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病気の概要
タンパク尿性腎症(たんぱくにょうせいじんしょう、Proteinuric Nephropathy)とは、腎臓のなかで血液をろ過するフィルターである糸球体(しきゅうたい)が障害され、本来もれ出さないはずのタンパク質(主にアルブミン)が尿へ漏れ出してしまう状態の総称です。糸球体の病気(糸球体疾患、Glomerular Disease)が背景にあることが多く、犬でとくに多くみられます。
大切なのは、タンパク尿そのものが症状として現れにくいという点です。多くの場合、健康診断の尿検査で偶然見つかります。けれど持続するタンパク尿は、腎臓病(CKD)の進行を静かに速める独立した危険因子であることが分かっています。だからこそ、症状が出る前に尿検査で見つけ、早めに手を打つことが重要です。
0.5超
犬で治療を検討するUPCの目安
0.4超
猫で治療を検討するUPCの目安
50%減
治療で目指すUPC低下の一つの目安
02
何が起きているのか
糸球体は、毛細血管が毛糸玉のように集まった「血液をろ過するフィルター」です。健康な糸球体は、老廃物や水分は通しながら、体に必要なタンパク質(アルブミンなど)は通さない精密なふるいの役割をしています。このふるいが傷つくと、タンパク質が尿へ漏れ、次のような悪循環が始まります。
STEP 1
糸球体フィルターが傷つく
免疫複合体の沈着・アミロイドの沈着・硬化などにより、タンパク質を通さないはずの糸球体の「ふるい」の目が粗くなる。
STEP 2
タンパク質(主にアルブミン)が尿へ漏れる
本来は血液中にとどまるはずのアルブミンなどが、糸球体を通り抜けて尿に出ていく。これがタンパク尿。
STEP 3
尿細管への負担・炎症
漏れ出たタンパク質が尿細管を刺激し、炎症と線維化(瘢痕化)を促す。腎臓の組織がさらに傷んでいく。
STEP 4
CKDの進行が加速し、合併症が現れる
腎機能の低下が進み、血液中のアルブミンが減る(低アルブミン血症)。むくみ・高血圧・血栓などの合併症が起こることもある。
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主な原因
タンパク尿性腎症は単一の病気ではなく、さまざまな原因で起こります。原因によって治療方針が変わるため、「なぜ漏れているのか」を探すことが診療の出発点になります。
| 原因 | 何が起きているか | 特徴・背景 |
|---|---|---|
| 免疫複合体性糸球体腎炎(ICGN) | 抗原と抗体が結びついた免疫複合体が糸球体に沈着し、炎症を起こす | 感染症・慢性炎症・腫瘍・免疫介在性疾患(免疫の異常)などに続発することが多い。犬の糸球体疾患で最多 |
| アミロイドーシス | アミロイドという異常なタンパク質が糸球体などに沈着して機能を損なう | シャー・ペイ、アビシニアンなどで遺伝的な素因が知られる。しばしば重度のタンパク尿を示す |
| 糸球体硬化症 | 糸球体が線維性の組織に置き換わり、硬く瘢痕化する | 高血圧・加齢・残った糸球体への過剰な負担(過剰濾過)などが背景になる |
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なぜタンパク尿が問題なのか
「少しタンパクが出ているだけ」と軽くみられがちですが、タンパク尿は腎臓の未来を左右する重要な指標です。理由は大きく二つあります。
① 腎臓病(CKD)の進行を速める
漏れ出たタンパク質そのものが尿細管を傷つけ、腎臓の線維化を進めます。タンパク尿が多いほど、腎機能の低下が速く、予後が悪くなる傾向が報告されています。タンパク尿はそれ自体が腎臓を痛めつける要因なのです。
② 全身の合併症につながる
大量のタンパク質が失われると、血液中のアルブミンが減り、むくみや腹水(ネフローゼ症候群)、血液が固まりやすくなること(血栓塞栓症)、高血圧などが起こることがあります。腎臓だけの問題にとどまらないのが、この病気の怖さです。
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診断・検査
診断の目的は、「本当に腎臓からタンパクが漏れているのか」「どのくらいの程度か」「なぜ漏れているのか」の三つを見極めることです。単一の検査だけで判断することはありません。
尿検査・UPC(尿タンパク/クレアチニン比)
タンパク尿の有無と程度を数値化する中心的な検査です。まず尿沈渣で尿路感染や出血(腎前性・腎後性の原因)を除外し、時間をおいて複数回測って持続性のタンパク尿かどうかを確認します。
血液検査
アルブミン・クレアチニン・SDMA・BUN・コレステロールなどを評価し、低アルブミン血症の有無や腎機能の程度、CKDの進行度をあわせて確認します。
血圧測定
高血圧はタンパク尿と腎障害を悪化させます。糸球体疾患では血圧管理が治療の柱のひとつになるため、定期的な測定が欠かせません。
原因の検索
感染症・炎症・腫瘍・免疫介在性疾患・ホルモン疾患など、背景にある病気を探します。もとの病気が見つかれば、その治療がタンパク尿の改善につながります。
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治療・管理
タンパク尿性腎症の治療は、タンパク尿を減らして腎臓を守り、進行をゆるやかにすることが基本の考え方です。原因が特定できる場合はその治療を並行し、複数の柱を組み合わせて、その子ごとに最適化します。
RAAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)
糸球体内の圧を下げてタンパク尿を減らす、治療の中心となるお薬です。ACE阻害薬やARBが用いられます。使用中は血圧・腎数値・血清カリウムの確認が必要で、量はその子に合わせて調整します。
腎臓病用の食事療法
タンパク質・リン・ナトリウムを調整し、オメガ3脂肪酸を含む療法食が、腎臓の負担軽減とタンパク尿の抑制に役立ちます。食事は無理なく続けられることが何より大切です。
血圧の管理(降圧療法)
高血圧を伴う場合は降圧薬で管理します。血圧を下げることは、糸球体への負担を減らし、タンパク尿と腎障害の悪循環を断つうえで重要です。
抗血栓療法・原因疾患の治療
血栓のリスクが高い場合は抗血栓薬を検討します。あわせて、感染症・炎症・腫瘍など背景の病気があればその治療を行い、根本からタンパク尿の改善を目指します。
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モニタリング ― UPCを定期的に追う
タンパク尿性腎症の管理で軸になるのが、UPC(尿タンパク/クレアチニン比)の定期的な再評価です。治療によってタンパク尿が減っているか、進行のサインがないかを、数値の「傾向」で追っていきます。
- 治療の目標のひとつは、UPCを一定の水準まで下げることです。国際的には、犬でUPC 0.5以下、あるいは治療前から50%以上の低下が治療効果の目安のひとつとされています。
- 血圧・アルブミン・腎数値もあわせて確認し、合併症の早期発見に努めます。
- 数値が動くまでには時間がかかることもあります。一度の検査値で一喜一憂せず、継続して傾向を追うことが大切です。
タンパク尿は、その子自身が「つらい」と教えてくれないサインです。だからこそ、定期的な尿検査で私たちが代わりに気づいてあげることが、腎臓の時間を守る一番の近道になります。腎臓病全般の管理については、あわせて犬の慢性腎臓病(CKD)・猫の慢性腎臓病(CKD)のページもご覧ください。
療法食とは何か・なぜ獣医師の指導が要るのかを見る08
さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 犬と猫の糸球体疾患/MSD獣医マニュアル・獣医師向け(英語) — 糸球体疾患の病態・原因(免疫複合体性・アミロイドーシス等)・診断・治療の全体像を専門的に解説。
- タンパク尿の測定と解釈/国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS・英語) — UPCの評価、腎前性・腎後性の除外、持続性タンパク尿の考え方など、本ページの診断の基礎となる一次情報。
- 犬の糸球体疾患に対する標準治療のコンセンサス勧告(ACVIM 2013・JVIM・英語) — RAAS阻害を柱とする標準治療とUPCの治療目標を示した国際的な合意文書(一部購読制)。

