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DEGENERATIVE MYELOPATHY

犬の変性性脊髄症(DM)

高齢のコーギーなどに多い、痛みを伴わずゆっくり進む後ろ足の麻痺

「後ろ足がふらつく」「爪の先が擦れて削れる」「足の甲を引きずるようになった」——それは変性性脊髄症(DM)のサインかもしれません。高齢で発症し、痛みなくゆっくり進む神経の病気です。根治する治療はまだありませんが、リハビリと暮らしの工夫で歩ける時間を延ばし、その子らしい毎日を支えることができます。

  • 神経

この記事は 院長/獣医師 大塚 元貴 が監修しています(最終監修日:)。

とくに気をつけたい犬種・猫種

好発(かかりやすい傾向)が知られている犬種・猫種です。必ずかかるわけではありません。

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病気の概要

変性性脊髄症(Degenerative Myelopathy:DM)は、脊髄の神経(とくに情報を伝える白質)がゆっくり変性していく病気です。高齢になってから発症し、痛みを伴わずに、後ろ足から少しずつ動きが悪くなっていくのが大きな特徴です。

人の筋萎縮性側索硬化症(ALS)とよく似た仕組みをもつことが知られ、犬の病気の研究が人の医学にもつながる、医学的にも注目される疾患です。

8歳〜

多くは8歳以上の高齢で発症する

進行性

数か月〜数年かけてゆっくり進む

痛み なし

基本的に痛みを伴わない(椎間板ヘルニアとの大きな違い)

同じように後ろ足が弱る病気でも、椎間板ヘルニアが「急に・痛みを伴って」起こるのに対し、変性性脊髄症は「ゆっくり・痛みなく」進みます。この違いを知っておくことが、早い気づきと正しい鑑別の第一歩です。

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なぜ起こるのか ― SOD1遺伝子と「発症リスク」

多くの犬の変性性脊髄症には、SOD1という遺伝子の変異が関わっていることが、2009年にミズーリ大学とブロード研究所の研究で明らかにされました。この変異は常染色体劣性で、変異を2つ受け継いだ状態(ホモ接合)を、遺伝子検査では「at risk(発症リスクあり)」と表します。

ここでもっとも大切な点を、誠実にお伝えします。

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好発犬種と発症の傾向

もっとも代表的なのがウェルシュ・コーギー・ペンブロークです。ほかにジャーマン・シェパード・ドッグ、ボクサー、ローデシアン・リッジバック、チェサピーク・ベイ・レトリーバーなどで多く、さまざまな犬種で報告があります。

  • 発症は多くが8歳以上の高齢期
  • 左右対称に、後ろ足から始まる
  • コーギーはSOD1変異のat risk率が高い犬種として知られます
  • ただしコーギーは椎間板ヘルニアも多い犬種のため、後ろ足の不調イコール変性性脊髄症とは限りません

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症状・経過

変性性脊髄症は、後ろ足から始まり、時間をかけて体の前方・全身へと進みます。進行の段階を知っておくと、その時々に必要な備えが見えてきます。

段階主な様子ケアの目安
初期後ろ足のふらつき・よろけ/足の甲を擦る(ナックリング)/爪の先が削れる/立ち上がりにくい。左右対称で痛みはない。滑らない床・ハーネスでの補助・リハビリの開始。
中期自力で立ちにくい・後ろ足を引きずる/対麻痺(後ろ足が動かない)へ進む。歩行補助具・車椅子(カート)の検討/床ずれ予防。
後期前足にも弱さが及ぶ/排尿・排便のコントロールが難しくなる/進行すると呼吸に関わる筋肉にも影響。排泄ケア・体位変換・在宅ケアの体制づくり。

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診断 ― 「除外診断」で見きわめる

変性性脊髄症には、これ一つで確定できる検査がありません。後ろ足の弱さを起こす他の病気(とくに椎間板ヘルニアや腫瘍など、脊髄を圧迫する病気)を一つずつ除外していくことで、強く疑っていきます。

  1. ステップ1問診・神経学的検査

    いつから・どう進んでいるか、痛みの有無、左右差、反射や固有位置感覚を評価します。「高齢・ゆっくり・痛みなし・左右対称」は変性性脊髄症を示唆する組み合わせです。

  2. ステップ2画像検査(MRI/CTなど)

    椎間板ヘルニア・腫瘍・脊椎の異常など、圧迫による病気がないかを確認します。高度画像診断が必要な場合は、提携する画像診断施設「CAMIC城南」へご紹介します。

  3. ステップ3遺伝子検査(SOD1)の参照

    at risk か否かは診断の補助になります。ただし前述のとおり「at risk=発症」ではないため、あくまで総合判断の一材料として用います。

  4. ステップ4経過の確認と鑑別の絞り込み

    痛みなく進行し、圧迫性の病気が除外されることで、変性性脊髄症が強く疑われます。確定は病理検査でのみ可能です。

鑑別が重要な椎間板ヘルニア(IVDH)について

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治療・管理 ― 歩ける時間を、できるだけ長く

現時点で、進行を止めたり治したりする確実な治療はありません。根治が難しいことは正直にお伝えしなければなりません。しかし、だからこそ当院が大切にするのは、その子とご家族が幸せに過ごせることを目標に、生活の質を守り続けることです。

進行の段階に合わせて、次のような支えを組み合わせます。

  • 足腰を支える環境:滑りにくい床、段差の解消、歩行を助けるハーネス
  • 歩行補助具・車椅子(カート):後ろ足が弱っても、自分で動ける喜びを保つ
  • 皮膚・排泄のケア:床ずれの予防、排尿・排便の介助、清潔の維持
  • 体重管理:太りすぎは足腰の負担を増やすため、適正体重を保つ
  • 痛みを伴う併存疾患への対応:関節炎などがあれば、そちらの痛みは別に管理する

こうしたケアを、ご家族の生活とも相談しながら無理のない形で整えていきます。「今、この子に何ができるか」を一緒に考え続けることが、私たちの役割です。

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遺伝子検査と繁殖の考え方

SOD1の遺伝子検査は、繁殖の判断と、すでに暮らしている子の「備え」の両面で役立ちます。

  • 繁殖では:at riskの遺伝子型をもつ子どうしを避けることで、次の世代の発症リスクを下げられます。ただし「at risk=発症」ではないため、遺伝子型だけで犬の価値を決めず、犬種全体の多様性にも配慮した判断が大切です
  • 暮らしている子では:at riskと分かっても、多くは発症しません。結果は「後ろ足のサインに早めに気づく」ための目安として活用してください

DEPTHの一つ「T=Tenacious(選択肢を最大化する)」の考え方で、早く知り、打てる手を増やしていく——それが当院の姿勢です。検査の要否や結果の受け止め方は、ご家族の状況に合わせて一緒に考えます。

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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)

より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。

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Q&A

よくあるご質問

遺伝子検査で「at risk(発症リスクあり)」でした。必ず発症しますか?
いいえ、必ず発症するわけではありません。変性性脊髄症の原因とされるSOD1遺伝子の変異は、2つ受け継いだ状態(ホモ接合=at risk)でも「発症のリスクが高まる」というものであり、この遺伝子だけで発症が決まるわけではありません。実際、ウェルシュ・コーギーでは半数ほどがat riskの遺伝子型をもつと報告されていますが、そのすべてが発症するわけではなく、発症には他の要因も関わると考えられています(不完全浸透)。ただし、2つとも正常な遺伝子をもつ子は、基本的にこの病気を発症しないとされます。at riskと分かった場合は、発症を過度に恐れるのではなく、後ろ足のサインに早く気づくための目安として活用してください。
痛みはありますか?
変性性脊髄症そのものは、基本的に痛みを伴わないのが特徴です。これは、同じように後ろ足が弱る椎間板ヘルニアが強い痛みを伴うことが多いのと、大きく異なる点です。「痛がっていないのに後ろ足がうまく使えない」「足の甲を擦って歩く」という様子は、変性性脊髄症を疑う手がかりになります。ただし、高齢の子では関節炎など痛みを伴う病気を併せもつことも多く、痛みがある場合はその原因を別に探して対応します。
椎間板ヘルニアとどう見分けるのですか?
どちらも後ろ足の弱さを起こしますが、椎間板ヘルニアは急に発症して痛みを伴うことが多く、変性性脊髄症は高齢でゆっくり・痛みなく進むという違いがあります。ただし見た目だけでは確実に区別できないため、MRIなどの画像検査で椎間板ヘルニアや腫瘍など「圧迫による病気」を除外することが重要です。変性性脊髄症は、こうした他の原因を一つずつ除外していく「除外診断」で強く疑い、最終的な確定は病理検査でのみ可能です。コーギーは椎間板ヘルニアと変性性脊髄症の両方が多い犬種のため、丁寧な鑑別が欠かせません。
治療法はありますか?進行を止められますか?
現時点で、変性性脊髄症の進行を止めたり治したりする確実な治療はありません。誠実にお伝えすると、根治は難しい病気です。一方で、計画的なリハビリテーション(理学療法)を続けた犬は、歩ける期間が長く保たれたという報告があり、生活の質を守るうえで大きな意味をもちます。滑りにくい床、歩行を助けるハーネスや車椅子(カート)、床ずれや排尿・排便のケアなど、進行の段階に合わせた支えで、その子とご家族が穏やかに過ごせる時間を大切にします。
どのくらいのスピードで進みますか?
個体差はありますが、多くはゆっくりと数か月から数年をかけて進みます。初めは後ろ足のふらつきや足の甲を擦るしぐさから始まり、やがて自力で立ちにくくなり、後ろ足の麻痺(対麻痺)へと進みます。さらに進むと前足にも及び、最終的には排尿・排便や呼吸に関わる筋肉にも影響することがあります。進み方には幅があるため、その時々の状態を一緒に見ながら、必要なケアを段階的に整えていきます。

このページは一般的な情報提供を目的としています。実際の診断・治療方針は その子の状態によって異なります。個別の症状や薬の使い方については、 自己判断せず担当獣医師にご相談ください。