あらかじめご説明します。
12
予防 ― ご家庭でできること
小型犬の前脚の骨折は、住まいの工夫でかなり減らせます。
- ソファ・ベッドへのスロープやステップ — 飛び降りをなくすことが、いちばん効きます
- 滑る床への対策 — カーペットやマットを敷く。フローリングで滑って転ぶことが引き金になります
- 抱っこのしかた — 腕から飛び降りようとする子は、床に近い位置で抱く・座って抱くようにします
- 足裏の毛と爪の手入れ — 滑りやすさに直結します
- 猫は網戸だけに頼らない — 網戸は体重で外れます。転落防止の柵やロックをご検討ください
13
費用について
手術費のほかに、術前検査・麻酔料・入院費・術後のお薬がそれぞれかかります。骨折は折れ方によって固定の方法が変わるため、費用の幅が大きいのが特徴です。どれが何のために必要な費用なのかは、手術・入院費用の内訳でご説明しています。
実際の金額は、レントゲンを撮って方針が決まった時点で、お見積もりとしてお渡しします。費用のことは遠慮なくお尋ねください。
14
さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 小型犬の橈骨・尺骨遠位骨折 102例の治療成績/JAVMA 2017・獣医師向け(英語) — 体重7kg以下の102頭・105件の骨折をプレートで固定した成績と合併症の報告。
- 小型犬の橈尺骨遠位骨折に対する非剛性ロッキングプレート固定/Animals 2026・獣医師向け(英語) — 体重5kg未満の犬8頭・10件について、固定の硬さの設計と癒合までの経過を報告した観察研究。
- 猫の高所落下症候群 119例/J Feline Med Surg 2004・獣医師向け(英語) — 本ページで引用した骨折部位・胸部外傷・生存率の出典。

