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抜歯という選択について ― 「残す」を基本に、それでも抜く理由
当院の基本姿勢は、はっきりしています。歯は、できる限り残す。歯は食べるための大切な道具であり、簡単に抜いてよいものではありません。ですから私たちは、歯周病が軽いうちに進行を止めたり、破折した歯を残す治療を検討したりと、まず「残せないか」を考えます。
けれど、それでも抜いたほうがよい歯があります。歯を支える骨が溶けてグラグラになった歯、根の先まで割れた歯、感染の温床になっている歯——こうした歯は、残しても痛みと感染が続くだけで、その子を苦しめ続けます。抜歯は「歯を失う処置」ではなく、痛みと感染の原因を取り除いて、その子を楽にする処置なのです。
全身麻酔
抜歯は必ず麻酔下で行います。無麻酔での抜歯はできません
術前・術後
歯科レントゲンで歯根と骨を評価し、残根がないか確認します
10〜14日
抜歯した歯ぐきの傷がおおむね治るまでの目安(幅があります)
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抜歯が必要になる主な状況
「どんなときに抜歯を考えるのか」を知っておくと、診察でのご説明が分かりやすくなります。いずれも共通するのは、その歯を残すことが、痛みや感染につながっているという点です。それぞれの疾患の詳しい解説もご用意しています。
重度の歯周病(歯槽骨の吸収)
歯を支える骨(歯槽骨)が大きく溶けて歯がグラグラになると、残しても痛みと感染が続きます。動揺した歯は抜歯が根治的な治療になります。 詳しくは犬の歯周病をご覧ください。
歯の吸収病巣(とくに猫)
歯が自分自身の細胞に溶かされていく病気で、神経が露出すると激しい痛みを伴います。レントゲン診断に基づき、抜歯や歯冠切除で痛みの元を絶ちます。 詳しくは歯の吸収病巣をご覧ください。
保存できない破折・露髄
硬いものを噛んで歯が割れ、神経(歯髄)が露出すると、強い痛みと感染が起こります。歯を残せない場合は、痛みの元を絶つために抜歯します。 詳しくは歯の破折をご覧ください。
乳歯遺残・不正咬合
抜けるべき乳歯が残ると、歯並びが乱れ、狭い隙間に歯垢が溜まって若くして歯周病が進みます。残った乳歯を抜いて、永久歯の生える場所を確保します。 詳しくは乳歯遺残・不正咬合をご覧ください。
猫の難治性口内炎
自分の歯垢に対する過剰な免疫反応で、口全体に強い炎症と痛みが起こる病気です。内科でコントロールできない場合、原因となる歯を大幅に抜く(全臼歯抜歯・全顎抜歯)ことが有効なことがあります。 詳しくは猫の難治性口内炎をご覧ください。
保存できない失活歯・残根
神経が死んでしまった歯や、以前の処置で根が残ってしまった残根は、感染源になり続けます。レントゲンで確認し、外科的に取り除きます。
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なぜ全身麻酔が必要なのか
抜歯は、必ず全身麻酔のもとで行います。「麻酔をかけずに抜けないの」と思われるかもしれませんが、無麻酔での抜歯はできません。理由は、大きく3つあります。
レントゲンで歯根と骨を評価するため
歯は、見えている歯冠より、歯ぐきに隠れた歯根のほうが大きな部分を占めます。どこまで骨が溶けているか、根がどんな形をしているかは、歯科レントゲンを撮って初めて分かります。動く動物ではレントゲンも撮れず、安全な抜歯もできません。
痛みを与えず、確実に処置するため
抜歯は、歯ぐきを扱い、骨に埋まった根を外す処置です。麻酔なしに鋭い器具を使えば、強い痛みを与え、お口の中を傷つけてしまいます。全身麻酔と局所麻酔(神経ブロック)を組み合わせ、痛みを感じない状態で丁寧に行います。
気道を守り、誤嚥を防ぐため
処置中は水や削片、血液がお口に溜まります。全身麻酔では気管にチューブを入れて気道を確保するため、これらを誤って飲み込む(誤嚥する)危険を防げます。無麻酔ではこの安全を確保できません。
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抜歯の流れ
抜歯は、思いつきで歯を引き抜くような処置ではありません。術前の評価から術後の確認まで、順序立てて安全に進めます。当院では、次のような流れで行っています。
ステップ1:術前検査・全身状態の評価
麻酔を安全にかけられるか、血液検査などで心臓・肝臓・腎臓の機能を事前に評価します。その子の年齢や体質に合わせた麻酔プランを立てます。
ステップ2:全身麻酔と局所麻酔(神経ブロック)
生体モニターで管理しながら全身麻酔をかけ、気管にチューブを入れて気道を守ります。抜歯する部位には神経ブロックを効かせ、痛みを抑えたうえで処置を始めます。
ステップ3:歯科レントゲンで一本ずつ評価
抜く前に歯科レントゲンを撮り、歯根の形、骨の溶け方、隣の歯との位置関係を確認します。ここで「本当に抜くべきか、残せるか」を最終判断します。
ステップ4:抜歯(単根歯は脱臼、多根歯は分割)
歯ぐきの付着を切り離し、器具で歯を少しずつ動かして(脱臼させて)外します。根が複数ある歯は、根ごとに分割してから外します。骨に深く埋まった歯や割れやすい歯は、歯ぐきを開いて骨を一部削る「フラップ法(外科的抜歯)」で、無理なく取り出します。
ステップ5:歯ぐきの縫合
抜いたあとの穴(抜歯窩)は、必要に応じて歯槽骨の縁をなめらかに整え、歯ぐきを縫い合わせて閉じます。傷口をふさぐことで、食べカスの侵入を防ぎ、治りを早めます。
ステップ6:術後レントゲンで残根を確認
抜歯のあと、もう一度レントゲンを撮り、取り残した歯根(残根)がないかを必ず確認します。残根は将来の痛みや感染の原因になるため、この最終チェックがとても大切です。
ステップ7:覚醒・お迎え
麻酔から完全に覚め、体調が安定するまで慎重に観察します。お迎え時に、実施した内容と術後の注意点を詳しくご説明します。大きな抜歯を伴う場合は、1泊入院となることがあります。
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抜き方の違い ― 単根歯・多根歯とフラップ法
同じ「抜歯」でも、歯の形や埋まり方によって方法が変わります。無理な力で引き抜くのではなく、その歯にいちばん負担の少ない方法を選ぶのが、上手な抜歯のポイントです。
TYPE 1
単根歯(根が1本)― 脱臼させて外す
切歯や一部の前臼歯など、根が1本の歯です。歯根膜(歯と骨をつなぐ繊維)を少しずつ切りながら、器具でゆっくり歯を動かし、脱臼させて外します。
TYPE 2
多根歯(根が複数)― 分割してから外す
奥歯や犬歯まわりには、根が2〜3本ある歯があります。根がまたがったまま引くと折れやすいため、歯を根ごとに分割(sectioning)してから、一本ずつ外します。これが多根歯を安全に抜くための基本です。
TYPE 3
フラップ法(外科的抜歯)― 歯ぐきを開いて取り出す
骨に深く埋まった歯、大きな犬歯、割れやすく残根が出やすい歯では、歯ぐきを切開して開き(フラップ)、根を覆う骨を一部削って歯を取り出します。取り出したあとは骨の縁を整え、フラップを元に戻して縫合します。歯ぐきや粘膜に余計な負担をかけず、残根も防げる、確実な方法です。
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術後のケアと回復
抜歯のあとは、傷が治るまでの短い期間、少しだけ気をつけてあげる時間が必要です。とはいえ、多くの子は思ったよりずっと元気で、痛みが取れたことで、かえって表情が明るくなることがよくあります。
痛みのコントロール
術中の神経ブロックに加え、術後も鎮痛薬でしっかり痛みを抑えます。指示された鎮痛薬は、自己判断で中止せず、最後まで続けてあげてください。
やわらかい食事から
傷が治るまでの数日は、ふやかしたフードや、やわらかいウェットフードをおすすめします。多くの場合、傷が落ち着けば元のドライフードに戻せます。硬いおやつやおもちゃは、傷が治るまで控えます。
経過のチェック
抜歯した歯ぐきの傷は、おおむね10〜14日で治ってきます。当院では処置の1〜2週間後を目安に、治り具合を確認します。よだれの増加、口を気にする、出血が続くなどがあれば、その前でもご相談ください。
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抜歯についてよくある誤解
抜歯には、いくつかの「よくある思い込み」があります。ここを正しく知っておくと、必要な処置をためらわずに選べます。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 犬と猫の歯周病(動揺歯の抜歯・抜歯後のQOLを含む)/MSD獣医マニュアル・獣医師向け(英語) — なぜ保存できない歯を抜くのか、抜歯が根治的な治療になる理由を解説。
- WSAVA 世界小動物歯科ガイドライン/世界小動物獣医師会(英語) — 抜歯を含む歯科処置と麻酔・鎮痛の国際的なベストプラクティス。
- 歯科用語・抜歯や外科処置の標準名称/AVDC・米国獣医歯科学会(英語) — 抜歯・外科的抜歯・歯槽骨整形・残根などの標準用語の一次情報。

