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TOOTH FRACTURE

歯の破折・露髄

折れた歯は、痛くても顔に出ません。「神経が出ているか」で、対応が大きく変わります。

硬いおやつやおもちゃを噛んで歯が折れることは、犬でとても多く、猫でも起こります。折れ方によっては神経(歯髄)が露出し、強い痛みと感染の入り口になります。やっかいなのは、犬や猫が痛みを隠すため「食べているから大丈夫」と見えてしまうこと。当院は、その歯の神経が生きているかを診断し、残せる歯は残す、痛みの原因になっている歯は適切に処置する——その見極めを大切にしています。

  • 歯科

この記事は 院長/獣医師 大塚 元貴 が監修しています(最終監修日:)。

01

歯の破折・露髄とは ― 「神経が出ているか」で分かれる

歯の破折(はせつ、Tooth Fracture)は、歯が欠けたり折れたりした状態のことです。硬いものを噛む機会の多い犬でとても多く、猫でも起こります。ひとくちに「歯が折れた」といっても、表面のエナメル質が少し欠けただけのものから、歯の中を通る神経(歯髄)がむき出しになる深い破折まで、深さはさまざまです。

この病気でいちばん大切な分かれ目は、折れた面に神経(歯髄)が露出しているかどうかです。神経が出ている破折(複雑性破折)は、強い痛みと感染の入り口になり、放置すると歯が死んでいきます。神経が出ていない破折(非複雑性破折)でも、しみる痛みが残ったり、時間差で神経が傷むことがあり、経過観察や処置が必要になることがあります。

87〜92%

内部から変色した歯(失活歯)で、歯髄が死んでいたと報告される割合

24〜48時間

成犬で「歯を生かす処置」が選択肢になりうる、露髄からの目安

6類型

国際基準(AVDC)による破折の分類。深さで対応が変わる

02

露髄あり・なしで、何が違うのか

歯の破折は、獣医歯科の国際的な基準(AVDC)で、折れた深さによって分類されます。処置の要・不要や、歯を残せるかどうかが、この深さで大きく変わります。中でも決定的なのが、歯髄(神経)が露出しているかです。

分類どこまで折れたか神経(歯髄)の露出主な対応
エナメル亀裂・エナメル破折表面のエナメル質のみなし経過観察〜表面の保護。悪化がないか確認
非複雑性歯冠破折(UCF)象牙質まで(神経は未露出)なししみる痛みの緩和・象牙質の封鎖。要経過観察
複雑性歯冠破折(CCF)神経がむき出しあり歯内治療または抜歯が必要
歯冠歯根破折・歯根破折歯ぐきの下・根まで及ぶありのことが多い根の状態を精査。多くは抜歯

03

なぜ折れるのか ― 硬いものと、決まった歯

歯の破折の多くは、歯より硬いものを噛んだときに起こります。とくに次のようなものが原因になりやすいことが知られています。

  • 蹄(ひづめ)・大きな骨・鹿の角・ひづめ型のおやつ
  • 硬いナイロン製・樹脂製のおもちゃ、硬いガム
  • 氷やアイス、石やフェンス、ケージの金属の柵を噛む癖
  • 交通事故・落下・ぶつかりなどの外傷

そして、折れやすい歯はある程度決まっています。上下の犬歯(キバ)と、上あごの奥にある大きな歯(上顎第四前臼歯・裂肉歯)は、噛む力が集中しやすく、破折の好発部位です。とくに上顎第四前臼歯は、硬いものを片側で噛んだときに歯の外側がパカッと欠ける「スラブ骨折」を起こしやすいことで知られています。

04

見逃してはいけないサイン ― 変色は「歯が死んだ」合図

折れた歯そのものは、ご家族でも気づきやすいものです。しかし本当に大切なのは、折れたあとに歯の内部で静かに進む変化に気づくことです。

このほか、次のような様子も、折れた歯や失活した歯のサインであることがあります。

  • 片側だけで噛む、硬いものを避ける、食べるのが遅くなった
  • おもちゃを噛まなくなった、口をくちゃくちゃさせる
  • 口元や顔を触られるのを嫌がる、顔をこすりつける
  • よだれが増えた、血が混じる、口臭が出てきた
  • 目の下(頬)が腫れてきた(根尖膿瘍が進んだサインのことがある)

05

放置すると何が起こるのか ― 感染から根尖膿瘍へ

神経が露出した破折を放っておくと、歯の内部で次のような流れが進みます。痛みを隠す動物では、この進行に外から気づきにくいことが問題です。

STEP 1

露髄(神経がむき出しになる)

複雑性破折で歯髄が口の中にさらされる。人でいえば神経がむき出しの状態で、強い痛みを伴う。ここが細菌の入り口になる。

STEP 2

歯髄の感染・炎症

口の中の細菌が歯の内部に侵入し、歯髄が感染して炎症を起こす。この段階でしっかり痛むが、動物は隠してしまうことが多い。

STEP 3

歯髄の失活(歯が死ぬ)

感染が進むと歯髄への血流が絶たれ、神経が死ぬ(失活)。痛みが一時的に和らいで見えることもあるが、治ったのではなく、感染源が歯の中に残ったままになる。歯が変色してくるのはこの頃。

STEP 4

根尖膿瘍・周囲組織への波及

細菌が歯の根の先から周囲へ広がり、根の先に膿がたまる根尖膿瘍に。あごの骨が溶けたり、上あごでは目の下の皮膚に穴が開いて膿が出ること(眼窩下の瘻管)もある。

06

診断 ― 折れた深さと、神経の生死を見極める

診断のゴールは、「どこまで折れているか」と「神経が生きているか・死んでいるか」を正確に見極めることです。見た目だけでは、歯の内部と根の状態は分かりません。

口腔内の視診・触診

折れた歯の位置と深さ、露髄の有無、変色や動揺(ぐらつき)を確認します。無麻酔では奥までの正確な評価が難しいため、詳しい検査は全身麻酔下で行います。神経が出ているかは、探針で慎重に確かめます。

歯科レントゲン(デンタルX線)

診断の要です。外から見えない歯の根や、根の先の骨の状態を評価します。根尖に黒い影(透過像)があれば、失活や根尖病変(膿瘍など)のサイン。歯を残せるか、抜歯が必要かの判断に欠かせません。

歯髄が生きているかの評価

変色の有無、レントゲンでの歯髄腔(神経の通り道)の太さの左右差、根尖病変の有無などを総合して、歯髄が生きているか死んでいるかを判断します。これにより、歯を生かす処置が使えるか、根管治療や抜歯が必要かが決まります。

07

治療 ― 残せる歯は残す、痛みの元は絶つ

治療の考え方はシンプルです。露出した神経を、そのまま放置しない。そのうえで、歯を残す(歯内治療)か、痛みの元を絶つ(抜歯)かを、歯と根の状態から選びます。当院は「可能な限り歯を残す」ことを基本としつつ、その子にとって最善の選択をご一緒に考えます。抜歯を選ぶ場合の具体的な進め方は、抜歯(外科的抜歯)のページでくわしく解説しています。

歯を残す ― 歯内治療(歯髄を守る/取り除く)

生活歯髄切断(vital pulp therapy):受傷が新しく神経がまだ生きている歯で、傷んだ神経の先端だけを取り除き、薬剤で保護して神経を生かしたまま残す方法です。目安として、成犬では露髄から24〜48時間以内、神経が太い若い犬(およそ18か月齢未満)ではより長い期間が適応の目安とされます。

根管治療(root canal):神経が死んでしまった歯で、神経を取り除いて内部を封鎖し、感染源を断ちつつ歯の形を残す方法です。歯内治療は専門的な設備を要する場合があり、その際は提携施設をご紹介します。

痛みの元を絶つ ― 抜歯

破折が歯の根まで及んでいる、根の先に膿瘍がある、歯周組織まで大きく傷んでいる——こうした歯は、残すことがかえってその子を苦しめます。適切に抜歯し、局所麻酔(神経ブロック)で痛みを抑え、歯肉を縫合して治りを早めます。抜歯後はむしろ痛みから解放され、食欲や元気が戻る子が多くいます。

当院の麻酔管理へのこだわりを見る

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予防 ― 硬すぎるものを噛ませない

歯の破折は、日々の「噛むもの」を見直すことで、かなり防げるトラブルです。ポイントは、歯より硬いものを噛ませないことに尽きます。

おやつ・おもちゃは「しなる硬さ」を選ぶ

蹄・大きな骨・鹿の角・硬いナイロン製おもちゃなど、非常に硬いものは避けます。少し力を加えると曲がる、爪跡が残る程度の適度にしなるものが安心です。前述の「爪でへこむか」「打ちつけて痛くないか」を目安にしてください。

噛む癖・遊びに気を配る

ケージの柵をガリガリ噛む、石やフェンスをかじる、氷を噛む——こうした癖は破折の原因になります。気づいたら別の安全なおもちゃに置き換え、噛みたい欲求を満たしてあげましょう。

定期的なお口のチェック

折れた歯や変色した歯は、ご家族が気づく前に進行していることがあります。歯みがきのついでにお口を観察する習慣をつけ、定期健診でもお口を診させてください。早く見つかるほど、歯を残せる可能性が高まります。

09

さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)

より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。

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Q&A

よくあるご質問

歯が折れているのに、普通にごはんを食べています。放っておいても大丈夫ですか。
「食べている=痛くない」ではありません。犬や猫は痛みを本能的に隠すため、折れた歯が痛くても、反対側でかばって噛んで平気そうに見せることがよくあります。とくに神経(歯髄)が露出した破折は、人でいえば神経がむき出しになった状態で、強い痛みを伴います。さらに、むき出しの神経は口の中の細菌の入り口になり、放置すると歯の内部で感染が進んで歯が死に、歯の根の先に膿がたまる根尖膿瘍(こんせんのうよう)へと進むことがあります。見た目に元気でも、折れた歯は一度お口を見せにいらしてください。神経が出ているかどうかで、対応が大きく変わります。
折れた歯は、必ず抜かないといけませんか。残す方法はありますか。
必ずしも抜歯ではありません。神経が露出した破折でも、条件が合えば歯を残す「歯内治療」という選択肢があります。受傷が新しく歯の神経がまだ生きている若い歯では、神経の一部を残して守る「生活歯髄切断(vital pulp therapy)」が、時間が経って神経が死んでしまった歯では、神経を取り除いて内部を封鎖する「根管治療(root canal)」が検討できます。一方で、破折が歯の根まで及んでいたり、周囲の骨まで傷んでいる歯は、残すことがかえってその子を苦しめるため、抜歯が最善のこともあります。どちらが良いかは、歯科レントゲンで根の状態まで確認して判断します。歯内治療には専門的な設備が必要な場合があり、その際は提携施設をご紹介します。
歯が折れないように、家で気をつけられることはありますか。
いちばん大切なのは、硬すぎるものを噛ませないことです。犬の歯の破折は、蹄(ひづめ)・大きな骨・鹿の角・硬いナイロン製のおもちゃ・アイスなど、非常に硬いものを噛んだときに多く起こります。目安として、「爪を立ててもへこまない」「膝や床に軽く打ちつけて痛いと感じる」ほど硬いものは、歯より硬く、折れる原因になり得ます。おやつやおもちゃは、少し力を加えると曲がったり爪跡が残る程度のものを選んであげてください。また、ケージの柵を噛む癖や、石・フェンスをかじる遊びも破折につながります。気になるおもちゃがあれば、受診時にお気軽にご相談ください。

このページは一般的な情報提供を目的としています。実際の診断・治療方針は その子の状態によって異なります。個別の症状や薬の使い方については、 自己判断せず担当獣医師にご相談ください。