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この診療科について
「うちの子、どうしてこんなことをするんだろう」——行動の問題でご相談に来られるご家族の多くが、長いあいだ一人で悩み、ご自分を責めてこられています。まず申し上げたいのは、それはご家族のせいでも、その子のわがままでもないということです。
行動診療科は、噛む・吠える・怖がる・粗相するといった行動を「直すべき困りごと」としてだけ見るのではなく、その子が何を感じ、何に困っているのかを読み解くところから始めます。当院のバリューの一つ「E=Empathize(言葉の奥に耳を澄ます)」を、もっとも必要とする診療科だと考えています。
まず「体の病気」を確かめます
行動の変化の裏に、痛みや内分泌の病気が隠れていることは珍しくありません。触ると唸る、急にそそうをする、夜鳴きが始まった——こうした変化に体の原因がないかを、診察と検査で確かめることから始めます。医療機関だからこそできる出発点です。
痛みの評価を得意としています
当院は整形外科・神経科を専門領域としています。歩き方・関節・背骨の評価を日常的に行っているため、「行動の問題」として来られた子から痛みを見つけられることがあります。ここが一般的な行動相談との大きな違いです。
専門家のオンライン診療と連携
専門的な行動の診療が必要な場合は、行動学に精通した獣医師によるオンライン診療をご案内します。ご自宅から受けられるため、来院自体がストレスになる子にも向いています。当院はかかりつけとして、検査と継続的なフォローを担当します。
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こんなサインはご相談ください
次のような変化やお困りごとは、行動診療の対象です。「こんなことで病院に行っていいのだろうか」と迷われる必要はありません。
安全に関わるサイン(早めにご相談ください)
- 人や同居動物に対して唸る・歯をあてる・咬みつく
- 触ろうとすると避ける、固まる、うなり声を出す
- これまで平気だった扱い(抱っこ・ブラッシング・足拭き)を急に嫌がるようになった
不安・恐怖のサイン
- 雷・花火・工事の音などにパニックになる、隠れて出てこない
- 留守番のときだけ吠え続ける、物を壊す、粗相する
- 来院すると震えが止まらない、診察台で固まってしまう
暮らしのなかの変化
- トイレはできるのに、決まった場所以外で排泄するようになった
- 高齢になってから、夜鳴き・徘徊・昼夜の逆転が出てきた
- 同じ動作を繰り返す(尾を追う、体をなめ続ける、光を追いかける)
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まず「体の病気」がないかを確かめます
行動の相談で来院されたとき、当院が最初に行うのは体の診察です。遠回りに思えるかもしれませんが、これがもっとも大切な一歩です。
ステップ1:痛みがないか
関節・背骨・歯の痛みは、「触られるのを嫌がる」「急に怒るようになった」という形で現れます。とくに高齢になってから性格が変わったように見える場合、痛みを疑います。当院が得意とする整形外科・神経科の評価が、ここで生きます。
ステップ2:ホルモン・内臓の病気がないか
甲状腺の異常、副腎の病気、肝臓の異常などは、落ち着きのなさ・不安・攻撃性として現れることがあります。血液検査で確かめられるものも多くあります。
ステップ3:脳・神経の病気がないか
発作の一種が「意味のない徘徊」「宙を噛む」といった形で出ることがあります。高齢の子の夜鳴き・徘徊では、認知機能不全症候群と、痛みや高血圧などを見分ける必要があります。
ステップ4:そそう・粗相であれば泌尿器の病気がないか
トイレの失敗は、膀胱炎・尿路結石・尿失禁など体の病気であることが少なくありません。行動の問題と決めつける前に、尿検査などで確かめます。
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主な対応疾患
Separation Anxiety
飼い主と離れることに強い不安を感じ、留守番のときにパニックに近い状態になってしまう心の問題です。留守番中に限った吠え続け・破壊・粗相として現れます。わがままでもしつけの失敗でもなく、その子は本当に苦しんでいます。段階的に「ひとりでも大丈夫」を教えていくことで、多くの子が楽になれます。
Aggression
唸る・歯をあてる・咬みつくといった行動です。「強気だから」「順位を争っているから」と説明されることがありますが、実際には恐怖や痛みが背景にあることが最も多いとされています。安全の確保を最優先にしながら、原因に応じた対応を組み立てます。
Fear and Anxiety Disorders
雷・花火といった音への強い恐怖、来院時のパニック、見知らぬ人や場所への過度な怯えなどです。放っておくと年々ひどくなることが多く、また痛みが隠れていることもあります。環境の工夫と段階的な慣らしを軸に、必要に応じてお薬も検討します。
Cognitive Dysfunction Syndrome
加齢に伴い脳の働きが低下し、夜鳴き・徘徊・昼夜の逆転・トイレの失敗などが現れる、いわば犬猫の認知症です。脳の変性が本態であるため神経科でも扱いますが、ご家族の負担をやわらげる暮らしの工夫という点では、行動診療とも重なります。
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診療の流れ
ステップ1:事前のご連絡(咬みつきがある場合は必ず)
咬みつきなど安全に関わるご相談は、受診前にお電話でお知らせください。診察の進め方や、待合室での過ごし方をあらかじめ調整します。その子を怖がらせないことが、正しい診断への近道でもあります。
ステップ2:くわしい問診
いつ・どんな状況で・どのような行動が出るのかを、時間をかけてうかがいます。ご自宅での様子を撮影した動画があると、診断の精度が大きく上がります。スマートフォンで構いませんので、可能であればご用意ください。
ステップ3:身体検査・必要な検査
痛み・内分泌・神経・泌尿器など、行動の背景になりうる体の病気がないかを確かめます。何をどこまで調べるかは、その子の状態とご家族のご意向をふまえて一緒に決めます。
ステップ4:専門的な行動診療が必要な場合はオンライン診療へ
行動そのものへの専門的なアプローチが必要と判断した場合は、動物行動学を専門とする獣医師・茂木千恵先生のオンライン診療をご案内します。茂木先生は犬と猫の問題行動について、研究・教育・執筆にも携わっている専門家です。ご自宅から受けられるため、来院がストレスになる子にも適しています。
ステップ5:当院が継続してフォローします
ご紹介して終わりにはしません。検査結果や経過の共有、体の面での管理、お薬が必要な場合の調整など、かかりつけとして継続的に関わります。
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私たちは「罰」を使いません
行動の問題に対して、叱る・押さえつける・電気の流れる首輪を使うといった方法が語られることがあります。当院はこれらの方法をおすすめしません。
また、「飼い主に対する攻撃は順位争いだから、上下関係をはっきりさせるべき」という考え方が広く知られていますが、これは現在の獣医行動学では否定されています。犬とヒトのあいだに優位性の階級があるという証拠はなく、家族に向けられる攻撃行動の多くは、恐怖・資源の防衛・転嫁・葛藤によるものだと理解されています。
私たちが取り組むのは、力で抑えることではなく、その子が「怖くない」と学べる状況をつくることです。時間はかかりますが、それがいちばん確実で、その子にとってもご家族にとっても、無理のない道だと考えています。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 日本獣医動物行動学会 — 国内で獣医行動学を専門とする学会。獣医行動診療科認定医の制度についても紹介されています。
- AVSAB ポジションステートメント(米国獣医動物行動学会・英語) — 人道的なトレーニング、優位性理論、動物にやさしい診療についての公式見解。
- 犬の行動学的問題/Merck Veterinary Manual(英語) — 攻撃行動の分類や治療の考え方を専門家向けに整理。
- 動物による事故/東京都動物愛護相談センター — 咬傷事故が起きたときの届出義務と手続き(東京都の公式情報)。

