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病気の概要
急性腎障害(きゅうせいじんしょうがい、Acute Kidney Injury:AKI)とは、それまで働いていた腎臓の機能が、数時間から数日というごく短い間に急激に低下してしまう状態です。老廃物の排泄・水分と電解質の調整・血圧の維持といった腎臓の大切な役割が、突然うまく働かなくなります。
慢性腎臓病(CKD)が年単位でゆっくり進むのに対し、急性腎障害は「昨日まで元気だった子が、今日は急にぐったりして吐いている」というように、発症のスピードがまったく異なります。中毒や尿路の閉塞など、はっきりした引き金があることも多い病気です。
数時間〜
腎機能が急激に低下するまでの時間
18時間
ユリ中毒で治療が遅れると危険とされる目安
5段階
重症度を分けるIRISグレード(I〜V)
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何が起きているのか
急性腎障害は、原因が加わった瞬間から一気に完成するわけではなく、いくつかの段階を経て進みます。この流れを知ると、「なぜ早期対応が回復を左右するのか」が見えてきます。
第1相
開始期(Initiation)
中毒物質・虚血(血流不足)・尿路の閉塞などが腎臓に作用し、障害が始まります。この段階ではまだ血液検査の数値に表れないこともあり、見た目には元気なことも。中毒物の摂取直後の処置が最も効くのはこの時期です。
第2相
進展期(Extension)
腎臓内の酸素不足や炎症が広がり、尿細管(尿をつくり調整する管)の障害が拡大していきます。ここで悪循環に入る前に食い止められるかが分かれ目です。
第3相
維持期(Maintenance)
数日〜数週間続く山場。腎機能の低下が固定し、乏尿・無尿や尿毒症、高カリウム血症などが現れます。集中的な治療で全身を支えながら、腎臓の回復を待ちます。
第4相
回復期(Recovery)/慢性化
尿細管が再生し、一時的に尿が大量に出る「多尿期」を経て回復に向かいます。ただし障害が強いと機能が戻りきらず、慢性腎臓病(CKD)へ移行することもあります。
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主な原因 ― 腎前性・腎性・腎後性
急性腎障害の原因は、腎臓の「どこ」に問題が起きているかで大きく3つに分けられます。この見極めが治療方針を決める出発点になります。犬猫では中毒による腎性AKIが特に多く、身近な食べ物や植物が引き金になります。
| 分類 | どこの問題か | 代表的な原因 |
|---|---|---|
| 腎前性 | 腎臓に届く血流の不足 | 重度の脱水、出血・ショック、心不全、熱中症、重度の嘔吐・下痢による循環血液量の低下 |
| 腎性 | 腎臓そのものの障害 | 腎毒性物質(後述の中毒)、レプトスピラ症などの感染、虚血の遷延、免疫の異常 |
| 腎後性 | つくった尿の出口の閉塞 | 尿道閉塞(結石・粘液栓)、尿管結石による閉塞、膀胱破裂 |
特に注意したい中毒物質(腎性AKIの代表的な引き金)
ユリ(猫に致命的)
ユリ(Lilium属)とワスレグサ/デイリリー(Hemerocallis属)は、猫にとって極めて強い腎毒性を持ちます。花・葉・茎・根・花粉、生けていた花瓶の水まですべてが危険で、ごく少量の接触でも重い急性腎障害を起こします。猫のいるご家庭には持ち込まないのが最も確実な予防です。
ブドウ・レーズン(犬)
犬ではブドウ・レーズンが急性腎障害を起こします。近年、原因物質として酒石酸(tartaric acid)が有力視されています。犬はこの酸をうまく排泄できず、尿細管が傷つきます。少量でも中毒を起こす子がおり、レーズンパンやお菓子にも注意が必要です。
エチレングリコール(不凍液)
自動車の不凍液(クーラント)などに含まれ、甘い味で犬猫が誤って口にします。体内で代謝されてできる物質が腎臓にシュウ酸カルシウム結晶を沈着させ、重い腎障害を起こします。ごく少量でも致死的で、治療は「一刻も早く」が原則です。
薬剤・その他
NSAIDs(人用の痛み止めを含む)、アミノグリコシド系などの一部の抗菌薬は、腎血流の低下や尿細管障害を通じてAKIを招くことがあります。自己判断で人用の薬を与えないでください。レプトスピラ症(感染症)も原因となります。
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症状・サイン
急性腎障害は発症が急なぶん、症状もはっきり現れることが多いのが特徴です。次のような様子が急に現れたら、早めのご受診をおすすめします。
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診断・検査
急性腎障害では、「腎機能がどれくらい落ちているか」に加え、「原因は何か(腎前性・腎性・腎後性のどれか)」と「命に関わる合併症がないか」を同時に、かつ迅速に調べます。
血液検査
クレアチニン・SDMA・BUNで腎機能を評価します。特にカリウムは重要で、高カリウム血症は致死的な不整脈を招くため、緊急に確認・対処します。貧血・脱水・電解質の異常もあわせて調べます。
尿検査
尿比重・尿沈渣・尿タンパクなどを確認します。尿量(乏尿・無尿・多尿)の把握は、重症度の判定と治療方針に直結します。不凍液中毒ではシュウ酸カルシウム結晶がヒントになることもあります。
画像検査(超音波・レントゲン)
腎臓の大きさや形、尿路の閉塞(結石・尿管拡張)の有無を調べます。腎後性かどうかを見分け、閉塞があれば速やかに解除の方針を立てます。
問診・既往の確認
中毒物への接触、投薬歴、脱水を招く病気の有無を丁寧にうかがいます。もともと慢性腎臓病があるところに急性の負荷が加わる「AKI on CKD」という状態もあり、経過の把握が欠かせません。
IRISグレード分類(AKIの重症度)
犬猫の急性腎障害の重症度は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が定めたグレード分類で評価します。血清クレアチニン値に加え、尿量(乏尿・無尿の有無)や透析などの高度治療を要するかを組み合わせて判定します。
| グレード | 血清クレアチニン(mg/dL・目安) | 状態の目安 |
|---|---|---|
| Grade I | < 1.6(非高窒素血症) | 数値は正常域でも、48時間で急な上昇や乏尿・無尿があり腎障害が疑われる段階 |
| Grade II | 1.7 – 2.5 | 軽度の高窒素血症。輸液で反応することも多い |
| Grade III | 2.6 – 5.0 | 中等度〜重度。尿量の異常や全身症状を伴いやすい |
| Grade IV | 5.1 – 10.0 | 重度。尿毒症の症状が明らかで集中的な管理が必要 |
| Grade V | > 10.0 | 最重度。透析などの高度治療が必要になることがある |
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治療・管理
急性腎障害の治療は、「原因を取り除く」「腎臓を支えながら回復を待つ」「命に関わる合併症を防ぐ」の3本柱で、時間を争いながら並行して進めます。重症度に応じて、多くは入院での集中管理となります。
ステップ1:原因の除去・是正
中毒であれば可能な範囲で吸収を抑える処置や解毒を、尿路閉塞であればカテーテルなどで速やかに閉塞を解除します。腎前性であれば脱水・循環を立て直します。原因を断つことが、回復への最短ルートです。
ステップ2:輸液療法(点滴)
治療の中心です。脱水と循環血液量を補正して腎血流を回復させ、たまった老廃物の排泄をうながします。過剰にならないよう、尿量・体重・全身状態を見ながら量を細かく調整します。
ステップ3:尿量のモニタリングと利尿の管理
入院中は尿量をこまめに測り、乏尿・無尿が続く場合には利尿を図る治療を検討します。「どれだけ尿が出ているか」は、腎臓の回復を映す最も大切な指標のひとつです。
ステップ4:電解質・高カリウム血症の管理
特に高カリウム血症は致死的な不整脈につながるため、緊急に補正します。あわせて、酸塩基平衡やリンなどの異常も是正し、全身を安定させます。
ステップ5:対症療法(吐き気・食欲・胃の保護)
制吐薬や胃粘膜保護薬で嘔吐・食欲不振をやわらげ、栄養状態を保ちます。つらい症状をこまめに取り除くことも、回復を支える大切なケアです。
ステップ6:血液透析・腹膜透析(重症例)
輸液などの内科治療で反応が乏しい最重症例では、血液透析・腹膜透析といった高度な治療が命綱になることがあります。これらは専用の設備を要するため、適応がある場合は提携施設をご紹介し、連携して対応します。
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予後とCKDへの移行
急性腎障害の見通しは、原因・重症度・治療開始までの早さによって大きく変わります。中毒でも尿路閉塞でも、原因を早く取り除いて適切に治療できれば、腎機能がしっかり回復する子は少なくありません。一方で、障害が強い場合や対応が遅れた場合は、機能が完全には戻らないこともあります。
回復に向かうと、尿細管が再生する過程で一時的に尿が大量に出る「多尿期」がみられます。この時期は脱水になりやすいため、引き続き慎重な管理が必要です。そして、いったん回復したように見えても腎臓に負担が残っていることがあり、後になって慢性腎臓病(CKD)へ移行することがあります。だからこそ、急性期を乗り越えたあとも、定期的な血液・尿検査で腎臓の状態を追っていくことが大切です。慢性期の管理については犬の慢性腎臓病(CKD)・猫の慢性腎臓病(CKD)のページもあわせてご覧ください。
その子とご家族が穏やかな毎日を取り戻せることを目標に、急性期の集中的な治療から、その後の長期的な見守りまで、一貫して伴走します。
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中毒を防ぐために ― ご家庭でできる予防
急性腎障害の原因のうち、中毒はご家庭の工夫で確実に減らせるものです。「知っていれば防げた」をなくすために、次の点を意識してください。
猫のいる家にユリを持ち込まない
- 切り花の花束にもユリが含まれていないか確認する
- 花瓶の水・落ちた花粉にも触れさせない
- 庭やベランダのユリ・デイリリーにも注意する
- いただいた花にユリがあれば、猫の届かない別室・室外へ
犬に危険な食べ物・物質を遠ざける
- ブドウ・レーズン、レーズン入りのパンやお菓子を与えない・置かない
- 不凍液(クーラント)はこぼしたらすぐ拭き、密閉して保管する
- 人用の薬(特に痛み止め)を床やテーブルに放置しない
- 拾い食いをしやすい子は散歩中の口元にも気を配る
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- IRIS 急性腎障害(AKI)グレード分類/国際獣医腎臓病研究グループ(英語) — 本ページで用いる、クレアチニン・尿量に基づくGrade I〜Vの一次情報。最新版のPDFがダウンロードできます。
- ペットに有毒なユリについて/ASPCA(英語) — 猫に腎障害を起こすユリの種類と、花・花粉・花瓶の水まで危険であることを解説した公的団体の情報。
- 犬と猫の腎機能障害(急性腎障害を含む)/MSD獣医マニュアル・獣医師向け(英語) — 腎前性・腎性・腎後性の考え方や原因・治療を専門的に解説。

