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TOOTH RESORPTION

歯の吸収病巣(歯牙吸収)

外からは見えにくく、進むと激痛。だからこそ、歯科レントゲンでの早期発見が鍵になります。

歯の吸収病巣(歯牙吸収)は、猫にとても多いお口の病気です。ご自身の細胞が歯を少しずつ溶かしていくもので、歯ぐきの中で静かに進むため外からは気づきにくく、神経が露出すると強い痛みを伴います。サインが乏しいこの病気を見つける鍵は、歯科レントゲンです。当院は、痛みのサインを見逃さず、レントゲン診断にもとづいて一頭ずつ適切な処置を選びます。

  • 歯科

この記事は 院長/獣医師 大塚 元貴 が監修しています(最終監修日:)。

とくに気をつけたい犬種・猫種

好発(かかりやすい傾向)が知られている犬種・猫種です。必ずかかるわけではありません。

01

歯の吸収病巣とは ― 歯が「内側から」溶けていく病気

歯の吸収病巣(歯牙吸収、Tooth Resorption:TR。かつては猫破歯細胞性吸収病巣=FORLとも呼ばれました)は、歯を作っている硬い組織が、体自身の細胞によって少しずつ溶かされていく病気です。虫歯のように外から細菌が歯を溶かすのではなく、歯の内側から吸収が進むのが特徴です。

主役になるのは、破歯細胞(はししさいぼう、オドントクラスト)という細胞です。本来は乳歯が生え変わるときなどに歯の根を吸収する役割を持ちますが、何らかのきっかけでこの細胞が永久歯にはたらき、セメント質・象牙質・エナメル質といった硬い組織を溶かしていきます。

とりわけ猫にとても多い病気で、猫が歯を失う原因として最も多いものです。犬にもみられますが、猫ほど多くはありません。

30〜70%

何らかの歯の吸収病巣がみられる猫の割合の報告

猫に最多

猫が歯を失う原因として最も多い口腔疾患

レントゲン

診断・タイプ分けに歯科レントゲンが必須

02

何が起きているのか ― 破歯細胞による吸収

歯の吸収病巣は、次のように進みます。多くは歯ぐきの中で始まるため、外から見えるようになった時点では、内部の吸収がかなり進んでいることが少なくありません。

STEP 1

破歯細胞が活性化する

何らかのきっかけで破歯細胞が歯の表面(多くは歯ぐきの境目あたりのセメント質)にはたらき、硬い組織を溶かし始めます。この段階では外見の変化はほとんどありません。

STEP 2

歯の内部へ吸収が進む(歯肉縁下で静かに進行)

吸収が象牙質へと広がります。歯ぐきの中で進むため、視診だけでは分からず、この段階では痛みのサインも乏しいことが多くあります。歯科レントゲンでなければ捉えられない段階です

STEP 3

歯冠に達し、神経(歯髄)が露出する

吸収が歯冠(見えている部分)や歯髄に達すると、強い痛みが生じます。歯ぐきの赤い盛り上がりが見えたり、歯が欠ける・折れる・欠損することもあります。ここで初めて気づかれるケースが多いのが実情です。

03

気づきにくいサイン ― 「痛みを隠す」猫だからこそ

歯の吸収病巣は、はっきりした症状が出にくい病気です。とくに猫は痛みを隠すのが得意で、下のようなさりげない変化が唯一のサインになることがあります。

  • 硬いドライフードを避ける、やわらかいものを好むようになった
  • 食べるときに口をくちゃくちゃさせる、顎が小刻みに震える(チャタリング)
  • 食べている途中で「キャッ」と鳴く、急に食器から離れる
  • よだれが増えた、よだれに血が混じる
  • 口臭が強くなった
  • 口や顔を触られるのを嫌がる、顔をこすりつける
  • 歯ぐきに赤い盛り上がりが見える、歯が欠けている・短くなっている

04

タイプで処置が変わる ― Type1とType2

歯の吸収病巣は、獣医歯科の国際基準(AVDC)で、歯科レントゲンでの見え方によって分類します。この分類が、そのまま「どう処置するか」に直結するため、とても大切です。

Type1Type2(置換性吸収)
レントゲンでの見え方一部に吸収(透過像)があるが、歯根と周囲の骨の境目(歯根膜腔)ははっきり残る歯根が周囲の骨と一体化し、境目(歯根膜腔)が消えていく。根が骨に置き換わる
背景にあること歯周病などの炎症を伴うことが多い原因不明のことが多く、根が骨様組織に置換される
基本の処置歯根ごと完全に抜歯条件を満たせば歯冠切除という選択肢がある

このほかAVDCには、進行の深さに応じたステージ分類(Stage1〜5)もあります。Stage1はセメント質のみの軽度の吸収、Stage5は歯冠がほぼ失われ、レントゲンでわずかな痕跡だけが写る段階です。ステージが進むほど、歯冠が欠けたり神経が露出したりして痛みが強くなります。タイプ(Type)は「処置の選び方」、ステージ(Stage)は「進行の深さ」を表す、と整理すると分かりやすいでしょう。

05

診断 ― 歯科レントゲンが決め手

歯の吸収病巣の診断で決定的に重要なのは、外から見える部分だけでは、病気の本体も進行度も分からないということです。多くが歯ぐきの中で進むため、確実な診断には麻酔下での精密な評価が欠かせません。

麻酔下での視診・探針検査

全身麻酔で動かない状態にして、一本ずつていねいに観察します。歯ぐきの境目に細い探針をあて、吸収による欠損やひっかかりがないかを確認します。歯ぐきの赤い盛り上がりは、その下に隠れた病変のサインになります。

歯科レントゲン(全顎撮影)

この病気の診断の中心です。外からは見えない歯根の吸収の有無・タイプ(Type1かType2か)・進行の深さを確認します。処置方針そのものがレントゲン所見で決まるため、当院では欠かせない検査と考えています。

お口全体の評価

吸収病巣は複数の歯に同時に起こることが多い病気です。1本見つかったら他の歯も、そして歯周病や口内炎など併発しやすい病気がないかも含めて、お口全体を評価します。

歯科レントゲン:外からは見えない歯根の吸収を確認できる

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治療 ― 痛みの元を、確実に取り除く

歯の吸収病巣は、いったん始まった吸収を薬で元に戻す方法はありません。治療の目的は、痛みの元になっている歯を適切に処置して、その子を痛みから解放することです。処置の内容は、レントゲンで判定したタイプによって変わります。

Type1 ― 完全抜歯

歯根がしっかり残っているType1は、歯冠と歯根をすべて取り除く抜歯が基本です。根を残すと痛みや感染の元になるため、レントゲンで確認しながら、根の先まで確実に取り除きます。局所麻酔(神経ブロック)を併用して痛みを抑え、歯ぐきを縫合して治りを早めます。

Type2 ― 歯冠切除という選択肢

歯根がすでに骨に置き換わり、歯根膜が消えているType2では、歯冠だけを切除し、吸収されつつある根はあえて残す「歯冠切除」が選べる場合があります。無理に根を掘り出さないぶん、体への負担を抑えられます。ただし適応は限られます(右の注意をご覧ください)。

07

早期発見のために ― 定期的なお口のチェックと歯科レントゲン

くり返しになりますが、歯の吸収病巣は原因が分かっておらず、確立した予防法がありません。歯みがきなどの日常ケアはお口全体の健康のためにとても大切ですが、それだけでこの病気を防げるわけではないのが正直なところです。

だからこそ、私たちにできる最善は「早く見つけて、痛みを取り除くこと」です。とくに次のような子は、定期的なチェックをおすすめします。

  1. ステップ16歳を過ぎた猫

    加齢とともに吸収病巣は増える傾向があります。中高齢の猫は、症状がなくても定期的なお口の健康チェックを受けておくと安心です。

  2. ステップ2一度でも吸収病巣が見つかった子

    吸収病巣は複数の歯に、時期をずらして起こることがあります。処置後も、他の歯に新たな病変が出ていないか、定期的にレントゲンで確認します。

  3. ステップ3食べ方や口元に、小さな変化がある子

    硬いものを避ける、口をくちゃくちゃさせる、よだれが増えた——こうしたサインに気づいたら、様子見にせず、早めにご相談ください。麻酔下でのレントゲンが、見えない病変を明らかにします。

08

さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)

より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。

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Q&A

よくあるご質問

元気にごはんを食べています。それでも歯の吸収病巣があることはありますか。
はい、残念ながらよくあります。歯の吸収病巣は、多くが歯ぐきの中(歯肉縁下)で静かに進むため、外から見ても分からず、痛みのサインもはっきり出ないことが少なくありません。猫はもともと痛みを隠すのが得意な動物で、「食べているから大丈夫」と見えても、実は片側でかばって噛んでいたり、丸呑みで痛みをやり過ごしていたりします。硬いものを避ける、食べるときに口をくちゃくちゃさせる、顎が小刻みに震える、よだれが増える、口を触られるのを嫌がる——こうした小さな変化が唯一のサインのこともあります。確実に見つけるには、麻酔下での一本ずつの触診と歯科レントゲンが必要です。
どうして起こるのですか。予防はできますか。
正直にお伝えすると、原因はまだよく分かっていません。歯周病のように歯垢(プラーク)や歯石が関わるという見方もありますが、それだけでは説明できず、複数の要因が重なって起こると考えられています。原因が不明なため、確立した予防法もないのが現状です。だからこそ、この病気で私たちができる最善は「早く見つけて、痛みを取り除くこと」です。歯みがきなどの日常ケアはお口全体の健康のために大切ですが、それだけで吸収病巣を防げるわけではありません。定期的なお口のチェックと歯科レントゲンでの早期発見が、いちばんの対策になります。
歯冠切除(クラウンアンピュテーション)と抜歯は、何が違うのですか。
どちらも痛みを取り除くための処置ですが、歯の残し方が異なります。通常の抜歯は、歯冠(見えている部分)と歯根(歯ぐきの中の根)をすべて取り除きます。一方の歯冠切除は、歯冠だけを取り除き、すでに骨に置き換わりつつある歯根はあえて残す方法です。歯冠切除が選べるのは、歯科レントゲンで歯根が完全に吸収され歯根膜が消えている「Type2」で、かつ歯周病や歯の内部の感染、口内炎などがない場合に限られます。条件を満たさない歯や、根がしっかり残っている「Type1」の歯は、痛みの元を残さないために完全な抜歯が必要です。どちらが適しているかは、必ずレントゲンで一本ずつ確かめて判断します。

このページは一般的な情報提供を目的としています。実際の診断・治療方針は その子の状態によって異なります。個別の症状や薬の使い方については、 自己判断せず担当獣医師にご相談ください。