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病気の概要
気胸(ききょう、Pneumothorax)と胸水(きょうすい、Pleural Effusion)は、どちらも肺そのものではなく、肺を包む「胸腔(きょうくう)」という空間に異常が起きる病気です。胸腔は、肺と胸壁のあいだにあるごくわずかなすき間で、通常はうっすらとした潤滑液があるだけの、ほぼ真空に近い状態に保たれています。この「陰圧」があるおかげで、呼吸のたびに肺がスムーズに膨らみます。
ここに空気がたまるのが気胸、液体がたまるのが胸水です。いずれも肺を外側から圧迫し、肺が十分に膨らめなくなるため、呼吸が苦しくなります。原因は外傷から感染、腫瘍、心臓の病気までさまざまですが、共通しているのは「肺の外側の問題で息ができなくなる」という点です。
この病態でもっとも大切なのは、まず呼吸を安定させること、そしてその裏にある原因を見極めることの2つです。胸腔から空気や液体を抜けば呼吸は比較的すみやかに楽になりますが、原因を放置すれば再びたまります。当院は、超音波でその場の状態を確認しながら、応急処置と原因の見極めを並行して進めます。
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気胸と胸水の違い
同じ「胸腔にたまる病気」でも、たまるものが空気か液体かで原因も対処も変わります。まずはこの違いを整理します。
気胸(空気がたまる)
胸腔に空気が入り込み、肺がしぼんでしまう(虚脱する)状態です。交通事故や咬傷などの外傷、肺にできたふくらみ(ブラ・ブレブ)の破裂などで起こります。空気が抜けられず胸腔の圧が高まり続ける緊張性気胸は、命に直結する最も危険なタイプです。
胸水(液体がたまる)
胸腔に液体がたまり、肺を外から圧迫する状態です。たまる液体の正体は、さらさらの水・白く濁った乳び・膿・血液などさまざまで、液体の性状そのものが原因を教えてくれる手がかりになります。心臓・腫瘍・感染など、背景となる病気が幅広いのが特徴です。
なお、気胸と胸水は別々に起こるとは限らず、外傷などでは空気と液体(血液)が同時にたまることもあります。
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何が起きているのか
胸腔の「陰圧」が保たれていることが、肺がふくらむ大前提です。ここに空気や液体が入り込むと、次のような流れで呼吸が苦しくなります。
STEP 1
胸腔に空気または液体がたまる
外傷・破裂・感染・心臓病などをきっかけに、本来はほぼ空のはずの胸腔に、空気(気胸)や液体(胸水)がたまり始める。
STEP 2
肺が外から圧迫され、膨らめなくなる
たまった空気・液体が肺を押しつぶし、息を吸っても肺が十分に広がらなくなる。1回の呼吸で取り込める酸素が減る。
STEP 3
速く浅い、努力性の呼吸になる
足りない酸素を補おうと、呼吸が速く浅くなり、お腹まで使った苦しそうな呼吸(努力性呼吸)になる。猫では口を開けて呼吸することも。
STEP 4
酸素不足・呼吸不全
対処が遅れると全身が酸素不足に陥る。とくに緊張性気胸では胸腔の圧が心臓まで圧迫し、短時間でショック・呼吸不全に至ることがある。
04
原因
気胸と胸水は、それぞれ原因の切り口が異なります。順に見ていきます。
気胸の原因
| タイプ | 主な原因 |
|---|---|
| 外傷性 | 交通事故・高所からの落下・咬傷などによる胸壁の貫通や、肋骨骨折にともなう肺の損傷。犬・猫の気胸でもっとも多い |
| 自然気胸 | 明らかな外傷がないのに起こるもの。肺にできた気腫性のふくらみ(ブラ・ブレブ)の破裂が犬では最多。ほかに肺の腫瘍、肺膿瘍、肺虫(寄生虫)、重い肺炎などが背景になる |
| 医原性 | 検査・処置にともなって生じるもの(胸腔穿刺や、気道・肺に関わる手技など) |
犬では自然気胸の多くがブラ・ブレブの破裂によるもので、猫では喘息などもともとある気道の炎症が背景にあることが多い、という違いが知られています。
胸水の原因(たまる液体の性状で分かる)
胸水では、抜いた液体の見た目と性状を調べることが、そのまま原因の絞り込みにつながります。
| 液体の性状 | 見た目の目安 | 主な原因 |
|---|---|---|
| 漏出液 | 透明でさらさら | 血液中のアルブミン(たんぱく)の低下(重い肝臓・腎臓・消化管の病気など) |
| 変性漏出液 | ややにごり | 心不全(とくに猫)・腫瘍・横隔膜ヘルニア・肺葉捻転など |
| 乳び(にゅうび)胸 | 白く濁った乳液状 | 胸管(リンパの通り道)からリンパ液(乳び)が漏れる。特発性・外傷・縦隔の腫瘍・心疾患・フィラリアなど |
| 膿胸(のうきょう) | 濁った膿のよう | 細菌などの感染。胸壁の貫通創・異物の移動・肺の病気の波及など |
| 血胸 | 血液のよう | 外傷・血液が固まりにくくなる病気(殺鼠剤中毒など)・腫瘍・肺葉捻転 |
| 腫瘍性 | さまざま | 縦隔型リンパ腫・胸腺腫・中皮腫などのがん |
猫では、心不全・胸の中の腫瘍(縦隔リンパ腫など)・膿胸・猫伝染性腹膜炎(FIP)が胸水の代表的な原因です。原因によって治療も予後も大きく異なるため、「液体を抜いて終わり」ではなく、性状分析による原因究明がとても重要になります。
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症状・サイン
気胸・胸水に共通するのは、呼吸の変化です。肺の外側の問題なので、咳よりも「呼吸そのものの異常」として現れやすいのが特徴です。
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診断・検査
診断の目的は2つです。「胸腔に空気か液体がたまっているか(=気胸か胸水か)」を素早く見極めること、そして「その原因は何か」を突き止めることです。呼吸が苦しい子では、まず酸素を投与し、負担の少ない検査から進めます。
胸部超音波検査(TFAST)
ベッドサイドで数分で行える、負担の少ない検査です。胸腔の空気や液体をその場で素早く検出でき、呼吸が苦しい子の初期評価に最適です。穿刺(針で抜く処置)をする際のガイドにもなります。
胸部レントゲン検査
たまった量、肺の虚脱(しぼみ)の程度、心臓や腫瘍など原因の手がかりを評価します。ただし大量にたまって呼吸が苦しいときは、先に穿刺で抜いて呼吸を安定させてから撮影することもあります。
穿刺液の性状分析
胸水で最も重要な検査です。抜いた液体を、細胞診・トリグリセリド(乳びの判定)・細菌培養(膿胸の判定)・ヘマトクリット(血胸の判定)などで調べ、原因を性状から絞り込みます。
CT検査・追加検査(必要に応じて)
自然気胸の原因(ブラ・ブレブ)の位置を探したり、腫瘍の広がりや外科の適応を判断したりする際に有用です。血液検査・凝固検査などで全身状態や背景疾患も評価します。必要に応じて提携施設と連携します。
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治療 ― まず呼吸、そして原因へ
治療は、①急いで呼吸を安定させる → ②原因に応じた治療へ進む、という二段構えで考えます。応急処置で呼吸を楽にすることと、根本の原因に向き合うことの、どちらも欠かせません。
STEP 1
酸素と胸腔穿刺で呼吸を安定させる
まず酸素を投与し、必要に応じて胸腔穿刺(胸腔に細い針やカテーテルを入れ、空気や液体を抜く処置)で肺を膨らみやすくします。呼吸を比較的すみやかに楽にできる、最優先の応急処置です。
STEP 2
胸腔ドレーン(管)の留置
何度も抜いてもたまる、空気漏れが続く、といった場合には、胸腔に細い管を留置して継続的に排出します。膿胸では、この管を使って胸腔の中を洗浄することもあります。
STEP 3
原因に応じた治療
膿胸なら洗浄と抗菌薬、心臓が原因の胸水なら心臓の治療、腫瘍ならそれぞれの治療、というように原因ごとに対応します。乳び胸や、内科管理で治まらない自然気胸などは、外科手術が必要になることがあります。
STEP 4
呼吸を守りながら、原因と向き合う
応急処置で呼吸の安全を確保しつつ、背景にある病気を管理していく。「その子が楽に息をできる状態」を保つことを、常に治療の軸に置きます。
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予後
気胸・胸水の見通しは、背景にある原因によって大きく変わります。外傷による気胸の多くは、空気を抜いて安静に管理することで良好に回復します。膿胸は治療に時間がかかりますが、しっかり洗浄・抗菌薬を続けることで管理できる子が少なくありません。一方で、腫瘍が原因の胸水や、猫伝染性腹膜炎(FIP)にともなうもの、内科管理で治まりにくい乳び胸などは、より慎重な見通しが必要になります。
いずれの場合も、早く気づいて早く呼吸を安定させられるかどうかが、その後を大きく左右します。「呼吸が少し変」の段階で受診していただければ、それだけ打てる手も、守れる時間も増えます。原因を見極めたうえで、その子とご家族が穏やかに過ごせることを目標に、選択肢を一緒に考えていきます。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 犬の胸腔内の液体・空気の貯留/MSD獣医マニュアル・飼い主向け(英語) — 犬の気胸・胸水(血胸・乳び胸など)の原因と対処の全体像を、飼い主向けにやさしく解説。
- 猫の胸腔の病気/MSD獣医マニュアル・飼い主向け(英語) — 猫の胸水(乳び胸・膿胸・血胸)や気胸について、猫に多い原因を含めて解説。
- 自然気胸/米国獣医外科学会(ACVS)・英語 — 犬の自然気胸(ブラ・ブレブ破裂)の原因・診断・外科治療と予後を、専門機関がまとめたページ。

