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病気の概要
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)とは、腎臓の組織が進行性・不可逆的に傷つき、腎機能が3ヶ月以上にわたって持続的に低下した状態を指します。猫では高齢期にもっとも一般的な病気のひとつで、適切な治療とご家族の協力が予後を大きく左右します。
30%
10歳以上の猫での推定有病率
7歳
リスクが顕著に上昇し始める年齢
70%
症状が現れる頃に失われている腎機能の目安
02
主なリスク因子
CKDは単一の原因ではなく、さまざまな要因が積み重なって進行します。多くは対処・予防が可能です。
| リスク因子 | メカニズム | 対処・予防 |
|---|---|---|
| 加齢 | ネフロン数の生理的減少・糸球体硬化の蓄積 | 定期モニタリングで早期介入 |
| 慢性脱水 | 腎血流の低下 → 虚血性障害の反復 | ウェット食・水分管理で軽減 |
| 高血圧 | 糸球体内圧の上昇 → 糸球体硬化の促進 | 降圧薬・食塩制限で管理 |
| 尿路感染・腎盂腎炎 | 炎症による腎組織破壊の反復 | 早期診断・抗菌薬治療 |
| 尿管結石・閉塞 | 尿路閉塞 → 腎内圧上昇 → 虚血 | 外科的・内科的な解除 |
| 歯周病(慢性菌血症) | 細菌・免疫複合体による腎炎 | 定期的なデンタルケア |
| 遺伝的素因 | 多発性嚢胞腎(ペルシャ等)など | スクリーニング検査 |
| 毒物・薬剤 | ユリ科植物・NSAIDs・造影剤など | 環境管理・薬剤選択で予防 |
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病気のメカニズム
慢性腎臓病は単なる「腎臓の衰え」ではなく、複数の病態が互いを悪化させる自己増悪性のサイクル(悪循環)を形成します。このしくみを理解すると、なぜ早期発見と継続的な管理が重要なのかが見えてきます。
A
初期腎障害(原因は多様)
感染・中毒・加齢・高血圧などにより、一部のネフロン(腎臓の最小機能単位)が働きを失います。
B
残存ネフロンの代償性過剰濾過
健常なネフロンが低下分を補おうとして糸球体内圧・血流が増加します。短期的には機能が保たれますが、長期的には障害が蓄積します。
C
糸球体硬化の進行
過剰な圧と血流が糸球体を傷つけ、線維化を促す因子(TGF-β)が活性化。腎組織が線維性組織に置き換わっていきます。
D
全身への波及(尿毒症)
老廃物の蓄積・電解質異常・貧血・高血圧が生じ、それらがさらに残った腎機能を悪化させる悪循環に陥ります。
04
IRISステージ分類(2023年基準)
猫の腎臓病の重症度は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が定めた基準で評価します。安定した状態での血清クレアチニン値・SDMA値をもとにステージを決め、さらにタンパク尿と血圧のサブステージを組み合わせて治療方針を決定します。
| ステージ | クレアチニン / SDMA | 状態・主な様子 |
|---|---|---|
| Stage 1 | クレアチニン < 140 μmol/L / SDMA < 18 μg/dL | 軽度低下・無症状。尿比重低下や画像異常で診断され、定期検診での発見が最多。 |
| Stage 2 | クレアチニン 140–250 μmol/L / SDMA 18–25 μg/dL | 軽度〜中等度。多飲多尿が始まり、体重減少が緩やかに進行。食事療法の開始を検討。 |
| Stage 3 | クレアチニン 251–440 μmol/L / SDMA 26–38 μg/dL | 中等度〜重度。食欲低下・嘔吐・元気消失。貧血・高血圧の併発が多く積極的な内科管理が必要。 |
| Stage 4 | クレアチニン > 440 μmol/L / SDMA > 38 μg/dL | 重度の腎不全・尿毒症。口内炎・神経症状など。緊急の集中的な治療が必要。 |
サブステージ①:尿タンパク(UPC比)
| 区分 | UPC比 | 臨床的対応 |
|---|---|---|
| タンパク尿なし(NP) | < 0.2 | 腎タンパク漏出なし。定期モニタリングを継続。 |
| 境界(BP) | 0.2 – 0.4 | 1〜2ヶ月後に再評価し、原因を精査。 |
| タンパク尿あり(P) | > 0.4 | 腎保護目的の治療介入(RAAS阻害薬など)を検討。 |
サブステージ②:収縮期血圧
| リスク区分 | 収縮期圧(mmHg) |
|---|---|
| 低リスク | < 140 |
| 軽度 | 140 – 159 |
| 中等度 | 160 – 179 |
| 高リスク | ≥ 180 |
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症状・臨床サイン
腎臓の代償能力は高く、機能の70%以上が失われるまで症状が現れないことがあります。次のようなサインに気づいたら、早めのご受診をおすすめします。
| 症状 | 目安のステージ | 内容 |
|---|---|---|
| 多飲・多尿(PU/PD) | 初期〜全期 | 尿を濃縮する力が落ち、薄い尿が大量に出て、代償的に飲水量が増えます。猫は正常な飲水量が犬より少なく気づきにくいことも。 |
| 体重減少・筋肉の消耗 | 初期〜全期 | 徐々に痩せ、被毛の質が落ちることも。月1回の体重測定で早く気づけます。 |
| 食欲不振・嘔吐 | 中等度以降 | 尿毒素が消化管を刺激し胃酸分泌が増加。好きなご飯を残す・食後に吐くことが増えます。 |
| 貧血(腎性貧血) | 中等度以降 | 腎臓が出すエリスロポエチン(EPO)の減少で赤血球産生が低下。歯茎やまぶたの内側が白っぽくなります。 |
| 高血圧・眼症状 | 中等度以降 | 突然の失明(眼底出血・網膜剥離)が起こることも。定期的な血圧測定が重要です。 |
| 口内炎・アンモニア臭 | 重度 | 口の中に潰瘍ができ、よだれの増加やアンモニア様の口臭がみられます。 |
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診断・検査
CKDの診断には、複数の検査を組み合わせた総合的な評価が必要です。単一の数値だけで判断することはありません。
SDMA(新しい指標)
腎機能が25〜40%低下した段階から上昇し、より早期から異常を検出できます。筋肉量の少ない高齢猫・痩せた猫でも信頼性が高い指標です。
クレアチニン(従来の指標)
糸球体濾過量を反映する基本のマーカー。SDMAと組み合わせることで、より正確にステージを判定できます。
主な検査項目は次のとおりです。
| 分類 | 項目(主な基準値) |
|---|---|
| 血液検査 | クレアチニン(<140 μmol/L)、SDMA(<18 μg/dL)、BUN(7–25 mmol/L)、リン(0.9–1.9 mmol/L)、カリウム(3.5–5.0 mEq/L)、HCT(30–45%) |
| 尿検査 | 尿比重(USG)、UPC比(尿タンパク)、尿沈渣、尿培養 |
| 血圧測定 | 収縮期血圧(目標 <160 mmHg/ドプラー法・安静時に複数回の平均) |
| 眼底検査 | 高血圧性網膜症の評価 |
| 画像検査 | 腹部超音波、腹部レントゲン(腎臓サイズの評価) |
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治療・管理
慢性腎臓病は現時点では完全な治癒が難しい病気ですが、適切な治療と管理によって現状を維持することが可能です。治療はステージ・合併症に応じて、その子ごとに最適化します。
ステップ1:定期モニタリング
治療効果の評価と病態変化の早期検出のため、ステージに応じた頻度で血液・尿検査・血圧測定を繰り返します。数値の「傾向」を継続して追うことが重要です。
Stage 1–2:3〜6ヶ月毎 / Stage 3:2〜3ヶ月毎 / Stage 4:1ヶ月毎が目安
ステップ2:輸液療法(皮下点滴・静脈内点滴)
脱水の補正と尿毒素の希釈・排泄促進が目的です。急性増悪時は入院での静脈内点滴、維持管理には外来・自宅での皮下点滴を用います。自宅皮下点滴は丁寧にご指導しますので、多くの方が実施可能です。
主にStage 3–4、または脱水を伴うStage 2に適用
ステップ3:降圧療法(アムロジピン)
収縮期血圧が160 mmHg以上の場合、カルシウムチャネル拮抗薬のアムロジピンが第一選択となります。高血圧は腎障害をさらに悪化させるため、血圧管理は腎保護の観点からも重要です。眼底に変化があれば緊急的に開始します。
収縮期血圧 ≥160 mmHg の場合
ステップ4:リン吸着薬
腸管内でリンと結合し吸収を抑えます(炭酸ランタン、炭酸カルシウムなど)。食事に混ぜて与え、血清リンを正常範囲に維持することが目標です。
食事制限だけではリン管理が不十分なStage 2–4に適用
ステップ5:RAAS阻害薬(ベナゼプリル・テルミサルタン)
タンパク尿がある(UPC >0.4)場合、糸球体内圧を下げてタンパク尿を減らす目的で使用します。使用中は血清カリウム・血圧・クレアチニンのモニタリングが必要です。
タンパク尿サブステージ「P」の場合に考慮
ステップ6:貧血管理(ダルベポエチン・鉄剤)
ヘマトクリット(HCT)が20%未満、または臨床症状を伴う場合、エリスロポエチン製剤(ダルベポエチン)の皮下投与を行います。鉄剤の補給も並行します。
HCT <20% または貧血症状が顕著なStage 3–4
ステップ7:消化器症状の管理(制吐薬・胃粘膜保護薬)
マロピタント(制吐薬)や胃酸抑制薬、胃粘膜保護薬を組み合わせて嘔吐・食欲不振を管理します。食欲の維持は栄養状態の保持に直結します。
嘔吐・食欲不振を呈するStage 2–4
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食事管理・在宅ケア
食事療法は、薬物治療と同等かそれ以上に重要です。腎臓病用の療法食は、リン・タンパク質・ナトリウムを適切に調整した設計で、腎臓への負担を軽減する効果が示されています。ただし移行のタイミングと方法には慎重な判断が必要です。
| 栄養素 | 方針 | 理由 |
|---|---|---|
| リン(P) | 制限(低リン) | 高リン血症 → PTH上昇 → 腎障害促進のサイクルを断つ |
| タンパク質 | 適度な制限(高品質・適量) | BUN・尿毒素の産生を抑えつつ筋肉量を維持する |
| ナトリウム(Na) | 軽度制限 | 高血圧の抑制・RAAS系の過剰活性化の予防 |
| カリウム(K) | 低下傾向なら補給 | 低カリウム血症による筋力低下・心臓への影響を予防 |
| オメガ3脂肪酸 | 積極的に補給 | 抗炎症作用・腎血流改善・タンパク尿軽減の可能性 |
| 水分 | 十分に確保 | 腎血流の維持・尿毒素の希釈・脱水の予防 |
おすすめしたいこと
- 腎臓サポート療法食への段階的な移行(獣医師の指示のもとで)
- ウェットフード(缶詰・パウチ)中心の食事で水分を補給
- 複数箇所に水飲み場を設置し、常に新鮮な水を用意
- 循環式給水器の活用(流水を好む猫に)
- 体重・飲水量・食欲を毎日記録
- 定期的な歯科ケア(慢性菌血症の予防)
避けたいこと
- 高タンパク・高リンのフード(煮干し・一般的なおやつ等)
- 人間用の食べ物全般(特に魚介・加工食品)
- 食欲不振時に療法食を無理に与える(嫌悪学習のリスク)
- NSAIDs(腎血流を低下させ急性増悪を招く)
- ユリ科植物への接触(百合・チューリップ等)
- 自己判断でのサプリメント追加(リン・Ca含有品に注意)
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予防・早期発見
CKDの完全な予防は難しいですが、定期的な健康診断と早期介入によって、発症を遅らせ、発症後も進行を最小化することが可能です。年齢に応じた検診の継続が、もっとも重要な予防戦略です。
| 年齢・時期 | 検診の目安 | 内容 |
|---|---|---|
| 〜6歳 | 年1回の健康診断 | 身体検査+血液検査(一般生化学・CBC)+尿検査。基礎値を把握し、将来の変化検出に備えます。 |
| 7〜10歳 | 3〜4ヶ月毎の検診 | 全項目を包括的に評価。甲状腺機能亢進症・糖尿病・高血圧など他のシニア疾患との鑑別も重要です。 |
| 11歳以上 | より高頻度の検診 | 3〜4ヶ月毎を目安に、症状の変化があればその都度評価します。 |
| CKD診断後 | ステージに応じて | Stage 2:3〜6ヶ月毎/Stage 3:2〜3ヶ月毎/Stage 4:1ヶ月毎(または症状変化時)。数値の「傾向」を追います。 |
腎臓病は早く見つけるほど、できることが多い病気です。気になるサインがなくても、シニア期に入ったら定期的な検診をおすすめします。腎泌尿器科の診療内容については、あわせてこちらもご覧ください。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- IRIS 慢性腎臓病ステージ分類システム/国際獣医腎臓病研究グループ(英語) — 本ページが用いる、クレアチニン・SDMA・タンパク尿・血圧によるステージ分類の一次情報。
- 犬と猫の腎機能障害/MSD獣医マニュアル・獣医師向け(英語) — CKDの診断・ステージ・治療管理を専門的に解説。

