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CORNEAL ULCER

犬と猫の角膜潰瘍

黒目(角膜)の傷は、浅いか深いかで緊急度がまるで変わる眼科疾患

「目をショボショボさせて開けにくそう」「黒目が白く濁って涙が止まらない」——それは角膜潰瘍のサインかもしれません。角膜(黒目の表面)の傷は、浅いうちは数日で治ることも多い一方、深い傷は穴があく一歩手前まで進むこともあり、緊急度が大きく変わります。だからこそ、早く気づいて早く受診することが、その子の目を守る近道です。

  • 眼科

この記事は 院長/獣医師 大塚 元貴 が監修しています(最終監修日:)。

とくに気をつけたい犬種・猫種

好発(かかりやすい傾向)が知られている犬種・猫種です。必ずかかるわけではありません。

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病気の概要

角膜潰瘍(かくまくかいよう:Corneal ulcer)は、黒目の表面をおおう透明な膜「角膜(かくまく)」に傷ができ、その組織が欠けてしまった状態です。角膜は目のいちばん外側で光を通し、外の刺激から目を守る「窓」の役割を果たしています。ここに傷がつくと強い痛みが生じ、涙が増え、目をショボショボさせるようになります。

角膜潰瘍でもっとも大切なのは、傷が「どのくらい深いか」です。浅い傷は数日で治ることが多い一方、深い傷は角膜に穴があく(穿孔)ところまで進むことがあり、視力や眼球そのものを失う危険があります。同じ「黒目の傷」でも、緊急度はまったく違います。

3

角膜の主な層(上皮・実質・デスメ膜)。どこまで傷が及ぶかで緊急度が変わる

数日

浅い潰瘍(上皮のみ)が治るまでのおおよその目安

90%超

難治性上皮欠損に格子状角膜切開などを行ったときの治癒率の報告

02

角膜の構造と、潰瘍の深さ

角膜は、外側から順にいくつかの層が重なってできています。傷がどの層まで及んでいるかで、呼び方も緊急度も変わります。

層(外側から)はたらきここまでの傷
上皮(じょうひ)いちばん外側のバリア。再生が速い浅い潰瘍。多くは数日で治りやすい
実質(じっしつ)角膜の厚みの大部分を占める土台実質潰瘍(深い潰瘍)。治療が長引きやすい
デスメ膜実質の内側にある薄く丈夫な膜デスメ膜瘤(descemetocele)。穿孔一歩手前で緊急
内皮(ないひ)角膜の透明さを保ついちばん内側の層

浅い潰瘍(上皮の傷)

Superficial ulcer

角膜のいちばん外側だけの傷です。痛みは強いものの、原因を取り除いて点眼で感染を抑えれば、数日〜1週間ほどで治ることが多いタイプです。ただし、まぶたの異常やまつ毛・乾燥などの原因が残っていると、なかなか治りません。

深い潰瘍・デスメ膜瘤・穿孔

Deep ulcer / Descemetocele / Perforation

傷が実質まで及んだ深い潰瘍です。さらに進むと、残るのは薄いデスメ膜だけのデスメ膜瘤(穿孔一歩手前)となり、破れると角膜に穴があいて虹彩が飛び出す(虹彩脱出)こともあります。いずれも外科的に眼を守る必要がある緊急事態です。

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こじれやすい・特別なタイプ

一般的な角膜潰瘍のほかに、治りにくかったり、特定の体質・犬種で起こりやすいタイプがあります。

難治性上皮欠損(SCCED・indolent ulcer)

浅い傷なのに、何週間たっても治らないタイプです。角膜の上皮が下の層にうまく張りつけない「接着不全」が原因で、点眼だけでは治りにくいのが特徴。中高齢の犬に多く、ボクサーやフレンチ・ブルドッグで報告が多いことから「ボクサー潰瘍」とも呼ばれます。ゆるんだ上皮を取り除く処置が治療の鍵になります。

短頭種の露出性角膜症

フレンチ・ブルドッグ・パグ・シー・ズーなどの短頭種は、目が大きく前に出てまばたきで角膜を覆いきれない・涙が足りず乾きやすい・逆さまつ毛やまぶたの巻き込みが当たりやすいといった構造的な理由から、角膜が傷つきやすく、深くなりやすい傾向があります。日ごろの観察がとくに大切な体質です。

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主な原因

角膜潰瘍は「何かが角膜を傷つけ続けている」ことで起こったり、こじれたりします。原因を見つけて取り除くことが、治療の出発点です。

原因内容
外傷爪でひっかく・草や砂が当たる・シャンプーや異物が入る・けんかなど。もっとも多い原因のひとつ。
乾性角結膜炎(ドライアイ)涙が足りず角膜が乾いて傷つきやすくなる。潰瘍が治りにくい背景にもなる。
眼瞼内反症(がんけんないはんしょう)まぶたが内側に巻き込み、皮膚やまつ毛が角膜にこすれ続ける。
睫毛(まつ毛)の異常逆さまつ毛・異所性睫毛など、まつ毛が角膜に当たって傷をつける。
猫ヘルペスウイルス(FHV-1)猫の角膜潰瘍・結膜炎の代表的な原因ウイルス。再発を繰り返すことがある。
短頭種の構造的素因まばたき不全・眼球の突出・涙の不足による露出性角膜症(前項)。

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診断・検査

角膜潰瘍の診断は、痛みの少ない検査を組み合わせて、傷の深さ・広がり・原因を見極めることを目的に進めます。

STEP 1

問診・目のまわりの観察

いつから・どちらの目に・どんなきっかけがあったかを丁寧に伺い、まぶた・まつ毛・目の開き方を観察します。

STEP 2

フルオレセイン染色

角膜にオレンジ色の色素を点眼すると、傷(潰瘍)の部分だけが緑色に染まり、位置と広がりがわかります。もっとも深いデスメ膜瘤では中心が染まらない点も、深さの手がかりになります。

STEP 3

涙の量の検査(STT)

シルマー試験紙で涙の量を測り、ドライアイが背景にないかを確かめます。涙不足は潰瘍が治りにくい大きな原因です。

STEP 4

原因の精査・必要に応じた培養

まぶたの巻き込みやまつ毛の異常を探し、感染が疑われる・治りが悪い場合は細菌培養で原因菌と有効な薬を調べます。

06

治療・管理

治療は、潰瘍の深さ・原因・感染の有無によって方針が変わります。共通するゴールは、傷を治して痛みを取り除くことと、傷の原因を取り除いて再発を防ぐことです。

  1. ステップ1原因を取り除く

    逆さまつ毛・まぶたの巻き込み・異物など、角膜を傷つけている原因があれば取り除きます。ドライアイが背景にあれば涙を補う治療を並行します。原因を残したままでは潰瘍は繰り返します。

  2. ステップ2感染を抑える点眼(抗菌薬)

    細菌感染を抑え、二次感染を防ぐために抗菌薬の点眼を用います。深い潰瘍や進行が速いときは、頻回の点眼が必要になることもあります。

  3. ステップ3痛みをやわらげる(散瞳・毛様体麻痺薬)

    目の奥の筋肉のけいれん(毛様体けいれん)による痛みをやわらげる点眼を用いることがあります。痛みが軽くなると、その子の元気や食欲も戻りやすくなります。

  4. ステップ4治りを助ける(自己血清点眼など)

    治りにくい潰瘍や角膜が溶ける傾向があるときは、その子自身の血液から作る自己血清の点眼などで、角膜を守り治癒を後押しすることがあります。

  5. ステップ5難治性上皮欠損への処置

    SCCED(難治性上皮欠損)では、張りつけないゆるんだ上皮を取り除いたうえで、角膜表面に細かな切開を入れる格子状角膜切開(grid keratotomy)などを行うと、治癒率が大きく高まると報告されています。

  6. ステップ6深い潰瘍・穿孔への外科手術

    実質の深い潰瘍・デスメ膜瘤・穿孔では、角膜を物理的に補強・保護する手術が必要です。結膜フラップ(結膜の組織で傷を覆う)や、進んだ場合の角膜移植などを検討します。眼を守るための時間との勝負になります。

07

ご家庭での早期発見・予防

角膜潰瘍は、早く気づけるほど浅いうちに治せる病気です。毎日のちょっとした観察が、その子の目を守ります。

心がけたいこと

  • ふだんから左右の目を見比べ、充血・濁り・涙の量・目やにの違いに気づけるようにする
  • 目をショボショボさせる・こする・まぶしがるそぶりは、その日のうちに相談する
  • 短頭種は目が乾きやすいので、目やにや充血のサインをこまめにチェックする
  • ドライアイや眼瞼内反症など、潰瘍の引き金になる病気を放置しない
  • 散歩やお手入れのときに、草・砂・シャンプーが目に入らないよう気をつける

避けたいこと

  • 「そのうち治るかも」と、痛がる目・濁った目を数日様子見する
  • 市販の目薬や、以前もらった目薬を自己判断で使う(とくにステロイド入りは危険)
  • 目を気にしてこすっているのに、カラーをつけずに放置する

「黒目が少し曇っているだけ」「涙が多いだけ」という段階でのご相談も歓迎です。角膜潰瘍は、浅いうちに動けるほど治療が軽くすみます。その子とご家族が幸せに過ごせることを目標に、傷の深さと原因を見極めながら、選択肢を一緒に考えます。

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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)

より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。

関連:犬と猫の乾性角結膜炎(ドライアイ)について(角膜潰瘍の原因にもなります) 関連:犬と猫の眼瞼内反症について(角膜潰瘍の原因にもなります) 関連:犬と猫の緑内障について 眼科診療のご案内を見る

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Q&A

よくあるご質問

急に目を痛がって開けられません。緊急ですか?
緊急の可能性が高い症状です。急に目をぎゅっと閉じて開けられない・涙が止まらない・黒目(角膜)が白く濁る・充血が強い——これらは角膜潰瘍でよくみられるサインです。とくに深い潰瘍では、放置すると角膜に穴があく(穿孔する)危険があり、視力や眼球そのものを失うことにつながります。潰瘍の深さは見た目だけでは判断できないため、「様子を見よう」とせず、その日のうちにご連絡・ご来院ください。
市販の目薬や、以前もらった目薬をつけてもいいですか?
自己判断での点眼はおやめください。とくに角膜潰瘍にステロイド(副腎皮質ホルモン)が入った目薬を使うと、傷の治りを妨げ、角膜が急速に溶けて穴があくのを助長する危険があります。過去に処方された目薬やヒト用の市販薬にはステロイドが含まれることがあり、成分は見た目ではわかりません。潰瘍が疑われるときは何もつけずに受診し、必要な点眼は診断のうえで処方を受けてください。
角膜潰瘍は治りますか?跡は残りますか?
浅い潰瘍(角膜のいちばん外側だけの傷)は、原因を取り除いて適切に点眼すれば、数日〜1週間ほどで治ることが多い病気です。一方、深い潰瘍やこじれた潰瘍は治療が長引き、外科手術が必要になることもあります。治ったあとに薄い濁り(角膜の傷あと)が残ることはありますが、多くは視力に大きな影響を残しません。深さと原因によって経過が変わるため、早い段階での診断が大切です。
なかなか治らない目の傷があると言われました。どういうことですか?
中高齢の犬で、浅い傷なのに何週間も治らない場合、難治性上皮欠損(SCCED/indolent ulcer、いわゆる「ボクサー潰瘍」)というタイプが疑われます。これは角膜のいちばん外側の層(上皮)が下の層にうまく張りつけないために起こるもので、点眼だけでは治りにくいのが特徴です。ゆるんだ上皮を取り除き、角膜の表面に細かな処置(格子状角膜切開など)を行うと治りやすくなります。
短頭種(フレンチ・ブルドッグやパグなど)は目のトラブルが多いと聞きます。なぜですか?
目が大きく前に出ていて、まばたきで角膜全体を覆いきれない・涙が足りずに乾きやすい・逆さまつ毛や内側に巻いたまぶたが当たりやすい、といった構造的な理由から、角膜が傷つきやすく、また傷が深くなりやすい傾向があります(露出性角膜症)。ふだんから目やに・充血・涙の量や、目をこするしぐさに気を配り、気になる変化があれば早めにご相談ください。

このページは一般的な情報提供を目的としています。実際の診断・治療方針は その子の状態によって異なります。個別の症状や薬の使い方については、 自己判断せず担当獣医師にご相談ください。