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病気の概要 ―「かゆくない脱毛」というサイン
脱毛(毛が抜ける・薄くなる)には、大きく分けて二つのタイプがあります。ひとつは、かゆくて掻く・なめることで毛が抜ける「かゆい脱毛」。もうひとつが、このページで扱う、かゆみをあまり伴わず、毛が“生えてこなくなる”「かゆくない脱毛」です。
かゆくない脱毛は、多くが非炎症性・非掻痒性(ひそうようせい=かゆみが少ない)・左右対称という特徴を持ち、その代表がホルモン(内分泌)の異常による脱毛です。皮膚そのものの病気というより、体の内側で起きている変化が、被毛のサインとなって表に現れている状態と言えます。
だからこそ、皮膚の表面だけを見ていても原因にはたどり着けません。当院では「なぜ毛が生えてこないのか」を体の内側までさかのぼって考え、必要に応じて全身を評価します。このページは、たくさんある原因を見分け、適切な検査や次のページへご案内するための“入口”です。
左右対称
内分泌性脱毛でみられやすい、抜け方の特徴
かゆみ小
掻いて抜けるのでなく“生えてこない”のがサイン
犬に多い
猫の左右対称脱毛は多くが掻きすぎで、内分泌はまれ
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なぜ毛が生えてこないのか ― 毛のサイクルとホルモン
毛は伸び続けているわけではなく、「伸びる時期(成長期)→ 止まる時期(退行期)→ 休む時期(休止期)→ 抜けて生え替わる」というサイクル(毛周期)をくり返しています。この毛周期は、甲状腺・副腎・性腺(卵巣・精巣)・下垂体などから出るさまざまなホルモンによって調節されています。
ホルモンのバランスが崩れると、毛周期が「休止期」で止まってしまい、抜けた毛が生え替わらなくなります。掻いて抜けるのではなく、生え替わりが止まって毛が減っていく——これが、かゆくない左右対称の脱毛が起こるしくみです。
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「かゆい脱毛」と「かゆくない脱毛」の違い(ここがいちばん大切)
原因を切り分ける最初の分かれ道が、「かゆみを伴うかどうか」です。下の表のように、二つのタイプは原因も治療も正反対になります。ただし、内分泌性の脱毛でも、皮膚が弱って二次感染(膿皮症など)を起こすと後からかゆみが出ることもあり、見た目だけでは判断しきれません。
| 見分けの手がかり | かゆい脱毛 | かゆくない脱毛(このページ) |
|---|---|---|
| かゆみ | 強い(掻く・なめる・噛む) | 少ない〜ない |
| 抜けるしくみ | 掻いて・なめて物理的に抜ける | 毛周期が止まり生えてこない |
| 抜け方・分布 | かゆい部分が中心(左右非対称のことも) | 体幹部が左右対称のことが多い |
| 皮膚の様子 | 赤み・ブツブツ・かさぶた・掻き壊し | 炎症は目立たず、黒ずみ・皮膚が薄い等 |
| 主な原因 | 寄生虫・細菌やマラセチアの感染・アレルギー | ホルモンの異常・毛周期の停止・全身の状態 |
| 主な調べ方 | 皮膚・耳の検査、除去食試験など | 血液・ホルモン検査、必要に応じ画像・生検 |
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主な原因を知る(見分けの手がかりつき)
かゆくない左右対称の脱毛には、いくつかの代表的な原因があります。ここでは深追いせず、それぞれの「見分けの手がかり」を簡潔にご紹介します。詳しい病気は、専用ページや診察でさらに掘り下げます。
甲状腺機能低下症(犬)
Hypothyroidism
甲状腺ホルモンの不足で全身の代謝がゆっくりになる、中〜高齢の犬に多い病気。左右対称の脱毛のほか、元気がない・食べていないのに太る・寒がる・しっぽの毛が抜けるなどが手がかりです。ホルモン補充で改善しますが、実は“もっとも診断を間違えやすい”病気でもあります。詳しくはこちら(甲状腺機能低下症のページ)。
クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症・犬)
Cushing's Syndrome
副腎からコルチゾールが過剰に出る、中〜高齢の犬に多い病気。左右対称の脱毛に加え、水をたくさん飲む・おしっこが増える・お腹がぽっこり出る・皮膚が薄くなるのが典型です。皮膚だけでなく全身の症状から気づかれます。詳しくはこちら(クッシング症候群のページ)。
性ホルモンに関連する脱毛
Sex hormone alopecia
卵巣・精巣から出る性ホルモンのバランスの乱れで起こる脱毛。避妊・去勢をしていない子の精巣・卵巣の腫瘍などが関わることがあり、会陰部やお腹まわりから左右対称に薄くなることがあります。原因を取り除くと改善することがあります。
アロペシアX(毛周期の停止)
Alopecia X
毛周期が止まって進行する脱毛で、ポメラニアン・トイプードル・スピッツ系などふさふさした被毛の犬種に多くみられます。体は健康なことが多く、胴体が左右対称に薄くなり、皮膚が黒ずみます。命に関わるものではなく、見た目(整容的)の問題が中心です。
季節性側腹部脱毛
Seasonal flank alopecia
日照時間の変化がきっかけと考えられ、決まった季節に、脇腹(側腹部)だけ左右対称に境界のはっきりした脱毛が出ます。多くは季節が過ぎると自然に毛が戻る、良性の脱毛です。
休止期・成長期の脱毛(テロゲン脱毛など)
Telogen / anagen effluvium
出産・発熱・重い病気・手術・強いストレスなどの数週間後に、いっせいに毛が抜けるタイプ。多くは一過性で、きっかけが去れば毛は戻ります。「あの出来事のあとから」という経過が手がかりになります。
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診断の流れ ― まず「かゆみ」を除外し、体の内側を調べる
かゆくない左右対称の脱毛は、「かゆい脱毛の原因を除外 → 分布や被毛を評価 → 血液・ホルモン検査」という順で、原因を一つずつ絞り込みます。その子の負担が少ない検査から進めます。
出発点
かゆみの少ない・左右対称の脱毛
いつから・どこが・かゆみはあるか・季節性・出産や病気のあとか・避妊去勢の有無・全身の症状(飲水量や体重)などを詳しく伺います。
除外 ①
まず「かゆい脱毛」の原因を除く
皮膚・耳の検査や駆虫で、寄生虫・感染・アレルギーによる脱毛をていねいに除外します。頻度が高く、見落とすと遠回りになるためです。
評価 ②
抜け方・分布・皮膚・被毛をみる
左右対称か、体幹部中心か、皮膚の黒ずみや薄さはあるか、毛が細く抜けやすいかなどを評価し、内分泌性脱毛らしさを見極めます。
最大の分かれ道
血液・ホルモン検査で体の内側を調べる
全身状態の血液検査に加え、症状に応じて甲状腺(T4・遊離T4・TSHなど)や副腎(クッシングの検査)を評価します。これらのホルモン検査は解釈に“クセ”があり、症状を大前提に組み合わせて判断します。
次のステップ
原因を特定し、管理へ/難しい例は提携施設と連携
原因疾患が分かれば、その病気の治療・管理に進みます。画像診断(超音波・CT・MRI)や皮膚生検が必要な難しい例では、提携施設をご紹介して連携します。
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治療の考え方 ― 原因が分かれば、毛は戻ることが多い
内分泌・その他による脱毛の治療は、脱毛そのものを治すのではなく、背景にある原因(病気)ごとに対応するのが基本です。原因を管理できれば、被毛は数か月かけて回復してくることが多くあります。
性ホルモン関連・原因が取り除けるもの
性ホルモンの乱れや、精巣・卵巣の腫瘍が関わる脱毛では、避妊・去勢など原因への対応で改善することがあります。休止期脱毛のように、きっかけ(出産・病気など)が去れば自然に戻るものもあります。
アロペシアX・季節性側腹部脱毛
いずれも命に関わらない、見た目が中心の脱毛です。季節性側腹部脱毛は自然に戻ることが多く、経過をみます。アロペシアXは去勢・避妊やメラトニンなどが試されますが、効果は一定せず、無理な治療より安全を優先します。
皮膚の二次的なケア
毛が薄い皮膚は乾燥・感染・日焼けに弱くなります。原因の治療とあわせて、保湿や薬用シャンプー、二次感染のケアで皮膚の状態を守ります。
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猫の「左右対称の脱毛」は、ホルモンより“掻きすぎ”が多い
同じ左右対称の脱毛でも、猫では注意が必要です。かつては「猫の内分泌性脱毛」という言葉がありましたが、現在では、猫の左右対称の脱毛の多くは、飼い主さんの見ていないところでの過剰な毛づくろい(なめすぎ・掻きすぎ)が原因で、ホルモンの病気はまれだと分かっています。
猫は隠れて毛づくろいをするため、「かゆがっている様子はないのに、お腹や内股・脇の毛だけが左右対称に薄い」ように見えることがあります。しかしその実態は、かゆみや不快感による“なめ壊し”で、背景にノミアレルギー・食物アレルギー・アトピー(猫アトピー症候群)などのかゆい皮膚病や、ストレスが隠れていることが多いのです。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 犬の脱毛(Hair Loss)/MSD獣医マニュアル・飼い主向け(英語) — 脱毛の原因(ホルモンの異常を含む)と、原因を突き止めるための検査の進め方を、飼い主向けにやさしく解説。
- 犬の脱毛性皮膚疾患の理解と治療/Today's Veterinary Practice(獣医師向け・英語) — 炎症のない左右対称の脱毛を、内分泌疾患やアロペシアXまで含めて体系的に整理した専門記事。
- 猫の脱毛(Hair Loss)/MSD獣医マニュアル・飼い主向け(英語) — 猫の左右対称の脱毛の多くが過剰な毛づくろいによることなど、猫特有の考え方を解説。

