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病気の概要
非心原性肺水腫(ひしんげんせいはいすいしゅ)は、心臓に問題がないのに、肺の中に水がしみ出してたまる状態です。心臓病による肺水腫(心原性肺水腫)と見た目のサインはよく似ていますが、体の中で起きていることは別物で、治療の考え方も変わります。
多くは、はっきりした引き金のあとに急激に始まります。首が絞まった直後、のどに物が詰まったあと、けいれん発作のあと、電気コードをかじった事故、重い全身の炎症——こうした出来事から数分から数時間で、呼吸が速くなり、苦しそうになります。
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心原性肺水腫との違い
| 心原性肺水腫 | 非心原性肺水腫 | |
|---|---|---|
| 仕組み | 心臓の渋滞で血管内の圧が上がり、水が押し出される | 血管の壁が傷んで水がもれる/胸の強い陰圧で水が引き出される |
| 背景 | 僧帽弁閉鎖不全症・心筋症などの心臓病 | 上気道の閉塞・けいれん・感電・敗血症・溺水など |
| 経過 | 心臓病の進行の果てに、多くは夜間〜明け方に | はっきりした引き金の数分〜数時間後に |
| 心エコー | 左心房の拡大など、心臓の異常が見つかる | 心臓は正常に見える |
| 治療の柱 | 利尿薬・強心薬・酸素 | 酸素と原因の除去。利尿薬は主役にならない |
| 見通し | 管理しながら年単位で過ごせることが多い | 原因による差が大きい。軽症は数日で回復、重症は厳しい |
心臓病の子の肺水腫については心原性肺水腫のページをご覧ください。
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何が起きているのか
肺胞と毛細血管を隔てる膜は、ごく薄い一枚です。ここが壊れる道筋は、大きく2つあります。
経路A
膜が傷んで、もれる(透過性の亢進)
敗血症・重い炎症・誤嚥・煙の吸入・毒物などによって、血管の壁そのものが傷みます。圧は正常でも、水だけでなくタンパク質まで肺胞へもれ出します。もっとも重い形が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)です。
経路B
強い陰圧と血流の集中で、引き出される
気道がふさがった状態で必死に息を吸うと、胸の中に強い陰圧が生まれ、血管から水が引き出されます。同時に、けいれんや頭のけが、感電では大量のアドレナリンが放出され、血液が肺の血管へ一気に押し込まれます。
共通
肺胞が水で満たされる
どちらの経路でも、行き着く先は同じです。肺胞に水がたまり、酸素が血液に入らなくなります。
結果
低酸素・呼吸不全
呼吸が速く努力性になり、チアノーゼが現れます。膜からタンパク質までもれている場合、水は抜けにくく、回復に日数がかかります。
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原因 ― 引き金になる出来事
犬と猫の非心原性肺水腫31例を集めた研究では、もっとも多い原因は上気道の閉塞で、全体の45%を占めていました。日常のなかで十分に起こりうる出来事が並びます。
上気道の閉塞(もっとも多い)
首輪やリードで首が絞まった、のどに物が詰まった、喉頭の麻痺や腫れ、短頭種の気道が一時的にふさがった、麻酔から覚める際に気道がふさがった——こうした場面のあとに起こります。閉塞が解除された直後に発症することが多く、「詰まりが取れて安心した数十分後」が危ない時間帯です。
けいれん発作・頭のけが(神経原性)
てんかん発作のあと、頭部外傷のあとに、脳からの強い指令で血圧と肺の血流が急上昇して起こります。発作そのものが治まっても、呼吸が速いままなら要注意です。てんかんの子では、発作後の呼吸の様子まで見てあげてください。
感電
電気コードをかじる事故は、子犬・子猫で今も珍しくありません。口の中のやけどが軽く見えても、数時間後に肺水腫が現れることがあります。
重い全身の炎症・敗血症(ARDS)
膵炎・腹膜炎・重症の感染症・広範囲の外傷など、全身の激しい炎症に続いて肺が傷む状態です。獣医療では2025年に国際的な診断の枠組み(ARDSVet)が改訂され、リスク因子の存在・1週間以内の発症・心原性肺水腫の除外・胸部画像の所見・酸素化の低下という基準で診断します。非心原性肺水腫のなかで、もっとも救命が難しい形です。
そのほか
- 溺水・煙の吸入:水や熱・煙の刺激で肺が直接傷つきます
- 誤嚥:胃の内容物が気道に入ると、肺炎と肺水腫の両方を同時に起こしえます
- 再膨張性:長くつぶれていた肺を一気にふくらませたあとに起こります
- 輸血にともなうもの:輸血後の急性の肺障害として起こることがあります
- 低アルブミン血症:単独で肺水腫を起こすことはまれですが、ほかの要因があるときに悪化させます
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症状・サイン
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診断・検査
診断は「肺に水がある」ことを確かめるだけでは終わりません。心臓が原因ではないと確かめてはじめて、非心原性と呼べます。
問診 ― 何があったか
この病気では、問診が検査と同じ重みを持ちます。直前の出来事(首輪・誤飲・発作・事故・麻酔・輸液)が分かれば、診断は一気に近づきます。思い当たることは、些細に思えても必ずお話しください。
胸部レントゲン検査
水のたまり方の分布を見ます。非心原性では背中側・後方に強く出ることが多く、心臓の大きさが正常であることも重要な手がかりになります。
心臓超音波検査(心エコー)
心原性を除外するために行います。左心房が大きくなっていない、弁や心筋に異常がないと確認できることが、治療方針の分かれ道になります。
酸素化・全身状態の評価
パルスオキシメーターや血液ガス検査で、どれだけ酸素が取り込めていないかを数字にします。重症度の判断と、人工呼吸が必要かどうかの判断材料になります。
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治療
治療の柱は2つだけです。酸素を届けて時間を稼ぐことと、引き金になった原因を取り除くこと。傷んだ肺そのものを直接治す薬は、残念ながらありません。
酸素の投与
酸素室やフローバイから始め、必要に応じて濃度と流量を上げていきます。それでも酸素が保てない場合は、麻酔をかけて人工呼吸器で管理する選択肢を検討します。
原因の除去
気道の確保、けいれんを止める、感染や炎症の治療など、引き金そのものへの対応です。ここが進まない限り、肺の状態も改善しません。
点滴の匙加減
脱水も過剰も悪化につながるため、量を細かく調整します。「水を絞れば肺の水が減る」という単純な話にはなりません。
安静と鎮静
興奮は酸素の消費を増やします。不安が強い子では、鎮静で呼吸の負担そのものを減らすことが治療になります。
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集中管理が必要なとき ― 夜間救急へお預けする判断
非心原性肺水腫の重い症例では、数時間おきの見回りでは足りません。酸素濃度を保ちながら、呼吸の様子・酸素化・循環を連続して見張り、悪化すればその場で人工呼吸へ切り替える——そうした体制が救命を左右します。
当院は診療時間内の酸素管理・集中治療を行いますが、夜間に人が常駐する体制ではありません。その子に24時間の看護が必要だと判断したときは、体制の整った救急施設へお預けし、翌日以降の管理を当院で引き継ぎます。抱え込まずに渡すことが、その子にとって最善だと考えています。転院をご提案したときは、当院で診られないという意味ではなく、その時間帯に必要な看護量が当院を超えているという意味です。
当院の診療時間終了後(夜間)に急変した場合は、下記の提携夜間救急病院へ直接ご連絡ください。 昼の休診時間や休診日の日中は、当院で対応できる場合がございますので、まずは当院まで一度ご連絡ください。
当院提携の夜間救急病院
TRVA 夜間救急動物医療センター
世田谷区深沢/20:00〜翌朝6:00
東京都世田谷区深沢8-19-12
夜間救急動物病院 目黒
目黒区碑文谷/20:00〜翌朝8:00
東京都目黒区碑文谷4-15-15 フジビル
※ 記載の対応時間・連絡先は変更される場合があります。受診前に各院の公式サイトで最新情報をご確認ください。
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予後
見通しは、引き金になった原因によって大きく分かれます。
| 原因 | 見通しの目安 |
|---|---|
| 上気道の閉塞のあと | 酸素を中心とした管理で、多くは1〜3日で改善する。後遺症を残さないことが多い |
| けいれん発作・頭のけがのあと | 支持療法で回復することが多い。ただし、もとの病気の管理が欠かせない |
| 感電 | やけどの程度と発症の早さによる。数日の経過観察が要る |
| 重い炎症・敗血症(ARDS) | 集中的な管理を行っても救命が難しいことが多い。数日以内に生死が分かれる |
大学病院で診療された犬30頭・猫1頭を集めた報告では、74%が退院に至った一方、人工呼吸器による管理を要した6頭では退院できたのは2頭でした。入院期間の中央値は48時間で、死亡と結びついた唯一の要素が「人工呼吸を要したこと」でした。つまり、人工呼吸に至らずに済むかどうかが、この病気の分かれ目になります。回復したあとは、引き金になった原因(喉頭の異常、けいれんを起こす病気、誤嚥しやすい背景など)を突き止めて手を打つことが、再発を防ぐ唯一の方法です。
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ご家庭でできる予防
この病気の引き金の多くは、日常の工夫で減らせます。
- 首輪よりハーネスを:引っぱるくせのある子、気管が弱い子ではとくに。首が絞まる状況をつくらないことが、いちばん確実な予防です
- 電気コードの対策:子犬・子猫のいるご家庭では、カバーをかける・届かない場所へまとめる
- のどに詰まらせない:丸のみしやすいおやつ・おもちゃのサイズを見直す
- けいれんを起こす子の管理:発作の回数を減らす治療を続け、発作後の呼吸まで観察する
- 短頭種の気道:いびき・ゼーゼーが強い子は、暑さと興奮を避け、短頭種気道症候群の評価を受けておく
- 誤嚥のリスクがある子:食事の姿勢や与え方を担当獣医師と相談する
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 小動物の非心原性肺水腫(JVECC・2023年・獣医師向け・英語) — 原因の分類・診断・治療・予後を体系的にまとめた総説。
- 犬と猫の非心原性肺水腫31例の後ろ向き研究(JVECC・2023年・獣医師向け・英語) — 本文で触れた「上気道の閉塞が45%」の出典。
- 獣医療における急性呼吸窮迫症候群 ― ARDSVet の定義(JVECC・2025年・獣医師向け・英語) — ARDSの国際的な診断基準の最新版。
- 犬の肺水腫/MSD獣医マニュアル・飼い主向け(英語) — 肺水腫全般の病態と治療をやさしくまとめた解説。

