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古谷動物病院古谷動物病院FURUYA ANIMAL CLINICご予約

FELINE HEARTWORM DISEASE

猫のフィラリア症(犬糸状虫症)

「犬の病気」ではありません。猫のフィラリアは、たった1匹でも命に関わり、そして治す薬がありません。

フィラリア症は犬の病気だと思われがちですが、猫も蚊に刺されれば感染します。猫では寄生する数がごく少ない代わりに、たった1匹でも突然死を招くことがある——それがこの病気の怖さです。犬と違って安全に虫を駆除できる薬はなく、症状が出てからできることは限られます。だからこそ「かからせない」毎月の予防がすべてです。室内で暮らす猫も例外ではありません。診察室でこの現実を正しくお伝えし、その子を守る備えを一緒に整えます。

  • 循環器科
  • 呼吸器科
  • 予防

この記事は 院長/獣医師 大塚 元貴 が監修しています(最終監修日:)。

01

病気の概要

フィラリア症(フィラリアしょう、犬糸状虫症〈けんしじょうちゅうしょう〉、Heartworm Disease)は、**蚊が媒介する寄生虫「犬糸状虫(Dirofilaria immitis)」**が、心臓や肺の血管(肺動脈)に寄生する病気です。名前のとおり犬の病気として知られていますが、猫も蚊に刺されれば感染します

猫は犬に比べてフィラリアに「かかりにくい」体質で、同じ地域の犬の感染率のおよそ5〜20%程度とされます。寄生してしまう虫の数も少なく、多くは1〜3匹、しばしば1匹だけです。ところが——この「数の少なさ」が、かえって油断できない理由になります。

そして最大の問題は、猫には安全に虫を駆除する治療薬がないことです。犬で使う成虫駆虫薬は猫には危険で使えません。かかってからできることは限られ、症状を抑えながら虫の寿命が尽きるのを待つしかありません。だからこそ、この病気は**「治す」より「かからせない」——毎月の予防がすべて**なのです。

1〜3

猫での典型的な寄生数。しばしば1匹だけでも命に関わる

約25%

診断された猫のうち「完全室内飼い」だった割合

0

猫に安全に使える成虫駆虫薬。だから予防がすべて

02

何が起きているのか ― 犬とはまったく違う病気

同じ寄生虫でも、猫の体の中で起きることは犬とは大きく異なります。猫は犬糸状虫にとって「本来の宿主ではない(不適合な宿主)」ため、多くの虫は成虫になる前に死んでしまいます。この「虫が死ぬ」ことそのものが、猫では激しい炎症を引き起こすのが特徴です。

STEP 1

蚊に刺されて幼虫が入る

フィラリアに感染した猫や犬の血を吸った蚊が、次に猫を刺すとき、感染幼虫(L3)を皮膚から注入する。ここから猫の体内での旅が始まる。

STEP 2

幼虫が肺の血管へ移動する(約3〜4か月)

幼虫は体内で成長しながら移動し、感染からおよそ3〜4か月で、未熟な若い虫が肺の動脈(肺動脈)に到達する。

STEP 3

第1の炎症の波 ― 多くの虫がここで死ぬ(HARD)

猫の体は不適合な宿主のため、到達した未熟な虫の多くがここで死ぬ。その死骸に免疫が猛烈に反応し、肺の血管と肺そのものに激しい炎症が起こる。これが喘息そっくりの呼吸器症状=HARD(フィラリア関連呼吸器疾患)で、成虫が1匹もいなくても起こりうる。

STEP 4

第2の炎症の波 ― 成虫の死(突然死の危険)

生き残った虫が成虫になっても、その寿命は2〜4年と短い。1匹でも成虫が死ぬと、そのかけらが肺の血管に詰まり、急な呼吸困難・ショック・突然死を引き起こすことがある。猫のフィラリアが最も恐ろしいのは、この瞬間である。

03

症状・サイン

猫のフィラリアの症状は、軽い呼吸器の不調から、前触れのない突然死まで、非常に幅が広いのが特徴です。まったく無症状のまま経過することも少なくありません。

これらの多くは猫喘息とよく似ています。だからこそ、「喘息だと思っていたら、背景にフィラリアがあった」という見落としを避けるため、当院は呼吸器症状の猫でフィラリアも視野に入れて診ています。

04

診断・検査 ― 「これ1つで分かる」検査がない

猫のフィラリアは、獣医学のなかでも診断が難しい病気の代表格です。犬なら1滴の血液検査でほぼ確実に分かりますが、猫は寄生数が少ないために、その検査法が通用しにくいのです。そのため、複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。

抗体検査(感染への反応をみる)

猫がフィラリアの幼虫にさらされると作られる「抗体」を調べます。感染から2〜3か月と比較的早期に陽性になり、未熟な虫の段階でも拾えるのが強みです。ただし「感染したことがある/さらされた」ことを示すもので、今も虫がいるとは限りません。

抗原検査(メスの成虫を探す)

犬では最も信頼される検査ですが、猫では虫が少ない・オスだけ・未成熟だと陰性に出やすく、見逃しが起こります。血清を加熱処理して感度を上げる工夫(免疫複合体の解離)も行われます。抗体検査と組み合わせて用います。

胸部レントゲン検査

肺動脈(とくに後ろ側の血管)の拡張や、肺の炎症パターンがみられることがあります。感染猫の一部で異常が出ますが、正常に見えることも多く、他の呼吸器疾患との見分けにも用います。

心臓エコー検査(超音波)

肺動脈や心臓の中にいる虫を、平行な2本の光る線として直接映し出せることがあります。犬より猫で有用とされますが、寄生数が少ないと写らないこともあります。無麻酔・低侵襲で行えます。

05

治療 ― 虫を「殺せない」からこそ、炎症を抑える

猫のフィラリア治療で、まず知っていただきたい厳しい事実があります。猫には、犬のような安全な成虫駆虫薬(メラルソミン)が使えません。

そのため、猫の治療は虫を殺すのではなく、炎症を抑えながら症状をやわらげ、虫の寿命(2〜4年)が尽きるのを安全に待つ——という対症療法・管理が中心になります。

ステロイド(炎症を抑える柱)

HARDによる肺の炎症・咳・速い呼吸を抑える中心的なお薬です。症状に応じて量を調整し、落ち着いたら徐々に減らしていきます。飲み薬や吸入で用います。

毎月の予防薬の継続

治療中も予防薬を続け、新たな感染(虫が増えること)を防ぎます。すでにいる虫を安全に減らす助けになるとも考えられています。

急変時の救急対応

成虫の死などで急な呼吸困難・ショックが起きたときは、酸素・ステロイド・点滴などの緊急処置で全身を支えます。この山を越えられるかが予後を左右します。

外科的な虫の摘出(限られた場合)

心臓や大きな血管に虫が見えているなどごく一部の重症例では、首の血管から器具を入れて虫を取り出すことを検討します。ただし途中で虫が切れると致命的な反応を招くため、慎重に適応を見極めます。

06

予後

猫のフィラリアの予後は、穏やかな経過から突然死まで、はっきりと予測しにくいのが正直なところです。無症状で虫の寿命を越え、自然に回復していく子もいれば、成虫の死をきっかけに前触れなく命を落とす子もいます。MSD獣医マニュアルでは、感染した猫のうち生き延びるのは**およそ25〜50%**と見積もられています。

裏を返せば、これは予防でほぼ100%防げる病気でもあります。治療の選択肢が乏しく、経過が読めないからこそ、「かからせない」ことの価値が犬以上に大きい——それが猫のフィラリアの結論です。

07

予防 ― これがすべてです

猫のフィラリアは、毎月1回の予防薬で、ほぼ確実に防げます。治す薬がない病気だからこそ、予防こそが唯一にして最良の治療といえます。

毎月1回、忘れずに

予防薬(マクロサイクリックラクトン系)は、体に入った幼虫が肺に到達する前に定期的に駆除するお薬です。飲み薬・背中に垂らすスポットタイプがあり、ノミ・回虫などもあわせて予防できる製品もあります。その子に合った種類を一緒に選びます。

室内飼いの猫も対象です

蚊は網戸のすき間や玄関から室内に入ります。診断された猫の約25%は完全室内飼いでした。「外に出ないから大丈夫」は通用しません。同居に犬がいるご家庭では、より意識したい予防です。

08

当院の考え方

「フィラリアは犬の病気」という思い込みは、猫にとって危険な死角になりえます。猫のフィラリアは、数は少なくても命に関わり、診断が難しく、そして治す薬がない——予防でしか守れない病気です。

当院は、この現実をあいまいにせず、正直にお伝えすることを大切にしています(Pure Honesty)。そのうえで、呼吸器の症状がある猫では喘息などと並べてフィラリアの可能性も考え、室内飼いの子にも予防の選択肢を一緒に検討します。「なぜ室内の猫にも予防が必要なのか」——その理由まで診察室でご説明し、納得して続けていただける予防を目指します。その子とご家族が、これからも幸せに過ごせることを目標に。

09

さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)

より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。

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Q&A

よくあるご質問

うちの子は完全室内飼いです。それでもフィラリアの予防は必要ですか?
はい、必要です。フィラリアは蚊が媒介する病気で、蚊は網戸のすき間や玄関の出入り、人の衣服について室内にも入ってきます。実際、フィラリアと診断された猫のおよそ4分の1(約25%)は「完全室内飼い」だったという報告があります。猫は感染しても寄生する虫がごく少ないため検査で見つけにくく、いざ発症すると突然死のかたちで初めて分かることさえあります。治す薬がない病気だからこそ、室内の子も含めて「かからせない」予防がいちばん確実な守り方です。
犬のフィラリアは薬で駆除できると聞きました。猫も同じように治せますか?
残念ながら、猫には犬のような安全な駆虫薬(成虫を殺す薬・メラルソミン)が使えません。猫の体で成虫が急に死ぬと、その虫のかけらが肺の血管に詰まって激しい炎症やショックを起こし、かえって命を落とす危険があるためです。そのため猫の治療は「虫を殺す」のではなく、炎症をステロイドで抑えながら症状をやわらげ、虫の寿命(2〜4年)が尽きるのを待つ対症療法が中心になります。治せないからこそ、予防の価値が犬以上に大きい病気です。
猫のフィラリアはどうやって検査するのですか?一度の血液検査で分かりますか?
猫のフィラリアは「これ1つで確定できる検査」がなく、診断がとても難しい病気です。犬で使う抗原検査は、猫では寄生数が少なかったりオスだけだったりすると陰性に出やすく、見逃すことがあります。そこで抗体検査(感染への反応をみる)・胸部レントゲン・心臓エコーなどを組み合わせ、総合的に判断します。検査がすべて陰性でも感染を完全には否定できないのが実情で、だからこそ「かかってから調べる」より「かからせない予防」が理にかなっています。
猫のフィラリアには、どんな症状が出ますか?
咳・速い呼吸・ゼーゼーする呼吸など、猫喘息とよく似た呼吸器の症状が中心です。食事と関係なく吐く、食欲や元気が落ちる、体重が減る、といったこともあります。一方で、まったく無症状のまま経過し、ある日突然の呼吸困難や急死という最悪のかたちで気づかれることもあります。「元気そうに見えるから大丈夫」とは言い切れないのが、この病気の難しいところです。気になる呼吸の変化があれば、動画を撮ってご相談ください。

このページは一般的な情報提供を目的としています。実際の診断・治療方針は その子の状態によって異なります。個別の症状や薬の使い方については、 自己判断せず担当獣医師にご相談ください。