猫は、しんどさを隠します
犬とくらべて、猫は体調の悪さを表に出しません。もともと単独で狩りをし、同時に襲われる側でもあった動物なので、弱っているそぶりを見せないことが身を守る術だったのだろうと言われています。
その結果、ご家庭から見える変化は「寝ている時間が増えた」「高いところに乗らなくなった」といった、年齢のせいとも取れるものになりがちです。はっきりした症状が出たときには、すでにかなり進んでいる——猫の診療でくり返し経験することです。
だからこそ、気になったときに、気持ちや印象ではなく数字で確かめられる方法をひとつ知っておくと役に立ちます。
毎日数える必要はありません
先にお伝えしておきます。健康な猫の呼吸数を、こまめに数え続ける必要はありません。
日課にしていただきたいのではなく、数え方を知っておいていただきたいのです。「なんだか呼吸が速い気がする」と感じたとき、その場で確かめられる。それだけで十分に役に立ちます。
心臓の病気などで治療中の子は話が別で、その場合は担当獣医師から記録の仕方をご案内します。
数え方
ステップ1:眠っている(静かに休んでいる)ときに数える
遊んだ直後、暑いとき、ゴロゴロ鳴いているときは数えません。落ち着いて眠っているときが基本です。
ステップ2:胸やお腹が「上がって下がる」で1回と数える
上がるのと下がるのを別々に数えないようにします。横から見ると分かりやすいです。
ステップ3:30秒数えて2倍にする
1分間そのまま数えてもかまいません。慣れると30秒で十分です。
ステップ4:1回だけで判断せず、時間をあけて数回
寝入りばななど、たまたま多く出ることがあります。落ち着いたタイミングで数回試してみてください。
健康な状態では、多くの猫で1分間に30回未満が目安とされています。これは猫の心筋症について米国獣医内科学会(ACVIM)がまとめた指針でも、家庭でのモニタリングの目標として示されている数字です。
なお、呼吸のたびに画面をタップするだけで数えられる無料アプリもあります。心臓の治療中の子にご案内しているものを、猫の肥大型心筋症のページでご紹介しています。
増えるのは、心臓だけが理由ではありません
呼吸数が増える背景は、ひとつではありません。ここを知っておくと、あわてずに状況を見られます。
| 背景 | あわせて見られること |
|---|---|
| 心臓の病気(肥大型心筋症など) | 猫でもっとも多い心臓病。無症状のまま経過することも多い |
| 気管支の病気(猫の喘息) | 発作的な咳、うずくまって首を伸ばす姿勢 |
| 胸に水や空気がたまる | 胸水・気胸。呼吸が浅く速くなる |
| 貧血・発熱・痛み・暑さ | 心臓や肺以外の理由でも呼吸は速くなります |
つまり呼吸数は「心臓の検査」ではなく、からだ全体の具合を映す数字です。増えていること自体が、原因を調べるきっかけになります。
様子を見ずに連絡していただきたいサイン
夜間・休診日に急変したときは
猫の呼吸の急変は、夜間から明け方に起こることが少なくありません。 当院は夜間の診療を行っていないため、 下記の救急病院へ直接ご連絡ください。
翌日以降の経過は当院で引き継ぎます。救急先で受けた検査・処置の内容(レントゲン画像や明細を含む)を お持ちいただけると、そのまま続きを診られます。
当院の診療時間終了後(夜間)に急変した場合は、下記の提携夜間救急病院へ直接ご連絡ください。 昼の休診時間や休診日の日中は、当院で対応できる場合がございますので、まずは当院まで一度ご連絡ください。
当院提携の夜間救急病院
TRVA 夜間救急動物医療センター
世田谷区深沢/20:00〜翌朝6:00
東京都世田谷区深沢8-19-12
夜間救急動物病院 目黒
目黒区碑文谷/20:00〜翌朝8:00
東京都目黒区碑文谷4-15-15 フジビル
※ 記載の対応時間・連絡先は変更される場合があります。受診前に各院の公式サイトで最新情報をご確認ください。
猫の心臓は、聴診だけでは分かりません
診察で心臓の音を聞くことは大切ですが、猫の場合、聴診だけで心臓病の有無は決められません。
- 心雑音が聞こえなくても、心筋症のことがあります
- 逆に、心雑音があっても病気ではないことがあります
当院ではこのことを、そのまま飼い主様にお伝えしています。あいまいにしたまま「大丈夫でしょう」とも「心配ですね」とも言いたくないからです。
治療が必要な状態かどうかは、心エコー(心臓超音波検査)とNT-proBNP(心臓の負担を反映する血液検査)で確かめて判断します。 心エコーは無麻酔で行える検査です。
「気のせいかも」で終わらせないために
猫は、病気がある程度進むまで、はっきりしたサインを出しません。だからこそ、ご家族が感じた小さな違和感が、いちばん早い手がかりになります。
数字にならない変化——寝る場所が変わった、毛づくろいが減った、跳ぶのをためらう、鳴き方が違う。こうしたことは検査では出てきませんが、診察ではとても大切な情報です。
さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
- ACVIM consensus statement guidelines for the classification, diagnosis, and management of cardiomyopathies in cats(JVIM 2020・英語) — 猫の心筋症について米国獣医内科学会がまとめた指針。家庭での安静時呼吸数のモニタリング(1分間30回未満を目標)が推奨として示されています。
- Hypertrophic Cardiomyopathy(Cornell Feline Health Center・英語) — コーネル大学獣医学部の猫専門センターによる解説。「多くの猫は具合が悪そうに見えない」こと、呼吸が速い・口を開けて呼吸するといった気づけるサインがまとめられています。
当院の猫の肥大型心筋症のページでは、病気そのもののしくみ・検査・治療について詳しくご説明しています。呼吸が気になるときは「呼吸が苦しい・速い・開口呼吸」から探すもあわせてご覧ください。
