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CHOP PROTOCOL

犬のリンパ腫のCHOP療法(多剤併用化学療法)

犬のリンパ腫の“標準治療”を、週ごとの組み立てから予後まで、ていねいに。

CHOP療法は、犬の多中心型リンパ腫に対してもっとも広く使われる多剤併用の化学療法です。作用のしかたが違う複数の薬を、骨髄の回復を待ちながら順番に投与していく——その「組み立て」に、効果と安全性を両立させる工夫が詰まっています。このページでは、リンパ腫ページより一歩踏み込んで、CHOPの中身を週ごとの流れから予後・再発時の対応まで解説します。

  • 腫瘍科
  • 化学療法
  • リンパ腫

この記事は 院長/獣医師 大塚 元貴 が監修しています(最終監修日:)。

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CHOPとは

CHOP(チョップ)療法は、4つの薬を組み合わせた多剤併用の化学療法で、名前は使う薬の頭文字に由来します。

  • C … シクロホスファミド
  • H … ヒドロキシダウノルビシン(=ドキソルビシン
  • O … オンコビン(=ビンクリスチン
  • P … プレドニゾロン

犬の臨床では、ウィスコンシン大学(UW-Madison)で確立されたプロトコルが広く使われ、犬の多中心型リンパ腫(もっとも多いタイプ)に対する標準的な第一選択の治療と位置づけられています。

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なぜ“多剤併用”なのか

ひとつの薬だけでは、生き残った腫瘍細胞から再び増えてきやすく、また薬への抵抗性(耐性)も生じやすくなります。そこで、作用のしかたが異なる薬を組み合わせることで、腫瘍細胞の逃げ道をふさぎ、耐性の出現を抑えながら、より深く長い寛解をめざします。これがCHOPの基本的な考え方です。

使う薬と、その役割

種類(クラス)主な働き・役割
シクロホスファミドアルキル化剤DNAを傷つけ、細胞の分裂を止める
ドキソルビシンアントラサイクリン系DNAの複製に関わる酵素を阻害。CHOPの効果の中心となる薬
ビンクリスチンビンカアルカロイド細胞分裂の仕組みを止める。骨髄への負担が比較的軽く、頻繁に使える
プレドニゾロンステロイドリンパ球を減らす。速効性で食欲や元気を改善。少しずつ減らして使う

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スケジュールの組み立て(週ごとの流れ)

CHOPの考え方は、**「導入期はほぼ週1回、作用の異なる薬を順番に投与し、骨髄が回復する時間を挟みながら回していく」というものです。ビンクリスチン→シクロホスファミド→ビンクリスチン→ドキソルビシンという1サイクルを繰り返し、サイクルの合間に休薬週(骨髄を回復させる週)**を置きます。

代表的な19週版では、次のような並びになります(薬の量は担当獣医師が決定します)。

投与する薬
第1週ビンクリスチン + プレドニゾロン開始(毎日・以後少しずつ減らす)
第2週シクロホスファミド(膀胱を守るため利尿薬を併用)
第3週ビンクリスチン
第4週ドキソルビシン
第5週休薬(骨髄の回復)
第6〜9週ビンクリスチン→シクロホスファミド→ビンクリスチン→ドキソルビシン(1週ごと)
第10週休薬
第11〜14週同じ4剤のローテーションをくり返す
第15週休薬
第16〜19週同じ4剤のローテーションをくり返す
第19週〜完全寛解が続いていれば治療を終了し、月1回程度の再診(経過観察)へ
  • プレドニゾロンは、はじめの4週間ほど毎日投与し、段階的に減らして中止します。
  • シクロホスファミドの日には、後述の膀胱炎を防ぐために利尿薬を併用し、十分に水を飲ませます。

19週版と25週版 ― 通院の都合で選べる

CHOPには、後半の投与間隔を変えた19週版と25週版があります。25週版は投与を2週間隔に広げるぶん、通院回数や費用を平準化できます。B細胞リンパ腫での比較研究では、両者の効果(無増悪生存・全生存・奏効率)に有意な差はないと報告されています。つまり、どちらを選ぶかは、主にご家庭の通院のご都合で決めてよいというのが現在の理解です。

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治療前の準備と、毎回のモニタリング

  1. ステップ1治療前のベース評価

    診断の確定に加え、リンパ腫のタイプ(B細胞かT細胞かの免疫表現型)、病期、血液検査(血球・生化学)で全身状態を確認します。ドキソルビシンを使うため、必要に応じて心臓の評価も考慮します。

  2. ステップ2毎回、投与前の血液検査(CBC)

    各投与の前に好中球の数を確認します。目安として、おおむね十分な数があれば予定どおり投与し、基準を下回れば投与を延期・減量します(判断はその子の様子とあわせて担当獣医師が行います)。

  3. ステップ3下がりやすい時期(nadir)の把握

    多くの薬で、投与のおよそ1週間後に好中球が最も下がります。この時期は感染に弱くなるため、ご家庭での体調チェックが大切です。

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副作用と、その管理

化学療法の副作用・家庭での安全な取り扱いを総論で読む

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効果の見込み(報告値の幅)

数字は集団での傾向で、その子ごとに幅があります。

  • 寛解率:報告では、多剤CHOPで**約8〜9割が寛解(完全寛解)**に入ります。
  • 初回寛解が続く期間:報告ではおおむね半年〜1年ほど
  • 生存期間(タイプで差):報告では、B細胞型でおよそ1年前後(レスキューを行うとさらに延びる例、2年以上過ごす例もあります)、T細胞型ではそれより短い傾向とされます。
  • 無治療の場合:高悪性度の多中心型では、無治療だと診断からおおむね数週間で全身状態が悪化すると報告されています。
犬・猫のリンパ腫の診断・タイプ分類について読む

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再発したときは ― レスキュー療法

CHOPで得た寛解も、いずれ破綻して再発することが多いのが実情です。そのときは、**それまでと作用のしかたが異なる薬に切り替える「レスキュー療法」**を検討します。用いられる薬には、ロムスチン、MOPP、ミトキサントロン、ラブカホサジンなどがあります(どれを選ぶか・量は担当獣医師が個別に決めます)。

また、CHOPを終えてから十分な期間、寛解が続いたうえで再発した場合は、同じCHOPをもう一度行うと再び効くことが多いとされます。一方で、CHOPの治療中や直後に早く進行してしまった場合は、予後が厳しく、レスキューへの反応も乏しい傾向があります。

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CHOPと、ほかの選択肢の比較

CHOPが唯一の選択肢ではありません。効果の大きさと、通院・費用・体への負担のバランスで選びます。

選択肢特徴トレードオフ
CHOP(多剤)もっとも高い寛解率・長い生存が期待できる通院回数が多い・費用がかかる・毒性の管理が必要
COPCHOPからドキソルビシンを除いた構成。心臓への負担を避けられる一般に寛解率・生存はCHOPに劣るとされる
単剤ドキソルビシン通院回数が少なくシンプル併用より寛解期間が短い傾向
プレドニゾロン単独(緩和)安価・通院最小・自宅で投与できる一時的な改善のみで、寛解は短い(数週〜2か月程度)

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費用・通院・生活との両立

  • 通院頻度:導入期はほぼ毎週、その後は間隔を空けます(19週版・25週版の選択で調整できます)。
  • 費用:薬剤と毎回の血液検査を含め、継続的な費用がかかります。事前にお見積もり・ご相談ができます。
  • 生活との両立:多くの犬は日帰りの外来で治療でき、治療中も良い生活の質を保って過ごせることが多いです。
  • ご家庭での安全な取り扱い:飲み薬や、投与後数日間の排泄物の扱いには注意が必要です(手袋・手洗い・排泄物の適切な処理、妊婦・小児との接触への配慮)。詳しくは化学療法の総論ページで解説しています。

CHOPは、正しく組み立て、ていねいにモニタリングすれば、リンパ腫の犬とご家族に「良い時間」をもたらしうる治療です。一方で、通院や費用、体への負担も伴います。だからこそ、期待できる効果と負担を正直にお伝えし、その子とご家族が幸せに過ごせることを軸に、CHOPを選ぶ・選ばないも含めて、方針を一緒に考えます。

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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)

より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。

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Q&A

よくあるご質問

CHOPは、どのくらいの期間・どのくらいの頻度で通院するのですか。
代表的なプロトコルでは、導入期のはじめの数週間はほぼ毎週の通院で薬を順番に投与し、その後は投与の間隔を空けながら、全体でおよそ19〜25週かけて行います。19週版と25週版があり、効果はほぼ同等とされているため、ご家庭の通院のご都合に合わせて選べます。完全に寛解した状態でプロトコルを終えたあとは、維持のための抗がん剤は使わず、月1回程度の再診で経過を見守るのが現在の標準的な流れです。再発した場合には、あらためて治療を検討します。
毎回、治療の前に血液検査をするのはなぜですか。
抗がん剤は一時的に白血球(とくに好中球)を減らすため、その日の投与を安全に行えるかを確かめる必要があるからです。各投与の前に血液検査(CBC)で好中球の数を確認し、十分にあれば予定どおり投与します。基準を下回っている場合は、その日の投与を延期したり、量を調整したりします。とくに投与の1週間後ごろは好中球が最も下がりやすい時期で、この時期に発熱や元気消失があれば注意が必要です。数値だけでなく、その子の様子とあわせて判断します。
抗がん剤の副作用で、つらい思いをさせてしまわないか心配です。
動物のCHOP療法は「生活の質を保つこと」を最優先に設計されており、人の治療ほど強い副作用は出にくいとされています。脱毛はほとんどなく、副作用が出ても多くは食欲低下・軽い吐き気や下痢などで、支持療法で管理できる範囲におさまることが多いです。ただし、白血球が下がる時期の感染や、薬ごとに気をつけるべき固有の副作用(心臓への負担、膀胱の炎症など)があります。これらを避けるための工夫やモニタリングを行いながら進め、つらさが強いときは量や間隔を調整します。副作用の全体像は化学療法の総論ページでも解説しています。
CHOPで治療すれば、リンパ腫は治りますか。
CHOPは非常に効果の高い治療で、報告では多中心型リンパ腫の犬の約8〜9割が寛解(症状が消えた状態)に入ります。ただし、多くは「完治」ではなく「良い状態をできるだけ長く保つ」ことが目標になります。生存期間はB細胞型かT細胞型かなどで異なり、数字には幅があります。だからこそ、治療前にリンパ腫のタイプ(免疫表現型)を調べることが、見通しを立て、その子に合った方針を選ぶうえで大切になります。
いったん良くなっても再発すると聞きました。そのときはどうするのですか。
CHOPで得た寛解も、いずれ破綻して再発することが多いのが実情です。その場合は、それまでと作用のしかたが異なる薬に切り替える「レスキュー療法」を検討します。また、CHOPを終えてから十分な期間、寛解が続いたうえで再発した場合には、同じCHOPをもう一度行うと再び効くことも多いとされます。再発は残念な出来事ですが、次の一手がないわけではありません。その時々のその子の状態とご家族のお気持ちに合わせて、選択肢を一緒に考えます。

このページは一般的な情報提供を目的としています。実際の診断・治療方針は その子の状態によって異なります。個別の症状や薬の使い方については、 自己判断せず担当獣医師にご相談ください。