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病気の概要 ― 子犬・子猫の「歯並び」の問題
子犬・子猫の歯は、はじめに生える乳歯(にゅうし・脱落歯)から、大人の歯である永久歯へと生え替わります。この生え替わりの時期に起こりやすいのが、ここで扱う2つの問題です。
ひとつは乳歯遺残(にゅうしいざん、persistent deciduous teeth)——本来抜けるはずの乳歯が抜けずに残ってしまうこと。もうひとつは不正咬合(ふせいこうごう、malocclusion)——上下の歯やあごの咬み合わせがずれてしまうことです。この2つは深く関わり合っていて、残った乳歯が永久歯の向きを妨げ、不正咬合を招くこともあります。
大切なのは、これらは「見た目」の問題ではなく、痛み・お口の外傷・将来の歯周病にかかわる健康の問題だということです。そして、成長期の若いうちだからこそ、シンプルな処置で先々のトラブルを防げる場面が多くあります。
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乳歯遺残 ― なぜ「残った乳歯」が問題なのか
犬・猫の乳歯は、多くが生後6〜7か月ごろまでに永久歯へと生え替わります。永久歯が生えてきているのに乳歯が抜けずに残ると、同じ場所に歯が2本並ぶ状態になります。とくに犬歯(けんし)と切歯(せっし・前歯)で起こりやすく、小型犬や短頭種に多くみられます。
この「2本並び」が、次の2つのトラブルを生みます。
若いうちからの歯周病
2本の歯が接する狭いすき間は、歯垢(プラーク)が溜まりやすく、歯みがきも届きにくい場所です。汚れと細菌が停滞し、本来なら中高齢で問題になる歯周病が、若いうちから進んでしまうことがあります。
永久歯の向きを妨げる(不正咬合)
残った乳歯が「場所ふさぎ」になって、生えてこようとする永久歯を本来とは違う方向へ押しやり、咬み合わせのずれ(不正咬合)を招くことがあります。とくに乳歯の犬歯が残ると、永久歯の犬歯が正しい位置に収まれません。
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不正咬合の種類 ― 「あごのずれ」か「歯の傾き」か
不正咬合は、獣医歯科の国際的な基準(AVDC)で、大きく次のように分類されます。「あごの骨格そのものがずれているのか(骨格性)」「あごは正常だが個々の歯が傾いているのか(歯性)」を見分けることが、対応を考える出発点になります。
| 分類 | どんな状態か | 具体例 |
|---|---|---|
| クラス1(歯性) | あごの位置関係は正常。個々の歯だけが正しい向きから外れている | 下顎犬歯の内側傾斜(base narrow・後述)、切歯のクロスバイト、歯の回転・叢生(そうせい・混み合い) |
| クラス2(骨格性) | 下あごが相対的に短い/後方にある(上あごが長く見える。オーバーバイト) | 下顎の犬歯が上あごの歯ぐきや口蓋に当たりやすい |
| クラス3(骨格性) | 下あごが相対的に前に出る(アンダーバイト・受け口) | 短頭種(シー・ズー、ボクサーなど)に多い。上下の切歯が反対に咬む |
| クラス4 | 上下のあごが左右・前後・上下に非対称にずれる(いわゆるワイバイト) | 顔の左右で咬み合わせが異なる |
base narrow(ベースナロー)― 若い犬で見逃せない咬み合わせ
歯性の不正咬合の中でとくに注意したいのが、下顎犬歯の内側への傾斜(linguoverted mandibular canine、通称ベースナロー)です。下の犬歯が内側に倒れて生え、口を閉じたときに上あごの歯ぐきや口蓋(口の天井)に先端が突き刺さってしまうことがあります。乳歯の段階から始まっていることも多く、放置すると強い痛みや、口蓋に穴があく(口と鼻がつながる)原因にもなります。
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問題になる咬み合わせと、ならない咬み合わせ
ここが、この分野でもっとも大切な考え方です。咬み合わせのずれは、必ずしもすべてが治療の対象ではありません。判断の分かれ目は、その咬み合わせが「外傷性かどうか」——つまり、歯が口の中のどこかを傷つけて、痛みや外傷を起こしているかどうかです。
治療を検討する ― 外傷性咬合
歯が、歯ぐき・口蓋・ほかの歯などに当たって、痛み・穴あき・出血・すり減りを起こしている咬み合わせです。とくに下顎犬歯が上あごに突き刺さるベースナローは代表例。放置すると痛みが続き、感染や口蓋の穴(口鼻瘻管)につながることもあるため、早めの対応が必要です。
経過を見てよいことが多い ― 非外傷性の咬合
見た目にはずれていても、どの歯も口の中を傷つけておらず、痛みなく食べられている咬み合わせです。この場合は、無理に治さず定期的に確認していくことも選択肢になります。当院が「見た目のためだけの矯正」を行わないのは、この考え方に基づいています。
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診断 ― 生え替わりの時期と、咬み合わせを確かめる
診断の中心は、お口の中をよく見て、咬み合わせを一歯ずつ評価することです。とくに成長期は、生え替わりのタイミングに合わせてチェックすることが大切です。
口腔内の視診・咬合評価
上下の歯の咬み合わせ、犬歯の位置、歯が口の中のどこかに当たっていないかを確認します。歯ぐきや口蓋に、歯が当たった跡・傷・へこみがないかも丁寧に見ます。
生え替わりのチェック
永久歯が生え始めているのに乳歯が残っていないか、残っている乳歯が永久歯の向きを妨げていないかを確認します。生え替わりの時期(多くは生後6〜7か月ごろまで)に合わせた受診が、早めの対応の鍵です。
歯科レントゲン(必要に応じて)
永久歯が歯ぐきの中に埋まっていないか(埋伏歯)、歯根や周囲の骨の状態はどうか、乳歯の歯根が残っていないかなど、外から見えない部分を評価します。全身麻酔下の精密検査で確認します。
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治療 ― 機能と福祉を守るために
治療の目的は、くり返しになりますが見た目を整えることではなく、痛みをとり、口の中の外傷を防ぎ、食べる機能を守ることです。その子の年齢・咬み合わせの種類・外傷の有無に応じて、次のような方法を組み合わせます。なお、遺残した乳歯や原因となる歯を抜く処置の進め方は、抜歯(外科的抜歯)のページでくわしく解説しています。
乳歯の早期抜歯(インターセプティブな処置)
永久歯が生えてくる前後の早い段階で、原因となっている乳歯を抜くことで、永久歯が正しい位置に収まる余地を作り、歯垢の停滞による歯周病も防ぎます。ただし、発育中の永久歯を傷つけないよう繊細な技術が求められる処置で、状況によっては専門的な対応が望ましい場合もあります。
外傷性咬合への対応(永久歯)
下顎犬歯が上あごに刺さるような外傷性の咬み合わせには、歯を正しい位置へ動かす矯正的な処置、歯の高さを整えて生きた神経を守る処置(生活歯髄切断・歯冠形成)、あるいは原因の歯を抜く、といった選択肢があります。いずれも「口の外傷と痛みを解消する」ことが目的です。
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若いうちにできること ― 予防と定期チェック
乳歯遺残・不正咬合は、若いうちに気づいて手を打つほど、シンプルな対応で先々のトラブルを防げるのが特徴です。子犬・子猫を迎えたら、次のことを心がけていただくと安心です。
ステップ1:生え替わりの時期にお口をチェック
多くは生後6〜7か月ごろまでに乳歯から永久歯へ生え替わります。この時期に、乳歯が残っていないか・咬み合わせにずれがないかを確認します。ワクチンや健康診断の機会にあわせて、お口も見せてください。
ステップ2:避妊・去勢と同時の処置も選択肢に
抜歯が必要な乳歯がある場合、全身麻酔を使う避妊・去勢手術とタイミングを合わせれば、麻酔の機会を一度にまとめられます。生え替わりの状況を見ながら、最適なタイミングをご相談します。
ステップ3:若いうちからのデンタルケア習慣
歯が混み合いやすい小型犬・短頭種はとくに、若く健康なうちから歯みがきに慣らしておくことが、将来の歯周病予防につながります。無理のない始め方は、スタッフが具体的にお伝えします。
歯垢が溜まって進む歯周病については、犬の歯周病のページもあわせてご覧ください。乳歯遺残や歯の混み合いは、若い時期からの歯周病の入り口になります。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 歯科用語・咬合/不正咬合の分類(クラス1〜4・linguoversion など)/AVDC・米国獣医歯科学会(英語) — 本ページが用いる咬み合わせと不正咬合の分類、乳歯遺残の用語の一次情報。
- 小動物の口・歯の発育の異常(乳歯遺残・不正咬合)/MSD獣医マニュアル・獣医師向け(英語) — 乳歯遺残・不正咬合の病態と治療の考え方を体系的に解説。

