01
病気の概要
短頭種気道症候群(たんとうしゅきどうしょうこうぐん、Brachycephalic Obstructive Airway Syndrome:BOAS、「短頭種気道閉塞症候群」とも)は、鼻先の短い犬種・猫種に生まれつき起こる、上気道(鼻から喉にかけての空気の通り道)が狭く、呼吸がしづらくなる病気です。
短頭種は、頭の骨が短く平たくつくられている一方で、その中におさまる鼻や喉の軟らかい組織の量はあまり変わりません。その結果、限られたスペースに組織が詰め込まれ、空気の通り道のあちこちが狭くなってしまうのです。フレンチ・ブルドッグ、パグ、シー・ズー、ボストン・テリア、ブルドッグ、そして猫ではペルシャやエキゾチック・ショートヘアなどが代表的です。
いびきや「ガーガー」という呼吸、暑さや運動への弱さは、しばしば「この犬種はこういうもの」として受け止められがちです。しかし、その多くは管理でき、外科的に改善できる余地があります。当院は「なぜ、その呼吸音が出ているのか」を問い、その子がどれだけ息のしやすさで困っているかを見極めることを診療の出発点にしています。
4つ
鼻の穴・軟口蓋・喉頭小嚢・気管など、複数の狭い部位が重なって起こる
ガーガー
興奮時・運動後・睡眠時に目立つ、努力性の呼吸音
暑さに弱い
放熱が苦手で、熱中症のリスクがとくに高い
02
何が起きているのか ― 狭さが狭さを呼ぶ悪循環
BOASは、ひとつの異常ではなく、複数の狭い部位が重なって起こります。もともとの構造(一次的な異常)に、狭い所を無理に空気が通ろうとする力が加わって、二次的な変化が進んでいきます。
もともとある狭さ(一次的な異常)
狭窄性外鼻孔(きょうさくせいがいびこう)
鼻の穴そのものが狭く、息を吸うときにさらにつぶれて閉じ気味になります。BOASの入り口にあたる、もっとも代表的で、かつ改善しやすい異常です。
長く厚い軟口蓋(なんこうがい)
口の奥の「のどちんこ」につながる軟口蓋が長すぎて、喉の入り口に垂れ込み、空気の通り道をふさぎます。「ガーガー」という音の大きな原因です。
鼻の中の構造(鼻甲介)の異常
鼻の中で空気を分けている薄いひだ(鼻甲介)が過剰に発達し、鼻腔の奥をふさぐことがあります。外からは見えず、CTや内視鏡で評価します。
気管の低形成(きかんていけいせい)
気管(空気の本管)そのものが生まれつき細い子がいます。とくにブルドッグやパグでみられ、症状を重くする要因になります。
進行して起こる変化(二次的な異常)
狭い通り道を無理に空気が通ろうとすると、吸うたびに気道の中が強く引っぱられます。この力が長年かかると、次のような変化が加わり、狭さがさらに狭さを呼ぶ悪循環に進みます。
STEP 1
狭い所を無理に吸う
狭窄性外鼻孔や長い軟口蓋のため、息を吸うのに強い力が必要になり、気道の中が強い陰圧(引っぱる力)にさらされる。
STEP 2
組織がむくみ、引き込まれる
強い陰圧で喉の粘膜がむくみ、喉頭の脇にある小さな袋(喉頭小嚢)や扁桃が気道側へ引き込まれて外反し、通り道をさらにふさぐ。
STEP 3
喉頭虚脱(こうとうきょだつ)
長年の負担で喉頭を支える軟骨がもろくなり、喉頭そのものがつぶれてくる。ここまで進むと呼吸苦は重くなり、改善も難しくなる。
STEP 4
全身への影響
慢性的な呼吸苦は、熱中症のリスク、睡眠の妨げ、胃食道の逆流(吐き戻し)などにつながる。だからこそ、悪循環が進む前の対処が大切。
03
好発犬種・猫種
短頭種であることそのものが、いちばんのリスク因子です。頭が短く平たいほど、また鼻の穴が狭いほど、症状は出やすくなります。
- 犬:フレンチ・ブルドッグ、パグ、ブルドッグ(イングリッシュ・ブルドッグ)、シー・ズー、ボストン・テリア、ペキニーズ、ボクサー、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルなど。とくにフレンチ・ブルドッグとパグは、大規模な疫学調査でBOASのリスクが極めて高いことが示されています。
- 猫:ペルシャ、エキゾチック・ショートヘア、ヒマラヤンなど、極端に鼻先の短い猫種。鼻づまり・涙やけ(流涙)・口を開けた呼吸などのかたちで現れることがあります。
- 肥満は犬種を問わずBOASを悪化させる最大の増悪因子のひとつです。
04
症状・気づき方
BOASのサインは、日常のなかに溶け込んで見過ごされがちです。次のような様子は、「その子の個性」ではなく、呼吸の負担のサインかもしれません。
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診断・検査
診断の目的は、「どの部位が、どれくらい狭くなっているか」を見極め、その子に必要な治療を組み立てることです。負担の少ない検査から順に進めます。
問診・視診・聴診
鼻の穴の狭さ、呼吸音、いびきや運動での疲れやすさ、暑さへの弱さ、吐き戻しの有無をていねいにうかがい、確認します。ご家庭で撮った呼吸の動画がとても役立ちます。
呼吸機能グレードの評価
安静時の呼吸音を聴き、短時間の軽い運動の前後で呼吸の変化を評価する方法(英国ケンブリッジ大学などの呼吸機能グレード)が国際的に用いられています。「今どれくらい困っているか」を客観的に共有できます。
喉頭・咽頭の検査(鎮静・麻酔下)
軟口蓋の長さ、喉頭小嚢や扁桃の外反、喉頭虚脱の程度は、鎮静・麻酔をかけて口の奥や喉頭を直接観察して評価します。手術の適応と術式を決める大切な検査です。
レントゲン・CT
胸部レントゲンで気管の太さや肺・心臓の状態を確認します。鼻腔内の構造(鼻甲介の異常)や全体像を精密に評価するには、CTが有用です。必要に応じて提携施設と連携します。
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治療 ― 外科と内科、それぞれの役割
BOASの治療には、狭い部分を物理的に広げる外科治療と、症状を和らげ悪化を防ぐ内科・生活管理の両輪があります。どちらが適しているかは、症状の程度・年齢・どの部位が狭いか・全身状態によって変わります。
外科治療 ― 通り道を広げる
手術は、生まれつきの骨格を変えるものではなく、狭くなっている軟らかい組織を整えて、空気を通りやすくすることが目的です。代表的なものに次があります。
外鼻孔の拡大(鼻翼形成)
狭い鼻の穴を切開して広げ、鼻からの呼吸を楽にします。効果が実感されやすく、若いうちに行うと悪循環の進行を防ぎやすい処置です。
軟口蓋の短縮(口蓋形成)
長すぎる軟口蓋を適切な長さに整え、喉への垂れ込みをなくします。「ガーガー」という音や呼吸苦の大きな改善につながります。
喉頭小嚢の切除
気道側へ外反した小さな袋(喉頭小嚢)を取り除き、喉頭の入り口を広げます。軟口蓋の手術とあわせて行われることがあります。
重度例(喉頭虚脱)への対応
喉頭そのものがつぶれた重度例は治療が難しく、専門的な判断と設備を要します。適応に応じて、実施可能な提携施設をご紹介します。
内科・生活管理 ― 悪化を防ぐ土台
手術をする・しないにかかわらず、日々の管理はすべての短頭種に共通する土台です。
- 適正体重を保つ……肥満はBOASを悪化させる最大の要因のひとつ。減量だけで呼吸が楽になる子もいます。
- 暑さ・湿度・興奮を避ける……夏場はエアコンで室温・湿度を管理し、散歩は涼しい時間に。興奮しすぎない工夫も大切です。
- 首を圧迫しないハーネスに……首輪で引くと気道を圧迫します。お散歩は胸で支える胴輪へ。
- 炎症・むくみへの対処……気道の炎症や胃食道逆流には、状態に応じてお薬で対応することがあります。
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ご家庭での管理・予防
診察室の外での毎日の工夫が、その子の呼吸のしやすさを大きく左右します。BOASは、ご家庭でできることがとても多い病気です。
夏を安全に越える
短頭種は熱中症にとくに弱い体質です。真夏でなくても、湿度の高い日・興奮・運動だけで危険が高まります。室温と湿度を管理し、日中の暑い時間の散歩は避けましょう。
体重を「呼吸のために」保つ
わずかな体重増加でも、狭い気道はさらに圧迫されます。適正体重の維持は、もっとも手軽で効果的なケアです。食事量やおやつの見直しはご相談ください。
「いつもの呼吸」を知っておく
ふだんのいびき・呼吸音・運動での疲れやすさを知っておくと、悪化のサインに早く気づけます。呼吸の様子を動画に残しておくと、診察の大きな手がかりになります。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 短頭種症候群/ACVS・米国獣医外科学会(英語) — 狭窄性外鼻孔・長い軟口蓋・喉頭小嚢の外反という構成要素と、外科治療・予後を専門学会が解説。
- 短頭種気道症候群(BOAS)/コーネル大学 Riney Canine Health Center(英語) — 病態・症状・診断・内科/外科治療を大学の健康情報として体系的に整理。
- 呼吸機能グレード評価スキーム(RFG)/英国ケネルクラブ・ケンブリッジ大学(英語) — 運動負荷を用いてBOASの重症度を0〜3で評価する、国際的に用いられる仕組みの解説。

