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病気の概要
甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう、Hyperthyroidism)は、のどにある甲状腺から甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。甲状腺ホルモンは全身の代謝(エネルギーの燃やし方)を調節するアクセルのような役割を持っており、これが出すぎることで、体じゅうが「常に全開でアクセルを踏み続けている」状態になります。
高齢の猫にもっとも多いホルモンの病気で、10歳を超える猫の約10%にみられると報告されています。多くは甲状腺の良性の変化(過形成・腺腫)が原因で、悪性(甲状腺癌)はまれ(数%以下)です。ただし、病気の期間が長くなるほど悪性の割合が上がることも知られています。
やっかいなのは、初期には「よく食べて活発」に見えるため、病気ではなく“元気”と受け取られてしまうことです。放置すると心臓・腎臓・血圧に負担が積み重なっていきます。一方で、正しく診断し管理すれば、多くの猫が良い状態で長く過ごせる病気でもあります。
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何が起きているのか
健康な状態では、甲状腺ホルモンの量は脳(下垂体)からの指令(TSH)によって、多すぎず少なすぎず調節されています。この病気では、変化した甲状腺の組織が脳の指令を無視して、自分勝手にホルモンを作り続けます。ブレーキ(TSH)は効かず、アクセルだけが踏まれ続けるイメージです。
過剰なホルモンは、全身に次のような影響を及ぼします。
代謝の亢進
エネルギーを異常な速さで消費し、筋肉まで削って痩せていきます。たくさん食べても追いつかず、体重が減ります。
心臓への負担
心拍数と心臓の仕事量が増え、心雑音・不整脈・心筋の肥厚などが起こります(甲状腺中毒性心筋症)。多くは甲状腺が落ち着くと元に戻ります。
高血圧
全身の血圧が上がり、放置すると網膜剥離による突然の失明など、目・腎臓・脳・心臓の障害につながることがあります。
腎臓との複雑な関係
腎臓の血流を増やすため、もともとの腎臓病を“隠して”しまうことがあります(後述)。この病気を理解するうえで最も重要な点のひとつです。
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好発・年齢
- 中〜高齢の猫に多く、診断されるのはおおむね12〜13歳前後が中心です。
- 若い猫(6〜8歳未満)ではまれなため、若齢で似た症状があるときは、別の病気をより強く疑います。
- 性別による大きな差は知られていません。
- 純血種(シャム・ヒマラヤンなど)では比較的少ないという報告があり、雑種猫にやや多い傾向があります。
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症状・サイン
代謝が上がりすぎることで、次のようなサインが現れます。いくつも重なることもあれば、ひとつだけのこともあります。
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診断・検査
診断の基本は、血液中の甲状腺ホルモン(T4)を測ることです。ただし「T4が高ければ診断、正常なら否定」と単純には割り切れないのが、この病気の奥深いところです。当院では、症状・触診・複数の検査を組み合わせて、ていねいに見極めます。
STEP 1
問診・触診(甲状腺腫)
体重の変化・食欲・活動性・飲水量などを伺い、のどの甲状腺の腫れ(しこり)を触れて確認します。触れないから否定はできません。
STEP 2
総サイロキシン(総T4)の測定
スクリーニングの中心です。症状があり総T4が明らかに高ければ、診断はほぼ確定します。
STEP 3
正常〜グレーゾーンなら追加検査
遊離T4・甲状腺刺激ホルモン(TSH)などを組み合わせ、日を変えて再検査することもあります。
STEP 4
全身の評価(腎臓・血圧・心臓)
尿検査・血圧測定・必要に応じて心臓の評価を行い、治療の前提となる全身の状態を把握します。
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甲状腺と腎臓の、切っても切れない関係
この病気でもっとも大切で、見落とされやすいのが腎臓との関係です。当院がとくにていねいに説明する部分です。
甲状腺ホルモンが過剰な間は、腎臓に流れる血液が増え、腎臓が“実際よりも良く”働いているように見えます。さらに筋肉が減ることで、腎臓の指標である血液中のクレアチニンも見かけ上低くなります。その結果、もともと持っている慢性腎臓病(CKD)が、甲状腺の病気の陰に隠れてしまうのです。
治療前
腎臓病が隠れている
甲状腺ホルモン過剰で腎血流が増え、腎臓病があっても検査値は“正常”に見えることがある。
治療後
腎臓病が表に出る
甲状腺が正常化すると腎血流が本来の状態に戻り、隠れていた腎臓病(数値の悪化)が現れることがある。
だからこそ
両方をあわせて管理
治療前に腎臓を評価し、治療後も甲状腺と腎臓の“バランス”を見ながら調整する。
この「隠れた腎臓病」を意識することは、次の治療選びに直結します。腎臓のリスクが読みにくい猫では、まず元に戻せる(可逆的な)お薬で甲状腺を正常化し、腎臓の反応を確かめてから、根治的な治療に進むという慎重な進め方が理にかなっています。また、甲状腺ホルモンを下げすぎないことも大切です(下げすぎ=医原性の甲状腺機能低下は、かえって腎臓に負担をかけます)。
関連:猫の慢性腎臓病(CKD)について07
治療の選択肢
治療には大きく4つの方法があり、「元に戻せる治療」と「根治をめざす治療」に分けられます。その子の年齢・腎臓や心臓の状態・ご家庭で続けやすいか・費用などをふまえ、一緒に選びます。
抗甲状腺薬(内服・経皮)
Methimazole / Carbimazole
甲状腺ホルモンが作られる過程を抑えるお薬。飲み薬のほか、耳に塗るタイプ(経皮)もあり、投薬が難しい子にも使えます。元に戻せる(可逆的)ため、腎臓の反応を確かめる“お試し”に適します。根治はせず生涯の投薬が必要で、定期的な血液検査で調整します。
放射性ヨウ素治療(I-131)
Radioiodine
過剰に働いている甲状腺組織だけに集まって、そこを選択的に処置する治療。1回で高い確率で治癒が期待でき、根治的な第一選択とされます。専用の設備と隔離入院が必要なため、提携施設をご紹介します。効果は元に戻せないため、腎臓の評価をしたうえで選びます。
外科手術(甲状腺摘出)
Thyroidectomy
甲状腺そのものを取り除く根治的な治療。全身麻酔が必要で、術後の低カルシウム血症や再発に注意が要ります。画像で病変の広がりを確認したうえで検討します。
ヨウ素制限食
Iodine-restricted diet
甲状腺ホルモンの材料であるヨウ素を極端に制限した療法食。投薬や麻酔が難しい子の選択肢になります。その療法食“だけ”を食べ続けることが絶対条件で、ほかの食べ物やおやつ、盗み食いがあると効きません。
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予後・ご家庭でのケア
適切に管理すれば予後は比較的良好で、多くの猫が良いQOLを保って年単位で過ごせます。予後を左右するのは、甲状腺そのものよりも、併発する腎臓病・高血圧・心臓の状態をどう管理するかです。
「よく食べているのに痩せる」——その小さな違和感に気づいてあげられるのは、毎日を一緒に過ごすご家族です。気になるサインがあれば、まずはご相談ください。目の前の数値の奥にあるものまで見据えて、その子とご家族が幸せに過ごせることを目標に、選択肢を一緒に考えます。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 猫の甲状腺機能亢進症/International Cat Care・ISFM(英語) — 症状・診断・4つの治療法(内服/放射性ヨウ素/手術/食事)を猫専門団体が解説。
- 甲状腺機能亢進症/MSD獣医マニュアル・獣医師向け(英語) — 病態・T4診断・各治療を獣医師視点で解説。

