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MAST CELL TUMOR

犬・猫の肥満細胞腫

「ただのしこり」に見えて、中身は千差万別。だから、grade(悪性度)まで見極めます。

肥満細胞腫は、犬でもっとも多い皮膚の悪性腫瘍のひとつです。やっかいなのは、見た目がイボや脂肪のかたまりと区別がつきにくく、しかも一つひとつで“性格”がまるで違うこと。おとなしく手術だけで治るものから、転移しやすいものまで幅があります。だからこそ、細胞診で早く見つけ、病理でグレード(悪性度)まで見極め、その子に合った切除と治療を組み立てることが何より大切です。

  • 腫瘍科
  • 皮膚腫瘍

この記事は 院長/獣医師 大塚 元貴 が監修しています(最終監修日:)。

とくに気をつけたい犬種・猫種

好発(かかりやすい傾向)が知られている犬種・猫種です。必ずかかるわけではありません。

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病気の概要

肥満細胞腫(Mast Cell Tumor)は、肥満細胞(マスト細胞)という免疫細胞が腫瘍化したものです。肥満細胞は、本来アレルギーや炎症に関わる細胞で、内部にヒスタミンやヘパリンなどの詰まった顆粒を持っています。この顆粒が放出(脱顆粒)されると、腫れ・赤み・かゆみや、ときに胃潰瘍などの全身症状を引き起こすのが、この腫瘍の特徴です。

犬ではもっとも多い皮膚の悪性腫瘍のひとつ(皮膚腫瘍の約2割との報告)。見た目だけでは良性のイボや脂肪腫と区別がつかず、しかも一つひとつで悪性度(性格)が大きく異なります。「ただのしこり」と決めつけないことが、この病気ではとても大切です。

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好発 ― どんな子に多いか

  • :中〜高齢に多く(報告では8〜10歳が中心)、ボクサー、パグ、ボストンテリア、ラブラドール/ゴールデン・レトリーバー、フレンチ/イングリッシュ・ブルドッグ系などで多いとされます。ボクサーやパグは比較的低グレードが多い傾向も報告されています。体幹・四肢に多く発生します。
    • 皮膚型——頭頸部・四肢に多く、犬より概しておとなしい(多くは良性的な)挙動。自然に小さくなることもあります。シャム猫に多いとされます。
    • 内臓型——脾臓や消化管に発生するタイプで、皮膚のしこりを伴わないことがあり、皮膚型より慎重な対応が必要です。

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症状・気づきのサイン

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診断・検査

肥満細胞腫は、細胞診で比較的診断がつきやすい腫瘍です。ただし「悪性度」と「取り切れたか」は、切除した組織の病理検査でしか分かりません。ここが治療方針を決める要になります。

STEP 1

細胞診(針生検)

針で細胞を採り、特徴的な顆粒を持つ肥満細胞を確認します。報告では9割以上で診断がつく、実用性の高い検査です。

STEP 2

ステージング(広がりの評価)

所属リンパ節の細胞診、腹部超音波(脾臓・肝臓)、胸部X線などで、転移の有無・広がりを調べます。

STEP 3

病理組織検査とグレード判定

切除した腫瘍を病理検査に出し、悪性度(グレード)と切除の完全性(マージン)を確認。必要に応じて予後マーカーも調べます。

グレード(悪性度)― 2つのものさし

肥満細胞腫の見通しは、病理グレードで大きく変わります。現在は次の2つを併記して評価するのが一般的です。

分類段階考え方
PatnaikGradeⅠ〜Ⅲ分化度・浸潤・細胞の形などで3段階に。Ⅰは高分化でおとなしく、Ⅲは悪性度が高い
Kiupel(2段階)low / high grade判定のばらつきを減らす目的。10視野の有糸分裂像が7以上、多核細胞や奇怪核が目立つなどで high grade と判定

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治療

治療は、グレード・切除マージン・ステージ(広がり)の3点をもとに組み立てます。低グレードで完全に切除できれば手術だけで治ることが多く、高リスクでは全身的な治療を組み合わせます。

外科的広範切除(第一選択)

周囲の健常組織を十分な余白(マージン)をつけて広く切除します。近年はグレードに応じた「比例マージン」の考え方が主流で、低〜中グレードでは側方1〜2cm+深部の筋膜を目安に、高グレードではより広い余白を確保します。切除後は必ず病理で取り切れたかを確認します。

放射線療法(提携施設)

切除しきれなかった場合の術後補助や、手術が難しい部位に用います。当院に装置はないため、適応と判断される場合は提携施設をご紹介し、その後のフォローは当院で継続します。

化学療法(内科治療)

高グレード・転移例・多発例などに、ビンブラスチン+プレドニゾロンやロムスチンなどを用います。全身への広がりを抑える役割です。

分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)

KITなどを狙い撃ちするトセラニブ・マシチニブc-KIT変異のある腫瘍で効きやすいとされますが、変異のない例でも反応することがあります。従来の抗がん剤とは異なる「標的治療」です。

化学療法(抗がん剤治療)の総論を読む

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治療計画の考え方

  • 低グレード+完全切除:手術で治癒が期待でき、以後は定期的な触診・観察が中心。多発しやすい犬種では新しいしこりにも注意します。
  • マージンが不完全:追加切除・放射線などで取り残しに対処します。
  • 高グレード/転移あり/c-KIT変異・高Ki-67などの高リスク:手術に全身療法(化学療法・分子標的薬)を組み合わせます。
  • いずれも、所属リンパ節・脾臓・肝臓などの再発・転移のチェックを、診察・画像・血液検査で続けます。

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予後 ― 見通しを左右するもの

見通しは、次のような要素で変わります。数値は集団での傾向で、その子ごとに幅があります。

  • 病理グレード(最重要)・有糸分裂指数
  • c-KIT変異/KIT染色パターン・Ki-67
  • 発生部位・腫瘍の大きさ・転移の有無
  • 完全に切除できたか、初発か再発か

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猫の肥満細胞腫について

  • 皮膚型:多くは外科切除で治癒が期待でき、再発は比較的少ないとされます。ただし低分化なタイプはより慎重な対応が必要です。
  • 脾臓型(内臓型)脾臓摘出(必要に応じて化学療法を併用)により、生存期間が有意に延びると報告されています(無治療より大きく改善)。皮膚のしこりがなくても、食欲不振・嘔吐・お腹の張りなどで見つかることがあります。

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ご家庭でのケアと、当院の考え方

ご家庭では、しこりをむやみに触らず、大きさや見た目の変化・数の増減を観察してください(写真に日付を添えて記録すると診察に役立ちます)。手術後は、胃潰瘍のサイン(嘔吐・黒い便・食欲不振)や、新しいしこりに気を配っていただけると、早期の対応につながります。

肥満細胞腫は「幅の広い」病気です。おとなしいものを大げさに治療しすぎず、危険なものを見逃さない——その見極めのために、私たちはグレードや「なぜ」まで掘り下げます。年齢・費用・全身状態など、どんな事情があっても、その子に何ができるかをご家族と一緒に考えます。その子とご家族が幸せに過ごせることを目標に、選択肢を一緒に探します。

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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)

より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。

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Q&A

よくあるご質問

小さなしこりですが、日によって大きさが変わります。様子を見ても大丈夫ですか。
大きさが変動するしこりは、むしろ肥満細胞腫を疑うサインのひとつです。肥満細胞腫は、刺激で内部の顆粒(ヒスタミンなど)を放出すると、周りが腫れたり赤くなったりして大きく見え、落ち着くと縮む、という変化を繰り返すことがあります。見た目だけで良性・悪性は判断できません。針を刺して細胞を調べる細胞診は、肥満細胞腫については比較的診断がつきやすい検査です。「よくあるイボ」と決めつけず、一度お見せください。
しこりを強く触ったり、揉んだりしてはいけないと聞きました。なぜですか。
肥満細胞腫を強く刺激すると、細胞の中のヒスタミンなどが一気に放出され(脱顆粒)、その場が赤く腫れたり、まれに全身的な反応(血圧低下や胃の潰瘍など)を起こすことがあるためです。ご家庭ではしこりをむやみに触ったり揉んだりせず、大きさや見た目の変化を観察する程度にとどめてください。手術の際も、当院では過度な圧迫を避け、必要に応じて抗ヒスタミン薬などで脱顆粒に備えながら処置を行います。
手術で取れば、それで安心してよいですか。
グレードとマージン(切除の余白)によります。低グレードで、周囲を十分な余白をつけて完全に切除できていれば、手術だけで治ることが多く、その後は経過観察が中心になります。一方、高グレードだったり、切除の断端に腫瘍が残っていたりする場合は、追加の切除・放射線・内科治療を検討します。だからこそ、切除した腫瘍は必ず病理検査に出し、「悪性度」と「取り切れたか」を確認することが重要です。結果をふまえて、その後の方針を一緒に決めます。
「c-KIT変異」を調べると、何が分かるのですか。
肥満細胞腫の一部では、細胞の増殖を促すスイッチ役のタンパク(KIT)の遺伝子に変異があり、腫瘍が増えやすくなっていることがあります。この変異があると再発・転移のリスクがやや高い一方で、その変異を狙い撃ちする分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)が効きやすいという利点にもつながります。つまりc-KIT検査は、見通しの評価と、治療薬を選ぶ手がかりの両方に役立ちます。すべての症例で必要なわけではなく、グレードや状況に応じてご提案します。
抗ヒスタミン薬や胃薬を一緒に処方されるのはなぜですか。
肥満細胞腫は、内部にヒスタミンを含んでおり、これが放出されると胃酸が増えて胃・十二指腸潰瘍を起こしたり、皮膚の腫れやかゆみの原因になったりします。そこで、ヒスタミンの働きを抑えるH1・H2ブロッカー(抗ヒスタミン薬・胃薬)を、手術の前後や進行例で用いることがあります。黒いタール状の便(メレナ)、嘔吐、食欲不振は胃潰瘍のサインのことがあるため、みられたら早めにご相談ください。お薬の種類・量は担当獣医師が判断します。

このページは一般的な情報提供を目的としています。実際の診断・治療方針は その子の状態によって異なります。個別の症状や薬の使い方については、 自己判断せず担当獣医師にご相談ください。