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CHRONIC KIDNEY DISEASE

犬の慢性腎臓病(CKD)

シニア犬に多い、腎臓の慢性疾患。犬では「原因」と「タンパク尿」がカギになります

「最近よく水を飲む」「少しずつ痩せてきた」——それは腎臓からのサインかもしれません。犬の慢性腎臓病は高齢期に多い進行性の病気ですが、猫と違って原因を特定できることが比較的多く、タンパク尿への対応が予後を左右します。早期発見と継続的な管理によって進行をゆるやかにし、その子らしい毎日を長く支えることを目指します。

  • 腎泌尿器科
  • シニアに多い

この記事は 院長/獣医師 大塚 元貴 が監修しています(最終監修日:)。

とくに気をつけたい犬種・猫種

好発(かかりやすい傾向)が知られている犬種・猫種です。必ずかかるわけではありません。

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病気の概要

慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)とは、腎臓の組織が進行性・不可逆的に傷つき、腎機能が3ヶ月以上にわたって持続的に低下した状態を指します。犬でも高齢期に多くみられる病気で、適切な治療とご家族の協力が予後を大きく左右します。

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発症リスクが高まる年齢の目安

75%

クレアチニンが上がる頃に失われている腎機能の目安

3ヶ月

診断に必要な「持続的な低下」の期間

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何が起きているのか

慢性腎臓病は単なる「腎臓の衰え」ではなく、複数の病態が互いを悪化させる自己増悪性のサイクル(悪循環)を形成します。このしくみを理解すると、なぜ早期発見と継続的な管理が重要なのかが見えてきます。

STEP 1

初期腎障害(犬では原因が多様)

糸球体腎炎・タンパク喪失性腎症・感染(腎盂腎炎・レプトスピラ症など)・遺伝性腎症・尿路閉塞・急性腎障害からの移行などにより、一部のネフロン(腎臓の最小機能単位)が働きを失います。

STEP 2

残存ネフロンの代償性過剰濾過

健常なネフロンが低下分を補おうとして糸球体内圧・血流が増加します。短期的には機能が保たれますが、長期的には障害が蓄積していきます。

STEP 3

タンパク尿・糸球体硬化の進行

糸球体への負荷が高まるとタンパクが尿へ漏れ出し、その漏れ出たタンパク自体が尿細管を傷つけます。線維化を促す因子が活性化し、腎組織が線維性組織に置き換わっていきます。

STEP 4

全身への波及(尿毒症)

老廃物の蓄積・電解質異常・貧血・高血圧が生じ、それらがさらに残った腎機能を悪化させる悪循環に陥ります。

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主な原因

犬のCKDでは、猫に比べて原因を特定できることが比較的多いのが特徴です。原因が分かれば、それ自体への治療で進行を抑えられる場合があります。次のような背景が知られています。

原因の分類具体例ポイント
糸球体疾患(タンパク尿性)免疫複合体性糸球体腎炎、糸球体硬化症、アミロイドーシス犬のタンパク尿の主因。慢性感染・炎症・腫瘍・内分泌疾患が引き金になることも
感染・炎症腎盂腎炎、レプトスピラ症、慢性の細菌感染早期の診断・治療で進行を抑えられる可能性がある
遺伝性・若齢性腎症家族性腎症、遺伝性糸球体症、家族性アミロイドーシス特定犬種で若齢から発症することがある(下記参照)
尿路の閉塞・結石尿石症、尿管・尿道の閉塞尿路の圧上昇が腎組織を傷つける。閉塞の解除が必要
急性腎障害からの移行中毒・虚血・感染後の残存障害回復しきらずCKDへ移行することがある
加齢・全身疾患高齢、高血圧、内分泌疾患複数の要因が積み重なって進行する

原因の一部である タンパク尿性腎症腎盂腎炎急性腎障害(AKI) は、それぞれ個別のページで詳しく解説しています。

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症状・サイン

腎臓の代償能力は高く、機能の大部分が失われるまで症状が現れないことがあります。次のようなサインに気づいたら、早めのご受診をおすすめします。

症状目安のステージ内容
多飲・多尿(PU/PD)初期〜全期尿を濃縮する力が落ち、薄い尿が大量に出て、代償的に飲水量が増えます。散歩以外での飲水・尿量の増加に気づきやすいのは犬の利点です。
体重減少・筋肉の消耗初期〜全期徐々に痩せ、被毛の質が落ちることも。月1回の体重測定で早く気づけます。
食欲不振・嘔吐中等度以降尿毒素が消化管を刺激し胃酸分泌が増加。好きなご飯を残す・食後に吐くことが増えます。
貧血(腎性貧血)中等度以降腎臓が出すエリスロポエチン(EPO)の減少で赤血球産生が低下。歯ぐきやまぶたの内側が白っぽくなります。
高血圧・眼症状中等度以降突然の失明(眼底出血・網膜剥離)が起こることも。定期的な血圧測定が重要です。
口内炎・アンモニア臭重度口の中に潰瘍ができ、よだれの増加やアンモニア様の口臭がみられます。
むくみ・腹水(タンパク尿が強い場合)原因により様々タンパクの喪失が著しいと、血液中のアルブミンが下がり、四肢や腹部にむくみが出ることがあります。

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病期分類(IRISステージ)

犬の腎臓病の重症度は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が定めた基準で評価します。安定した状態での血清クレアチニン値・SDMA値をもとにステージを決め、さらにタンパク尿(UPC)と血圧のサブステージを組み合わせて治療方針を決定します。犬ではとくに、このサブステージの評価が重要です。

ステージクレアチニン(mg/dL) / SDMA(μg/dL)状態・主な様子
Stage 1クレアチニン < 1.4 / SDMA < 18軽度低下・無症状。尿比重の低下やタンパク尿、画像異常などで診断され、定期検診での発見が最多。
Stage 2クレアチニン 1.4–2.8 / SDMA 18–35軽度〜中等度。多飲多尿が始まり、体重減少が緩やかに進行。食事療法の開始を検討。
Stage 3クレアチニン 2.9–5.0 / SDMA 36–54中等度〜重度。食欲低下・嘔吐・元気消失。貧血・高血圧の併発が多く、積極的な内科管理が必要。
Stage 4クレアチニン > 5.0 / SDMA > 54重度の腎不全・尿毒症。口内炎・神経症状など。緊急の集中的な治療が必要。

サブステージ①:尿タンパク(UPC比)

犬では境界・タンパク尿ありの判定基準が猫と異なります(犬は0.5を境界とします)。

区分UPC比(犬)臨床的対応
タンパク尿なし(NP)< 0.2腎タンパク漏出なし。定期モニタリングを継続。
境界(BP)0.2 – 0.51〜2ヶ月後に再評価し、原因を精査。
タンパク尿あり(P)> 0.5腎保護目的の治療介入(食事療法・RAAS阻害薬など)を検討。

サブステージ②:収縮期血圧

リスク区分収縮期圧(mmHg)
正常血圧< 140
軽度上昇140 – 159
中等度上昇160 – 179
高度上昇(高リスク)≥ 180

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診断・検査

CKDの診断には、複数の検査を組み合わせた総合的な評価が必要です。犬では「腎機能がどの段階か(ステージ)」に加えて、「原因は何か」「タンパク尿はあるか」を見極めることが、その後の治療方針を大きく左右します。

SDMA(早期の指標)

腎機能が低下しはじめた段階から上昇し、クレアチニンより早期に異常を検出できることがあります。筋肉量の影響を受けにくいため、痩せた子・高齢の子でも信頼性が高い指標です。

クレアチニン(基本の指標)

糸球体濾過量を反映する基本のマーカー。ただし腎機能の大部分が失われるまで上昇しないため、SDMAや尿検査と組み合わせて総合的に評価します。

尿検査(尿比重・尿タンパク)

血液検査より早く異常が出ることが多い、重要な検査です。尿を濃縮する力の低下(尿比重の低下)や、タンパク尿の有無を確認します。

UPC(尿タンパク/クレアチニン比)・血圧

犬のCKDでとくに重要。タンパク尿の程度を数値化し、あわせて血圧を測定して、治療の必要性とサブステージを判定します。

主な検査項目は次のとおりです。

分類項目
血液検査クレアチニン、SDMA、BUN、リン、カルシウム、カリウム、アルブミン、ヘマトクリット(HCT)
尿検査尿比重(USG)、UPC比(尿タンパク)、尿沈渣、尿培養
血圧測定収縮期血圧(安静時に複数回の平均)
画像検査腹部超音波、腹部レントゲン(腎臓・尿路の形態評価、結石の有無)
原因の精査感染症検査(レプトスピラ等)、内分泌検査、必要に応じて腎生検の検討

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治療・管理

慢性腎臓病は現時点では完全な治癒が難しい病気ですが、適切な治療と管理によって進行をゆるやかにし、快適な時間を長く保つことが可能です。犬では、可能なら原因への治療を行いつつ、タンパク尿・血圧・リンのコントロールを軸に、ステージと合併症に応じてその子ごとに最適化します。

  1. ステップ1原因への治療(可能な場合)

    腎盂腎炎など感染が背景にあれば抗菌薬治療を、免疫が関与する糸球体腎炎であれば免疫抑制療法を検討するなど、特定できた原因そのものに対応します。原因への介入は、犬のCKDで進行を抑える大きな武器になります。

    原因が特定できた場合に、その病態に応じて実施

  2. ステップ2腎臓病用の食事療法

    リン・タンパク質・ナトリウムを調整し、オメガ3脂肪酸を強化した療法食が基本です。腎臓への負担を減らし、タンパク尿や高リン血症の管理にも役立ちます。食欲を落とさないよう、段階的に移行します。

    主にStage 2以降、またはタンパク尿がある場合に検討

  3. ステップ3RAAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)

    タンパク尿がある犬でとくに重要な治療です。糸球体内圧を下げてタンパク尿を減らし、腎臓を保護する目的で使用します(ベナゼプリル、テルミサルタンなど)。使用中は血清クレアチニン・カリウム・血圧のモニタリングが必要です。

    タンパク尿サブステージ「P」の場合に考慮

  4. ステップ4リン吸着薬・高リン血症の管理

    食事制限だけでリンが下がらない場合、腸管内でリンと結合する吸着薬を食事に混ぜて用います。高リン血症は腎障害を促進するため、血清リンを目標範囲に保つことが重要です。

    食事管理で不十分なStage 2–4に適用

  5. ステップ5降圧療法

    高血圧は腎障害と眼・心臓への負担を増やします。RAAS阻害薬に加え、必要に応じてカルシウムチャネル拮抗薬(アムロジピン)などで血圧を管理します。眼底に変化があれば緊急的に開始します。

    収縮期血圧が高い場合、または眼症状がある場合

  6. ステップ6輸液療法(皮下点滴・静脈内点滴)

    脱水の補正と尿毒素の希釈・排泄促進が目的です。急性増悪時は入院での静脈内点滴、維持管理には外来・自宅での皮下点滴を用います。自宅皮下点滴は丁寧にご指導しますので、多くの方が実施可能です。

    主にStage 3–4、または脱水を伴う場合

  7. ステップ7消化器症状・貧血の管理

    制吐薬・胃酸抑制薬で嘔吐・食欲不振を、エリスロポエチン製剤・鉄剤で腎性貧血を管理します。食欲と赤血球の維持は、QOLと全身状態の保持に直結します。

    症状・貧血の程度に応じてStage 3–4で適用

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ご家庭での管理と早期発見

CKDの管理は、病院での治療とご家庭でのケアが両輪です。犬は猫より変化に気づきやすい面がある一方、散歩や生活の中で見落とされることもあります。毎日のちょっとした記録が、進行の早期発見につながります。

おすすめしたいこと

  • 腎臓サポート療法食への段階的な移行(獣医師の指示のもとで)
  • いつでも新鮮な水を飲める環境づくり・ウェットフードの活用
  • 飲水量・尿量・食欲・元気を毎日ゆるやかに記録
  • 週1回、同じ条件での体重測定
  • ステージに応じた定期検査(血液・尿・血圧)の継続
  • 該当犬種では、若いうちからの尿検査でのスクリーニング

避けたいこと

  • 高タンパク・高リンのフードやおやつ(煮干し・ジャーキー等)の与えすぎ
  • 自己判断でのNSAIDs(痛み止め)の使用
  • 食欲不振時に療法食を無理に与える(嫌悪学習のリスク)
  • 中毒性のあるもの(ブドウ・レーズン・不凍液等)への接触
  • 自己判断でのサプリメント追加(リン・カルシウム含有品に注意)
  • 「元気だから」と定期検査を先延ばしにすること
療法食とは何か・なぜ獣医師の指導が要るのかを見る

腎臓病は早く見つけるほど、できることが多い病気です。気になるサインがなくても、シニア期に入ったら定期的な検診と尿検査をおすすめします。腎泌尿器科全体の診療内容は、あわせてこちらもご覧ください。

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予後

予後は、ステージ・タンパク尿の程度・高血圧の有無によって大きく変わります。一般に、タンパク尿が強いほど、また高血圧が管理されていないほど、進行が早くなることが知られています。裏を返せば、これらをきちんとコントロールすることが、進行をゆるやかにする鍵になります。

犬のCKDでは、原因を特定して治療できる場合、進行を大きく抑えられることがあります。Stage 1〜2で早期に発見し、食事療法・タンパク尿対策・血圧管理を継続できれば、良好なQOLを保ちながら長く過ごせる子も少なくありません。当院では「余命」の数字よりも、今できる治療と管理を通じて一日一日の質を高めることを大切にしています。診断後も諦めずに、その子とご家族が幸せに過ごせることを目標に、一緒に取り組みましょう。

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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)

より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。

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Q&A

よくあるご質問

犬の腎臓病は、猫の腎臓病と同じですか?
進行性で完治が難しい点は共通していますが、いくつか違いがあります。猫では加齢に伴う原因不明のCKDが非常に多いのに対し、犬では糸球体腎炎・タンパク喪失性腎症・感染・遺伝性腎症など「原因を特定できること」が比較的多いのが特徴です。原因が分かれば、それ自体を治療して進行を抑えられる場合があります。また犬では、尿中にタンパクが漏れる「タンパク尿」の有無と程度が予後を大きく左右するため、尿検査(UPC)を重視して管理します。
血液検査は正常でしたが、尿検査もした方がいいですか?
はい、ぜひおすすめします。腎臓は機能の一部が失われても血液検査の数値(クレアチニン)にはなかなか現れません。一方で、尿を濃縮する力の低下(尿比重の低下)や、タンパク尿は、血液検査が正常な早い段階から現れることがあります。犬のCKDでは、血液検査(クレアチニン・SDMA)と尿検査をセットで行うことで、より早く・正確に状態を捉えられます。シニア期に入ったら、症状がなくても定期的な尿検査をおすすめします。
「タンパク尿がある」と言われました。どういう意味ですか?
本来ほとんど尿に出ないはずのタンパク質が、腎臓のフィルター(糸球体)の障害によって尿へ漏れ出している状態です。犬ではタンパク尿そのものが腎臓をさらに傷つけ、CKDの進行を早める独立した危険因子であることが分かっています。だからこそ、UPC(尿タンパク/クレアチニン比)で程度を評価し、食事療法やRAAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)でタンパク尿を減らす治療が、犬のCKD管理でとても重要になります。

このページは一般的な情報提供を目的としています。実際の診断・治療方針は その子の状態によって異なります。個別の症状や薬の使い方については、 自己判断せず担当獣医師にご相談ください。