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病気の概要
キアリ様奇形(Chiari-like Malformation:CM)と脊髄空洞症(Syringomyelia:SM)は、セットで語られることの多い神経の病気です。
キアリ様奇形は、脳を収める頭蓋の後ろ側が相対的に小さく、脳(とくに小脳や脳幹)が窮屈に押し込められた状態を指します。生まれつきの頭蓋・脳の形の不一致による先天的な異常です。窮屈になった出口(大後頭孔)で、脳と脊髄をひたす髄液(脳脊髄液)の流れが妨げられると、その圧の乱れが脊髄に伝わります。
その結果、脊髄の中に液体のたまった空洞(シリンクス)ができてしまうのが脊髄空洞症です。空洞が脊髄の神経、とくに感覚を伝える部分に触れることで、痛みや「かゆみ・違和感」といった神経障害性の症状が現れます。
キャバリア
とくに好発する犬種。キアリ様奇形はこの犬種で非常に多い
先天性
生まれつきの頭蓋・脳の形の不一致が背景にある
無症状も
画像で空洞があっても症状の出ない子が多い(所見と症状は一致しないことがある)
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なぜ起こるのか ― 頭蓋と髄液の流れ
正常では、髄液は脳と脊髄のまわりをなめらかに循環し、圧を一定に保っています。キアリ様奇形では、脳の容積に対して頭蓋の後ろ(後頭部)のスペースが足りず、脳の一部が大後頭孔のほうへ押し出されるように詰まります。
この「詰まり」が髄液の行き来を妨げると、拍動のたびに圧のムラが生じ、その力が脊髄の内部へ逃げ込むように働いて、時間をかけて脊髄内に空洞(シリンクス)を広げていくと考えられています。空洞が首(頸部)の脊髄の背側にでき、感覚神経の入り口(背側角)に達すると、首・肩まわりの神経障害性の症状が出やすくなります。
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好発犬種と発症の傾向
もっとも代表的なのはキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルです。この犬種ではキアリ様奇形がごく一般的にみられ、MRIを撮ると脊髄空洞症が見つかる例も多く、加齢とともにその割合は高くなる傾向があります。ほかにも、チワワやグリフォン・ブラバンソンなどの小型・短頭傾向の犬種で報告があります。
- 症状が出る場合、比較的若い成犬期(多くは数歳まで)に気づかれることが多い一方、発症年齢には幅があります
- 症状の重さと画像所見(空洞の大きさ)は、必ずしも一致しません。大きな空洞でも無症状のことも、小さくてもつらい痛みが出ることもあります
- キャバリアだからといって、すべての子が発症するわけではありません
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症状・気づき方
もっとも大切なサインは首・頭まわりの神経障害性の痛みと、ファントムスクラッチです。皮膚や耳に異常がないのに、次のような様子が続く場合は、この病気を疑う手がかりになります。
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診断・検査
診断の中心はMRI(磁気共鳴画像)です。頭蓋・脳の詰まり具合と、脊髄内の空洞の有無・位置・大きさを直接評価できるのはMRIだけです。
ステップ1:問診・症状の確認
いつ・どんな場面でしぐさが出るか、痛がる様子はあるかを伺います。ご家庭で撮った動画が非常に有力な情報になります。
ステップ2:神経学的検査
痛みの部位、首の可動、反射、ふらつきや弱さの有無を評価し、脊髄のどのあたりが関わっていそうかを推定します。
ステップ3:MRIによる評価
キアリ様奇形の程度と、脊髄空洞症の有無・広がりを確認します。高度画像診断が必要な場合は、提携する画像診断施設「CAMIC城南」へ迅速にご紹介します。撮影画像と所見は当院に共有され、結果をふまえた方針をご提案できます。
ステップ4:他疾患との鑑別
首の痛みや宙をかくしぐさを起こす他の原因(椎間板疾患・中耳炎・皮膚疾患など)を除外します。
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治療と管理
治療の目標は「病気を消し去ること」ではなく、痛みや不快をやわらげ、その子が穏やかに過ごせる状態を保つことです。症状の重さに応じて、内科的な管理と外科的な治療を組み合わせて考えます。
内科的な管理(多くの子で中心になります)
神経障害性の痛み・かゆみをやわらげる薬や、髄液の産生を抑えて圧の乱れを軽くする薬などを、その子の症状に合わせて用います。神経障害性の痛みは一般的な鎮痛だけでは十分にコントロールできないことがあり、専用の考え方での調整が必要です。
外科的な治療
痛みが強い場合や進行する場合には、頭蓋の後ろを広げて髄液の通り道を確保する手術(大後頭孔減圧術など)を検討します。多くの子で痛みの軽減が期待できますが、もともとの形は変えられないため症状が再び出ることもあり、術後も内科的な管理を続けることが少なくありません。手術が必要な場合は提携施設をご紹介します。
生活の工夫
- 首への負担を減らす:首輪よりハーネスを使う、食器を高い位置にして首を下げすぎないようにする
- 興奮・急な動きを避ける:症状は興奮時に出やすいため、落ち着ける環境を整える
- 痛みのサインを記録する:しぐさの頻度や場面をメモ・動画で残すと、治療の効果判定に役立ちます
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無症状の子・繁殖の考え方
キアリ様奇形/脊髄空洞症は遺伝的な背景が強く関わります。繁殖を考える場合は、症状がなくてもMRIによるスクリーニングが推奨されます。英国では繁殖犬のMRIを評価する制度(BVA/ケネルクラブのCM/SMスキーム)が整備され、空洞の有無・程度・発症年齢を踏まえた繁殖判断に用いられています。
すでに一緒に暮らしている子で、症状がまったくなければ、過度に心配しすぎる必要はありません。大切なのは、この病気を知っておき、サインが出たときに早く気づけることです。「首をかく」「触ると痛がる」といった変化に気づいたら、その時点でご相談ください。DEPTHの一つ「T=Tenacious(選択肢を最大化する)」の考え方で、早く知り、打てる手を増やしていきましょう。
キャバリアで多い僧帽弁閉鎖不全症(心臓の病気)について08
さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- キアリ様奇形関連痛・脊髄空洞症の行動と臨床サイン/Journal of Veterinary Internal Medicine(Rusbridge ら・英語) — キャバリアにおける神経障害性の痛みとファントムスクラッチを解析した査読論文。
- 犬・猫の先天性/遺伝性の脊髄障害/MSD獣医マニュアル(英語) — 脊髄空洞症を含む先天性脊髄障害の位置づけを整理。
- ファントムスクラッチのMRI的特徴/査読論文・PMC(英語) — C3〜C6の背側の空洞と「宙をかく」しぐさの関連を示した一次研究。

