処方の量を決める作業は、薬理学的な判断(何を、どのくらいの強さで)と、算術(それを手元の製剤でどう作るか)に分かれます。このページが引き受けるのは後半だけです。前半は処方者の領分で、ツールは一切関与しません。
01
このツールは薬剤データを持たない
本ツールには薬剤名も、薬剤ごとの用量も入っていません。mg/kg や µg/kg/min は使う人が入力します。
公開ページである以上、閲覧者を限定できないためです。用量データを内蔵すれば、飼い主が自宅の残薬や人用の市販薬を自己判断で計算する経路になります。用量を持たない電卓は、用量を知っている人にとってだけ機能します。
扱うのは体表面積(BSA)換算と持続点滴(CRI)の2つだけです。
暗算できるものは入れない
錠数(体重 × mg/kg ÷ 規格)や液剤の必要量(÷ 濃度)は1ステップの計算なので扱いません。計算機の価値があるのは、体重の2/3乗や複数単位の変換のように暗算できないものだけです。
現物に書いてある値だけを入れる
CRIで入力するのは、指示書の用量と、バイアルの濃度と、輸液速度。調製後の濃度は入力ではなく出力です。現物のどこにも書いていない値を、人に計算させないためです。
必ず逆算する
設定した流量から、実際に入る用量を指示と同じ単位に戻して表示します。BSAも mg/kg に換算し直して並べます。入力の取り違えを検知できる唯一の手段です。
02
計算する
薬剤データを内蔵しない計算ツール
用量(mg/kg・µg/kg/min)は入力式です。薬剤名も薬剤ごとの用量も持たせていません。錠数は丸めず候補を並べ、選んだ量から実投与量へ必ず逆算して表示します。
用量と濃度から流量(mL/hr)を出す。総量と想定時間は表裏
今日の体重を入れる
バイアル・アンプルに書かれている濃度
体重あたりで入れる。ポンプに入れる値は体重を掛けたもの
総量か、想定時間のどちらかを入れる
流量が決まっているので、総量を入れれば何時間もつかが出て、時間を入れれば必要な総量が出ます。
表示される数値は、入力された値から計算した結果にすぎません。薬剤の選択・用量・ 投与間隔の妥当性(腎機能・肝機能・年齢・併用薬・治療域の広さなど)は、 このツールでは評価していません。
03
1回量と1日総量
同じ 10 mg/kg/日 でも、指示の書き方によって1回に入る量は変わります。
| 指示 | 1回あたり | 体重4kg・1日2回での1回量 |
|---|---|---|
| 1回 10mg/kg を1日2回 | 10 mg/kg | 40 mg |
| 1日 10mg/kg を2回に分けて | 5 mg/kg | 20 mg |
処方箋・薬袋・カルテのどこかで表記が揺れると、この取り違えは容易に起こります。院内では「1回量で書く」などどちらかに統一しておくことが、最も確実な予防策です。
処方箋・薬袋・カルテの間で表記が揺れると、この取り違えは容易に起こります。院内では「1回量で書く」など、どちらかに統一しておくことが最も確実な予防策です。
04
錠剤の分割はどこまで信頼できるか
割線があっても、分割後の重量が均等になるとは限りません。
犬猫でよく使うフロセミド製剤を対象にした Maggi ら(Open Vet J 2021)は、獣医用5製品・人体用5製品について分割の均一性、複数の溶液での溶出、含量分布を検討しています。結果として多くの製品で分割のばらつきが大きく、これが反復投与時の利尿効果の変動につながりうると論じました。一方、錠剤内の薬物分布そのものはどの製品でも均一であることが確認されており、問題は「割れ方」であって「薬の偏り」ではないという切り分けができます。同研究では、四つ葉状の割線をもつ獣医用製剤がより均一なフラクションを与えたことも報告されています。
同研究の結論は「分割は用量の柔軟性を与える一方で、不均一な破断は危険な過量・過少投与を招きうる。とくに重篤な病態と小型の患者で」というものです。
実務上の含意は次の3点です。
ステップ1:割り置きしない
分割は投与直前に行います。あらかじめまとめて割ると、破断面からの吸湿・欠けによる損失が積み重なります。
ステップ2:4分割が必要なら、まず別の手段を検討する
液剤への変更、分包、規格違いの製剤への切り替えのほうが、精度でも投与の確実性でも上回ることが多くあります。
ステップ3:そもそも分割できない剤形を外す
徐放性製剤(用量ダンピングを起こす)、腸溶錠(放出部位の設計が壊れる)、カプセル、細胞毒性薬(取扱者の曝露)。
05
液剤は「量れるか」まで確認する
濃度から必要量を出したあと、それがシリンジの目盛りで読める量かどうかまで確認する必要があります。小型個体では、計算上 0.03 mL といった、実務上は量れない数字が普通に出ます。
計算した数値をそのまま指示に落とすと、現場では目分量になります。「そのシリンジの目盛りで読めるか」を、処方の段階で確かめてください。
対応は、より細かい目盛りのシリンジに変える、希釈する、別の剤形を選ぶ、のいずれかです。希釈を選ぶ場合は、希釈後の安定性と保存条件を製剤ごとに確認してください。
06
体表面積換算は体重に比例しない
体表面積(BSA)は次式で体重から換算します。K は犬 10.1、猫 10.0、W はグラムです。
BSA(m²) = K × W(g)^(2/3) ÷ 10⁴
指数が 2/3 であることが実務上の意味を持ちます。体重が6倍でも、体表面積は3.3倍にしかなりません。
0.30m²
犬 5kg
0.98m²
犬 30kg
1.8倍
同じ mg/m² での体重あたり曝露の比(5kg ÷ 30kg)
Price と Frazier(JVIM 1998)は、この換算に用いる定数 K と指数の妥当性、体長などの線形パラメータが式に含まれていないことを問題として挙げ、小型犬で体重あたりの曝露が増え毒性が高まるという臨床観察の背景を論じています。ドキソルビシンやカルボプラチンでは、小型個体を mg/kg 基準で投与する判断が実際に行われています。
上のツールが換算した mg を必ず mg/kg に逆算して並べて表示するのは、この判断材料を毎回目に入れるためです。数字を出すこと自体より、「その子にとって体重あたり何 mg になるのか」を確認できることのほうが重要だと考えています。
07
持続点滴(CRI)の計算
用量は体重あたり・時間あたりで指示され、ポンプに入力するのは mL/hr です。この2つをつなぐのがCRIの計算で、やることは単位をそろえることだけです。
単位はどれで来ても、計算は同じ
指示の単位は薬によって変わります。質量は µg と mg、時間は分あたりと時間あたりがあり、組み合わせは4通りです。濃度も mg/mL と µg/mL の両方が使われます。
| 出てくる単位 | 換算 | |
|---|---|---|
| 用量の質量 | µg / mg | 1 mg = 1,000 µg |
| 用量の時間 | 1分あたり / 1時間あたり | 1 hr = 60 min |
| 薬液の濃度 | µg/mL / mg/mL | 1 mg/mL = 1,000 µg/mL |
どれで指示されても、計算そのものは変わりません。本ツールは用量と濃度の単位を選択式にしてあり、内部で µg と時間あたりに正規化します。指示の単位をそのまま入れれば、換算を手でやる必要はありません。逆算表示も、選んだ単位のまま戻します。
流量を先に決める
流量 × 調製後の濃度 = 1時間あたりの薬量 という関係しかないため、流量か濃度のどちらかを決めないと残りが決まりません。
このツールは流量(輸液速度)を入力に取り、調製後の濃度を出力にしています。維持輸液に混ぜるCRIでは輸液速度が先に決まっていることが多く、また調製後の濃度は現物のどこにも書いていない値だからです。入力するのは、すべて指示書か現物に書いてある値になります。
手順
ステップ1:流量を実際の値にする
輸液速度(mL/kg/hr)× 体重 = ポンプに入れる mL/hr
ステップ2:1時間あたりに必要な薬量を出す
用量 × 体重。分あたりなら60を掛け、mg なら1000を掛けて µg/hr にそろえます。
ステップ3:調製後の濃度を出す
µg/hr ÷ 流量(mL/hr)= µg/mL。この濃度になるよう薬液を作ります。
ステップ4:吸う原液の量を出す
濃度 × 総量 = 総量に入る薬剤量。それを原液の濃度でわると 吸う mL が出ます。
通しで計算する
体重10kgの患者に 5 µg/kg/min、輸液速度 2 mL/kg/hr、原液は 10 mg/mL、総量500mLで作る場合。
| 手順 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 流量 | 2 mL/kg/hr × 10 kg | 20 mL/hr |
| 1時間あたりの薬量 | 5 µg/kg/min × 10 kg × 60 | 3,000 µg/hr(=3 mg/hr) |
| 調製後の濃度 | 3,000 µg/hr ÷ 20 mL/hr | 150 µg/mL |
| 持つ時間 | 500 mL ÷ 20 mL/hr | 25 時間 |
| 総量に入る薬剤量 | 150 µg/mL × 500 mL | 75,000 µg(=75 mg) |
| 吸う原液の量 | 75 mg ÷ 10 mg/mL | 7.5 mL |
ツールはこれを調製の手順として表示します——輸液500mLから7.5mLを抜き、原液7.5mL(75mg)を加え、ポンプを20mL/hrに設定する。
流量を変えると、用量も変わる
ここはバッグに混ぜるCRIの本質的な弱点です。
薬液を作ってしまえば濃度は固定なので、用量は流量にそのまま比例します。上の例(150 µg/mL)で流量を動かすと、こうなります。
| ポンプの設定 | 実際の用量 | 指示とのずれ |
|---|---|---|
| 10 mL/hr | 2.5 µg/kg/min | −50% |
| 20 mL/hr(設計どおり) | 5 µg/kg/min | ±0 |
| 30 mL/hr | 7.5 µg/kg/min | +50% |
つまり循環動態を見て輸液速度を変えると、薬の量も一緒に変わってしまいます。輸液速度と薬用量を独立に動かしたいのであれば、別ラインからシリンジポンプで投与してください。
ツールの「流量を変えると、用量はこう変わる」欄で、設定値を入れるとそのときの用量と指示とのずれが出ます。ポンプを刻みで丸めたときの確認にも使えます。
投与前に確認する5点
輸液としての妥当性も見る
計算が正しくても、その流量で投与してよいとは限りません。バッグに混和する方法では、薬剤の流量がそのまま輸液速度になります。心疾患のある患者で過剰な速度になっていないか、逆に必要な輸液量が確保できているかを、用量とは別に評価してください。
上で見たとおり、あとから輸液速度を変えると薬用量も動きます。輸液計画が変わりうる患者では、はじめから別ラインのシリンジポンプを選ぶほうが安全です。どちらを選ぶかは、患者の循環動態と使用薬剤によります。
08
どの体重で計算するか
「体重から計算する」と言うとき、どの体重を使うかが問題になる場面があります。
- 肥満個体——脂肪組織にほとんど分布しない親水性薬物では、実測体重をそのまま用いると分布容積に対して過量になりうるため、除脂肪体重を見積もって計算することがあります
- 腹水・浮腫のある個体——実測体重に体液が含まれます。増減が体液の移動である可能性を考慮します
- 成長期——数週間で体重が変わります。前回の体重のままでは相対的な過少投与になります
- 削痩が進行している個体——同じ錠数が相対的な過量になっていきます
いずれも、どの体重を採るかで結論が変わりうる場面です。ツールは入力された体重をそのまま使うため、この判断はツールの外側にあります。
09
種差:猫のグルクロン酸抱合
猫では、フェノール性化合物の主要な解毒酵素である UGT1A6 が偽遺伝子化しており、機能する酵素を発現しません。Shrestha ら(PLOS ONE 2011)は、この偽遺伝子化がネコ科の系統確立の過程で起こり、現生のネコ科動物すべてがフェノール性異物のグルクロン酸抱合を欠くと予測されることを示しています。固定は約3,700万年前から1,100万年前の間と推定され、超肉食(食餌の70%以上が動物由来)への適応と関連づけて論じられています。
臨床的な含意は次のとおりです。
- アセトアミノフェン、アスピリンなどフェノール性薬物への感受性が著しく高い
- グルクロン酸抱合に依存する薬物のクリアランスが遅く、犬と同じ投与間隔では蓄積しうる
- 犬で確立した用量・間隔を猫に外挿できない
これは体格差の問題ではなく代謝経路の欠損であるため、減量しても回避できません。
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治療域が狭い薬と血中濃度モニタリング
有効域と中毒域の差が小さい薬では、用量どおりに投与していても、吸収の個体差、腎・肝機能、併用薬による相互作用などから、想定した血中濃度に到達しないことがあります。
こうした薬では、実測した血中濃度をもとに用量・間隔を調整します。抗てんかん薬のように、発作抑制に必要な濃度を保ちつつ鎮静や肝への負担を避ける必要がある薬が典型です。状態が安定しているときに測っておくことで、増量の余地があるのか、別の薬剤の追加を検討すべきなのかを、発作が起きる前に判断できます。
腎排泄に依存する薬物では、腎機能低下時に蓄積が起こります。用量の減量と投与間隔の延長のどちらを選ぶかは、その薬の効果が濃度依存性か時間依存性かによって変わります。
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参考文献
- Maggi L, et al. Dosage variability of veterinary drug products, containing furosemide, linked to tablet splitting. Open Vet J. 2021 — 獣医用・人体用フロセミド製剤各5品目の分割均一性、溶出、含量分布
- Price GS, Frazier DL. Use of Body Surface Area (BSA)-Based Dosages to Calculate Chemotherapeutic Drug Dose in Dogs: I. Potential Problems with Current BSA Formulae. J Vet Intern Med. 1998;12(4):267-271 — BSA式の定数・指数の妥当性と、小型犬での曝露増加
- Shrestha B, et al. Evolution of a Major Drug Metabolizing Enzyme Defect in the Domestic Cat and Other Felidae: Phylogenetic Timing and the Role of Hypercarnivory. PLOS ONE. 2011 — ネコ科における UGT1A6 偽遺伝子化の系統的時期
- 動物用医薬品等データベース(農林水産省 動物医薬品検査所) — 承認された動物用医薬品の添付文書を品名・主成分・対象動物などから検索できます
体表面積の換算係数(犬 10.1/猫 10.0)は腫瘍学の標準的な換算表および dvm360 の解説に拠っています。本ツールの実装値は、犬10kg=0.469m²、猫4kg=0.252m² となることを受け入れテストで固定しています。
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