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病気の概要
クッシング症候群(Cushing's Syndrome、副腎皮質機能亢進症 / Hyperadrenocorticism)は、腎臓の近くにある副腎から「コルチゾール」というホルモンが過剰に分泌される病気です。コルチゾールは、血糖の維持・ストレスへの対応・炎症の抑制など、生きるうえで欠かせないホルモンですが、多すぎる状態が続くと全身にさまざまな不調を引き起こします。
中〜高齢の犬に比較的多くみられ、進行がゆるやかなため「年のせい」と受け取られがちです。多飲多尿・お腹の膨らみ・左右対称の脱毛などが典型的なサインです。
この病気の理解でとくに大切なのは、診断が意外に難しいという点です。検査には“クセ”があり、症状のない子に安易に検査をすると誤った結果につながります。当院は、症状とていねいに向き合ったうえで、必要な検査を順序立てて行います。
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何が起きているのか ― 3つのタイプ
コルチゾールが過剰になる原因は、大きく3つに分かれます。どのタイプかによって、治療も予後も変わります。
下垂体性(もっとも多い・約8割)
PDH / Pituitary-Dependent
脳の下垂体にできた小さな腫瘍が、副腎に「コルチゾールを出せ」と指令するホルモン(ACTH)を出しすぎるタイプ。左右の副腎がともに大きくなります。自然発生の約80〜85%を占めます。
副腎腫瘍性(約1〜2割)
ADH / Adrenal-Dependent
副腎そのものにできた腫瘍が、指令とは無関係にコルチゾールを作り続けるタイプ。片側の副腎が腫れ、反対側は縮みます。中〜大型犬にやや多い傾向があります。
医原性(お薬による)
Iatrogenic
別の病気の治療で使うステロイド(内服だけでなく点眼・点耳・塗り薬も含む)を長く使うことで、同じ症状が出るタイプ。飼い主様が「薬」と気づいていないこともあります。
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好発・年齢
- 中〜高齢の犬に多く、多くは6歳以上で発症します。
- 下垂体性は小型犬(プードル、ダックスフンド、ボストン・テリア、ヨークシャー・テリアなど)に、副腎腫瘍性は中〜大型犬にやや多い傾向があります。
- 性別では、下垂体性は雌にやや多いという報告があります(研究により差があります)。
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症状・サイン
コルチゾール過剰の影響は全身に及びます。ゆっくり進むため、複数のサインが重なって初めて気づかれることも多くあります。
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見逃せない合併症
クッシング症候群は、それ自体の症状に加え、全身にさまざまな合併症を引き起こすことがあります。診断のときには、これらもあわせて確認します。
- 高血圧(報告では3〜8割と幅があります)
- たんぱく尿(腎臓への負担のサイン)
- 尿路感染(症状が出にくく、来院時の約半数にみられるとの報告。尿の培養検査で確認します)
- 糖尿病(インスリンが効きにくくなるため)
- 膵炎
- 胆嚢のトラブル(胆嚢粘液嚢腫)
- 肺の血栓症(肺血栓塞栓症)——まれですが最も重篤な合併症
- 感染症にかかりやすくなる
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診断・検査 ― なぜ「症状ありき」で検査するのか
この病気を正しく診断するうえで、当院がもっとも大切にしている考え方があります。それは、この病気らしい症状がある子に、必要な検査を行うということです。
診断は、「クッシングかどうかを調べる検査(スクリーニング)」と、「どのタイプかを調べる検査(鑑別)」の2段階で考えます。スクリーニングには主に次の検査を、その子の状況に合わせて使い分けます。
低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST)
少量のステロイドを注射し、時間を追って血中コルチゾールの動きをみる検査。感度が高く、診断の中心となります。一方で、ほかの病気やその日のストレスに影響されやすい面もあり、検査中は静かな環境を保ちます。
ACTH刺激試験
副腎を刺激するホルモンを注射し、反応をみる検査。手軽で、お薬(ステロイド)による医原性クッシングを見分けられる唯一の検査です。ただし見逃し(偽陰性)があり、「陰性でも否定はできない」点に注意します。
尿中コルチゾール/クレアチニン比(UCCR)
自宅で採った尿から調べる検査。“否定する(除外する)”のに強いのが特長で、正常ならクッシングは考えにくくなります。逆に高くても確定はできません。ご自宅で落ち着いて採尿することが大切です。
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どのタイプかを調べる(鑑別)
クッシングと診断がついたら、下垂体性か副腎腫瘍性かを見分けます。これは、副腎の手術を選択肢に入れるときや、今後の見通しを立てるうえで重要です(症状や一般的な血液検査だけでは区別できません)。
STEP 1
腹部超音波検査
左右の副腎の大きさ・形をみます。両側が対称に腫れていれば下垂体性、片側だけの腫瘤+反対側の萎縮なら副腎腫瘍性を示唆します。
STEP 2
内因性ACTHの測定
血中のACTH(副腎への指令ホルモン)を測り、下垂体性か副腎腫瘍性かを見分けます。検体の扱いがデリケートな検査です。
STEP 3
必要に応じてCT・MRI
副腎腫瘍の手術計画や、下垂体腫瘍が大きい場合の評価に用います。高度な画像診断が必要なため、提携施設をご紹介します。
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治療
治療は、タイプ・年齢・合併症・ご家庭の状況をふまえて選びます。多くを占める下垂体性では、お薬でコルチゾールの出過ぎを抑えてコントロールするのが基本です。
トリロスタン(内服)― 中心となる治療
Trilostane
コルチゾールが作られる過程を抑えるお薬。食事と一緒に飲ませます。効きすぎると不足(クリーゼ)を招くため、定期的な検査と診察で慎重に量を調整します。下垂体性・多くの副腎腫瘍性に用います。
副腎摘出(外科手術)
副腎腫瘍性で、手術が可能な場合の根治的な選択肢。周術期の管理が重要で、状態や腫瘍の広がりをみて慎重に適応を判断します。
下垂体の治療(手術・放射線)
下垂体腫瘍が大きく神経症状を伴う場合などに検討されます。高度な設備が必要なため、提携施設をご紹介します。
お薬による医原性の場合
原因となっているステロイドを、急にやめず、時間をかけて少しずつ減らしていきます。急な中止は危険なため、必ず計画的に行います。
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予後・ご家庭でのケア
適切に管理すれば、多くの犬が良い状態で日常を過ごせます。予後を左右するのは、コルチゾールそのものよりも、高血圧・糖尿病・感染・血栓といった合併症をどう管理するかです。治療はゴールではなくスタートであり、その後の付き合い方が結果を大きく左右します。
「たくさん水を飲む」「お腹が出てきた」——その小さな変化に気づいてあげられるのはご家族です。気になるサインがあれば、まずはご相談ください。目の前の数値の奥にあるものまで見据えて、その子とご家族が幸せに過ごせることを目標に、選択肢を一緒に考えます。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)/MSD獣医マニュアル・獣医師向け(英語) — 病態・下垂体性/副腎性の分類・検査・治療を体系的に解説。
- 犬の副腎の病気/MSD獣医マニュアル・飼い主向け(英語) — クッシングとアジソンの両方を、飼い主向けにやさしく解説。

