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病気の概要
腎盂腎炎(じんうじんえん、Pyelonephritis)とは、腎臓のなかで尿が集まる部屋である「腎盂(じんう)」から、尿をつくる組織である「腎実質」にかけて細菌が感染し、炎症を起こした状態です。膀胱の炎症である膀胱炎が下部尿路の病気であるのに対し、腎盂腎炎は腎臓そのものの感染であり、全身症状を伴いやすく、腎機能を傷める点で注意が必要な病気です。
多くは、膀胱にいた細菌が尿管をさかのぼって腎臓に達する「上行性感染」で起こります。つまり、膀胱炎の延長線上で起こることが多いのが特徴です。だからこそ、下部尿路のちょっとした不調を見過ごさないことが、腎臓を守るうえでとても大切になります。
大腸菌
もっとも多い原因菌(大腸菌/E. coli)
10–14日
急性期の抗菌薬治療期間の目安(培養結果と経過で個別に判断)
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何が起きているのか
腎臓は、血液から老廃物をこしとって尿をつくる臓器です。つくられた尿は腎盂に集まり、尿管・膀胱・尿道を通って体の外へ出ていきます。腎盂腎炎では、この流れをさかのぼる形で細菌が腎臓に入り込み、次のような経過をたどります。
STEP 1
下部尿路での感染(膀胱炎)
大腸菌などの細菌が尿道から膀胱に入り込み、膀胱炎を起こす。頻尿・血尿・排尿時の痛みなど、下部尿路の症状が現れる。
STEP 2
尿管をさかのぼる(上行性感染)
膀胱にいた細菌が尿管をさかのぼり、腎盂に達する。尿の流れが滞る条件(結石・通過障害など)があると、さかのぼりやすくなる。
STEP 3
腎臓での炎症
腎盂から腎実質にかけて炎症が広がる。発熱・元気消失・食欲不振・背部(腎部)の痛みといった全身症状が出やすくなる。
STEP 4
腎機能への影響・再発
炎症が腎組織を傷つけ、急性腎障害を起こしたり、繰り返すことで腎機能の低下(慢性腎臓病)につながることがある。
主な原因菌は大腸菌(E. coli)で、そのほかプロテウス・クレブシエラ・腸球菌・ブドウ球菌などの細菌が関与します。血液を介して腎臓に感染が及ぶこともありますが、犬猫では膀胱炎からの上行性感染がもっとも多い経路です。
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かかりやすい条件・リスク因子
腎盂腎炎は、細菌が腎臓まで届きやすい・排除されにくい「条件」がそろうと起こりやすくなります。多くは、背景にある病気を管理することで再発を減らせます。
| リスク因子 | なぜ感染しやすいか | 対処・予防 |
|---|---|---|
| 膀胱炎(下部尿路感染) | 細菌が尿管をさかのぼる出発点になる | 早期に診断し、きちんと治しきる |
| 尿石症・尿路の通過障害 | 尿の停滞・粘膜の傷が細菌の温床になる | 結石の管理・閉塞の解除 |
| 慢性腎臓病(CKD) | 薄い尿で細菌が洗い流されにくい | 定期的な尿検査でのモニタリング |
| 糖尿病(尿糖) | 尿中の糖が細菌の栄養になる | 血糖コントロール |
| 免疫力の低下・高齢 | 感染を排除する力が落ちる | 全身状態の管理・定期健診 |
| 尿道カテーテル留置など | 外から細菌が入りやすくなる | 適切な管理・必要最小限の使用 |
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症状・サイン
腎盂腎炎の症状は、急性か慢性かで大きく異なります。急性では全身症状がはっきり出やすい一方、慢性ではサインが乏しく、健康診断や他の病気の検査で偶然見つかることもあります。
| 病型 | 現れやすいサイン |
|---|---|
| 急性腎盂腎炎 | 発熱、元気消失、食欲不振、嘔吐、背部(腎部)を触られると痛がる、多飲多尿、血尿、頻尿など。全身状態が急に悪くなることがある。 |
| 慢性・軽度 | 症状が乏しい、なんとなく元気がない、体重が減る、多飲多尿のみ、など。慢性腎臓病の悪化や、健診での尿異常として見つかることも。 |
急性腎盂腎炎では発熱や背部の痛みが典型とされますが、犬猫では発熱や腹部痛が必ずしもはっきり出るとは限りません。「膀胱炎の症状に、全身のだるさが重なっている」ときは注意が必要です。
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診断・検査
「感染が腎臓まで及んでいるか」「原因菌は何か」「背景に別の病気がないか」を見極めることが診断の目的です。とくに、どの抗菌薬が効くかを調べる尿培養が治療の要になります。
尿検査(尿沈渣)
膿尿(白血球)・細菌尿・血尿を確認します。腎臓由来の炎症を示唆する円柱(とくに白血球円柱)がみられることもあり、感染の場所を推し量る手がかりになります。
尿培養・薬剤感受性試験(要)
原因菌の種類と、効く抗菌薬を調べる検査です。診断と治療方針の中心になります。信頼できる結果を得るため、採尿は膀胱穿刺(ぼうこうせんし)で無菌的に行うのが基本です。
血液検査
炎症の程度(白血球・CRPなど)や、クレアチニン・SDMA・BUNといった腎機能の指標を評価します。腎臓がどれだけ影響を受けているかを確認します。
腹部超音波検査(エコー)
腎盂の拡張(腎盂拡張)や腎臓の腫大など、感染を示唆する変化を評価します。あわせて結石や尿路の閉塞など、感染の引き金になる異常がないかも確認します。
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治療
治療の基本は、原因菌に効く抗菌薬を、十分な期間しっかり使い切ることです。あわせて、脱水や全身状態を支える治療と、感染の引き金になった病気の管理を並行して行います。
培養にもとづく抗菌薬治療
尿培養・薬剤感受性の結果に合わせて抗菌薬を選びます。結果が出るまではフルオロキノロン系や第3世代セファロスポリンなど、腸内細菌に効く薬で治療を始め、判明後に最適な薬へ切り替えます。腎盂腎炎ではやや長めの投与が必要です。
支持療法(点滴・全身管理)
発熱・嘔吐・食欲不振による脱水を補い、腎臓への負担を減らします。全身状態が悪い場合や急性腎障害を伴う場合は、入院での輸液・集中的な管理を行うこともあります。
基礎疾患・誘因への対処
結石や尿路の閉塞、糖尿病、慢性腎臓病など、感染の背景にある病気を管理します。原因を残したままでは再発しやすいため、ここへの対応が長期的な安定につながります。
治療後のフォロー
治療の終了後にも、尿検査や尿培養で「本当に菌が消えたか」を確認します。再発しやすい子では、定期的なチェックで早期発見に努めます。
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腎臓を守るために(再発予防)
腎盂腎炎は、きちんと治しきり、背景にある条件を管理することで、再発をぐっと減らせる病気です。ご家庭でできる観察と、当院でのフォローを組み合わせて腎臓を守っていきましょう。
- 膀胱炎を放置しない……頻尿・血尿・排尿時の痛みなど、下部尿路のサインに早く気づき、きちんと治すことが最大の予防になります。
- 水分をしっかりとる……十分な尿量は細菌を洗い流す助けになります。ウェットフードの活用や、新鮮な水を複数箇所に置くなどの工夫が有効です。
- 背景の病気を管理する……結石・糖尿病・慢性腎臓病などがある子は、その管理が再発予防に直結します。
- 定期的な尿検査……とくに再発を繰り返す子や、慢性腎臓病・糖尿病のある子では、症状がなくても尿検査で早期に異常を拾えることがあります。
- おかしいと思ったら早めに……「いつもと違う」に早く気づけるのは、毎日そばにいるご家族です。気になる変化はためらわずご相談ください。
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予後
急性の腎盂腎炎は、原因菌に合った抗菌薬で早期に適切に治療できれば、多くは良好に回復します。一方で、診断や治療が遅れたり、結石・通過障害・慢性腎臓病といった背景があると、腎機能の低下や再発につながることがあります。だからこそ、早く見つけて治しきることと、原因まで見にいくことの両方が大切です。
当院は、目の前の感染を治すだけでなく、「なぜ起きたのか」を一緒に考え、その子の腎臓をできるだけ長く守ることを目指します。気になるサインがあれば、どうぞ早めにご相談ください。腎泌尿器科の診療内容については、あわせてこちらもご覧ください。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 犬猫の細菌性尿路感染症の診断・管理に関するISCAIDガイドライン(2019年・日本語版・獣医師向け) — 本ページの診断・抗菌薬選択・治療期間の基礎となる国際ガイドラインの日本語訳(オープンアクセス)。腎盂腎炎の項を含みます。
- 小動物の腎盂腎炎/MSD獣医マニュアル・獣医師向け(英語) — 原因菌・診断(膀胱穿刺での尿培養)・治療期間まで、病態を専門的に解説。

