前十字靭帯断裂そのものの概要・診断については前十字靭帯断裂のページを、3つの術式の比較と選び方については手術のページをご覧ください。このページでは、TTA(Tibial Tuberosity Advancement:脛骨粗面前進術)について詳しく解説します。
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この手術の目的と適応
TTAは2000年代初頭にスイスで確立された術式です。TPLOと同じく靭帯を縫い直さずに膝を安定させる手術ですが、力の消し方が違います。
膝のお皿から脛骨の前面へ伸びる膝蓋腱は、脛骨を前へ引く働きをしています。この腱の向きと脛骨上面のなす角度(膝蓋腱角)が90度になると、体重がかかっても脛骨は前へすべり出さなくなることが分かっています。TTAでは、脛骨の前面にある骨の出っ張り(脛骨粗面)を前方へ移動させて膝蓋腱の向きを変え、この角度をおよそ90度に作り替えます。
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膝蓋腱角という数字
TPLOの設計図が脛骨高平角であるのに対し、TTAの設計図は膝蓋腱角(Patellar Tendon Angle:PTA)です。決められた肢の角度でレントゲンを撮り、膝蓋腱と脛骨上面のなす角度を測ります。
目標はおよそ90度(±5度)。この角度から逆算して、脛骨粗面をどれだけ前へ出せばよいか(前進量)を術前に決めます。
90度
TTAで目標とする膝蓋腱角(±5度)
8週
厳格な運動制限の期間の目安
90%
良好〜非常に良好な結果が得られた割合
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手術の内容
脛骨の前面を縦方向に切り、脛骨粗面を計算した量だけ前方へ移動させます。空いたすき間には金属製のスペーサー(ケージ)を入れ、プレートとスクリューで固定します。骨がすき間を埋めながら癒合していくのを待ちます。
TTAには派生術式があり、スペーサーを使わずチタン製の楔状インプラント1つで前進と固定を兼ねる方法(MMP:Modified Maquet Procedure)や、より簡便な固定具を用いる方法(TTA Rapid)などが実用化されています。これらをまとめた1,051例の系統的レビューでは、従来のTTAより遅発性半月板損傷が少ない一方で、軽度の合併症は多いと報告されています。
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半月板の確認
前十字靭帯が断裂した膝では、内側半月板も同時に傷んでいることが少なくありません。TTAでも手術の際に関節内と半月板を確認し、損傷があれば処置します。
手術のときに無傷だった半月板が後から損傷する遅発性半月板損傷は、TTAでは5.3〜10%と報告されています(新世代の派生術式では4.28%とする報告もあります)。順調だったのに急に足を挙げたときは、この可能性を考えて早めにご相談ください。
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手術の流れ
ステップ1:診断・術式の検討
触診とレントゲンで膝の不安定性と関節炎の程度を評価し、膝蓋腱角と脛骨高平角を測って術式を検討します。
ステップ2:術前検査・手術のご説明(別日)
麻酔のための術前検査を行い、手術の内容・回復までの見通し・起こりうる合併症をくわしくご説明します。
ステップ3:手術当日:絶食で来院
当日は食事を抜いてご来院ください(お水は飲ませていただいてかまいません)。
ステップ4:手術・麻酔覚醒後にご連絡
関節内と半月板を確認したうえで、脛骨粗面を前進させて固定します。麻酔から覚めたらお電話でご報告します。
ステップ5:入院・退院・抜糸
数日入院し、状態に応じて退院します。7〜10日ほどで抜糸・再診を行います。
ステップ6:レントゲンで骨癒合を確認しながら運動再開
およそ8週間は運動を制限し、レントゲンで骨のつき具合を確認しながら段階的に通常の運動へ戻します。
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術後の経過とリハビリ
回復の進め方はTPLOと同じ考え方です。骨がつくまでの期間に無理をさせないことが、そのまま結果を左右します。
- 〜2週:室内でのケージ・サークル管理。排泄はリードをつけた短時間のみ
- 2〜8週:滑らない床で、リードをつけた短い散歩から少しずつ。走る・跳ぶ・階段は禁止
- 8週以降:レントゲンで骨癒合を確認し、問題がなければ段階的に通常の運動へ
- およそ半年後まで:定期的に経過を確認します
TTAでとくに気をつけたいのが、前進させた脛骨粗面に強い力がかかる動きです。急な立ち上がり・ジャンプ・階段の上り下りは、この部分の亀裂や骨折の引き金になります。床が滑る環境も同じ理由で危険なので、マットを敷くなどの工夫をお願いしています。
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予後・起こりうる合併症
TTAの成績は良好で、90%の犬で良好〜非常に良好な結果が得られたとする報告があり、飼い主の97.8%が「もう一度この手術を選ぶ」と回答したというデータもあります。派生術式を含む系統的レビューでも、術後3〜6ヶ月で93%、1年以上で94.6%が機能回復に至っています。
関節炎の進行については、短期〜中期ではTTAのほうがスコアが低い(進行が少ない)という報告がある一方、長期では両術式に差がなくなるとされています。
合併症は、1,242例を集計した系統的レビューで全体21.6%(軽度18.0%・重度5.0%)。従来のTTA 458例の報告では19%(重度11.4%)でした。派生術式を含む集計では軽度合併症が33.5%と高く、その約8割が脛骨粗面の亀裂・骨折でした。一方、手術部位の感染は1.36%と低い値が報告されています。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- TTA・MMP/RCVS Knowledge・犬の十字靭帯レジストリ(英語) — 英国の獣医専門団体による飼い主向け解説。手術内容・回復・合併症をまとめている。
- 犬の前十字靭帯疾患/ACVS・米国獣医外科学会(英語) — 病態・診断・TTAを含む治療・予後を専門学会が解説。
- 脛骨粗面前進術の系統的レビュー(Veterinary Sciences 2022・英語) — TTA Rapid・MMPなど派生術式1,051例を対象に、合併症と機能回復を検討した査読論文。
- TPLOとTTAの系統的レビュー・メタ解析(Veterinary Sciences 2022・英語) — 72研究を対象に、両術式の合併症率・機能回復・関節炎の進行を比較した査読論文。

