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COLUMN

手術・処置

前十字靭帯の手術(TPLO)のセミナーを受けてきました

2026年9月17日・18日の2日間、TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)のセミナーを受講してきました。すでにTPLOを執刀している獣医師を対象とした「Advanced(上級)」の回です。膝の手術の「うまくいったその先」を長く保つために、いま世界で何が議論されているのか。診察室でお話ししきれないことを、ここに書き残しておきます。

2026年9月17日・18日の2日間、院長の大塚が東京で開かれたTPLOのセミナーを受講してきました。主催は整形外科インプラントメーカーの Movora Education、共催はアニコムです。

今回受けたのは「Advanced TPLO」と題された回で、すでにTPLOをある程度の数、執刀している外科医を対象とした内容でした。手術の手順を一から教わる会ではありません。基本の手順は共有されている前提で、そこから先——うまくいかない状況にどう手を打つか、どこで失敗が起きやすいか——だけを2日間かけて扱います。

講師は、米国獣医外科学会の Diplomate(DACVS)である Brian Beale 先生、そして国内で整形外科を数多く手がけていらっしゃる 是枝 哲彰 先生天野 まど香 先生。世界の最前線で手を動かしている先生方から、2日間まとめて教わることのできる、めったにない機会でした。

講師の Brian Beale 先生(左)と。2日間、手を動かしながら教わりました。

学んできたのは、犬で比較的よく見られる前十字靭帯の病気に対する手術、TPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)の最新の知見です。とくに、複雑な状況にどう向き合うかと、合併症をどうすれば少しでも減らせるか。すでに当院で行っている手術を、もう一段安全で確実なものにするためのヒントを、たくさん持ち帰ることができました。

TPLOは「靭帯を治す手術」ではありません

まず前提を少しだけ。犬の膝は、脛骨(すねの骨)の上面が後ろ下がりに傾いています。体重がかかると、この斜面に沿って脛骨が前へすべり出そうとし、それを押しとどめているのが前十字靭帯です。靭帯が傷むと、この「すべり」が止まらなくなります。

TPLOは、切れた靭帯を縫い直す手術ではありません。脛骨の傾きそのものをならして、すべり出す力が生まれない構造に作り替える手術です。だから靭帯がないままでも膝が安定します。手術の内容や術後の回復については、TPLOの解説ページに詳しくまとめています。

小型犬では、膝のお皿の問題と重なっていることが多い

ここからが、今回いちばん持ち帰りたかったところです。

小型犬では、膝蓋骨脱臼(パテラ)——膝のお皿が内側にずれる状態——と、前十字靭帯の損傷が重なって起きることが少なくありません。お皿がずれた状態が続くと膝の力のかかり方が偏り、靭帯に負担が積み重なっていくためです。とくに脱臼の程度が重い子ほど、靭帯まで傷んでいる割合が高いことが知られています。

この「重なった膝」は、片方だけ直しても答えになりません。靭帯だけを安定させてもお皿は外れたままですし、お皿だけを整えても膝のすべりは残ります。両方を一度に、しかも互いの邪魔をしないように解決する必要があります。

「1回の手術で両方」に応える方法が育ってきている

この併発例に対しては、いくつかの方法が提案されています。セミナーで扱われたのは、大きく次の2つの考え方でした。

mTPLO(改良型TPLO)

骨を切ったあと、脛骨の上側の骨片を内側へずらして固定します。結果として脛骨粗面(お皿の腱がつく出っぱり)が相対的に外側へ移り、お皿が外れにくい位置関係になります。骨切りは1か所で済みます。

TPLO+脛骨粗面転位(TTT)

TPLOに加えて、脛骨粗面そのものを切り離して外側へ移し、ピンやワイヤーで留め直します。お皿の軌道を直接整えられる反面、骨切りが2か所になります。

どちらも新しい発想ではありませんが、これまでの報告は体格の大きな犬が中心で、器具も小型犬の骨に合うものが十分ではありませんでした。骨切りを2か所つくれば、それだけ骨折や固定のゆるみのリスクも上がります。4kg前後の子の、親指ほどの太さしかない骨で同じことをするのは、まったく別の難しさがあります。

近年は小型犬用のプレートやスクリューが整備され、こうした併発例にも手が届くようになってきました。たとえば2025年の報告では、体重3.1〜5.5kg(中央値4.46kg)のマルチーズ・チワワ・ヨークシャーテリア7頭9関節に対し、もっとも重いグレード4の脱臼を伴う症例へ mTPLO と脛骨粗面転位を同時に実施し、大きな合併症も再脱臼も起こさず、術後10週でほぼ正常な歩き方まで回復したとされています(飼い主様の6か月評価は全例が「大変良い」)。ただしこれは7頭・経過観察も短めの報告で、ここから「どの子でも大丈夫」とは言えません。著者自身もそう書いています。

合併症は「起きてから対処するもの」ではない

もうひとつの柱が、合併症をどう減らすかという話でした。

TPLOは成績の安定した手術ですが、合併症がゼロになるわけではありません。当院のTPLOの解説ページにも書いているとおり、感染・固定のゆるみ・骨癒合の遅れ・脛骨粗面の骨折・遅発性の半月板損傷などが起こりえます。

小型犬に限った報告では、15kg未満の90頭で術後8週以内の合併症は4.4%(いずれも創の部分的な離開のみで、再手術は不要)とされています。大型犬を含む既報の31.5%と比べればかなり低い数字です。ただし、この研究は膝蓋骨脱臼を併発した子を除いた集団のものです。今回学んできたような「重なった膝」に、この数字をそのまま当てはめることはできません。都合のよい数字だけを持ち帰らない——これも大事な学びでした。

実際に教わったのは、もっと地味で具体的なことです。術前に脛骨の傾きを測る角度がわずかにずれるだけで骨切りの位置が変わること、脛骨粗面をどれだけ厚く残すかが骨折を防ぐこと、半月板をどこまで確認するか、プレートをどこに置くか。合併症の多くは、術中の一手前の判断で減らせる。世界の最前線にいる先生方が時間を割いて話していたのが、その「一手前」でした。

実習で使った器具。プレートもスクリューも、体格に合わせて細かくサイズが分かれています。

持ち帰ったものを、どう使うか

当院は、かかりつけの先生と高度医療施設の間をつなぐ1.5次診療を担っています。膝の手術は、当院で対応できる場合もあれば、体格や膝の状態によっては提携施設をご紹介したほうがよい場合もあります。

その判断を、経験の勘だけに預けたくありません。いま世界で何がどこまで分かっていて、何がまだ分かっていないのかを知っていることが、その子にとっての選択肢を増やすことにつながります。今回学んできたことは、手術の腕前としてだけでなく、「この子にはどの方法が向いているか」をご家族と一緒に考えるための材料として使っていきます。

膝の歩き方が気になる、以前パテラと言われたことがある、手術をすすめられたけれど迷っている——どの段階でも構いません。診察室で、レントゲンをお見せしながらご説明します。

さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)

より深く知りたい方のために、今回の内容の裏づけとなる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。

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このコラムで触れた病気について、原因・検査・治療をより詳しくご説明しています。

監修:院長/獣医師 大塚 元貴(2026年9月20日 最終確認)

このページは一般的な情報提供を目的としています。実際の診断・治療方針は その子の状態によって異なります。個別の症状や薬の使い方については、 自己判断せず担当獣医師にご相談ください。

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