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病気の概要
鼻の穴から、のど、気管、そして気管支・肺へ——空気は一本の「通り道」を通って体に出入りしています。この通り道のどこかに炎症や構造の変化が起きると、くしゃみ・鼻汁・咳・呼吸の乱れといった、よく似たサインが現れます。
このページでは、その通り道に起こる代表的な病気として、気管虚脱(きかんきょだつ)・慢性鼻炎・副鼻腔炎・慢性気管支炎を取り上げます。いずれも「治し切る」より、上手に付き合って管理していくことが中心になる病気です。
ガーガー
気管虚脱に特徴的な、ガチョウの鳴き声のような咳
2か月〜
この期間を超えて続く咳は、慢性気管支炎を疑う目安
片側
片側だけの鼻汁・鼻血は、腫瘍などの警戒サイン
大切なのは、これらのサインを「よくある咳・鼻水」で片づけないことです。同じ咳でも、原因が気管なのか、心臓なのか、肺なのか、あるいは腫瘍なのかで、必要な対応はまったく変わります。当院は「なぜ、その症状が出ているのか」を問い続け、通り道のどこで何が起きているのかを見極めることを診療の出発点にしています。
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気管虚脱(きかんきょだつ)
気管虚脱(tracheal collapse)は、気管を筒状に保っている軟骨(なんこつ)の輪がもろくなり、呼吸のたびに気管がぺしゃんこにつぶれてしまう病気です。つぶれた気管を空気が通ろうとするときに、あの特徴的な咳が生まれます。
- 小型犬に多い病気です。とくにヨークシャー・テリア、ポメラニアン、チワワ、トイ・プードルなどに好発し、中〜高齢で目立ってくることが多くみられます。
- 「ガーガー」というガチョウの鳴き声のような咳(goose honk cough)が典型的なサインです。興奮したとき、水を飲んだとき、首輪を引いたとき、気温や湿度が高いときに悪化しやすいのが特徴です。
- 肥満や、心臓病・気管支炎などの併発があると、症状が強く出やすくなります。
内視鏡でみる進行度 ― グレード分類
気管虚脱は、内視鏡(気管鏡)で気管の内側をのぞき、内腔がどれくらいつぶれているかでグレードI〜IVに分けて評価します。進行度を数字で共有することで、治療方針の見通しが立てやすくなります。
| グレード | 気管内腔のつぶれ | 状態のめやす |
|---|---|---|
| グレードI | 約25%が狭くなる | 軽度。気管の膜がややたわむ程度 |
| グレードII | 約50%が狭くなる | 中等度 |
| グレードIII | 約75%が狭くなる | 高度 |
| グレードIV | ほぼ完全につぶれる | 最重度。軟骨が扁平化し、内腔がほとんど失われる |
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慢性鼻炎・副鼻腔炎
鼻の粘膜(鼻炎)や、その奥にある副鼻腔(副鼻腔炎)に慢性的な炎症が続く状態です。くしゃみ・鼻汁・鼻づまり、ときに鼻血(鼻出血)が主なサインになります。原因はひとつではなく、次のようにさまざまです。
- ウイルス感染の後遺症:とくに猫では、子猫のころの猫風邪(猫ヘルペスウイルス・カリシウイルス)で鼻の粘膜や鼻甲介という薄い骨が傷つき、その後も慢性鼻炎が続くことがよくあります。慢性の「鼻づまり猫(スナッフラー)」と呼ばれる状態です。
- 細菌の二次感染:もともとの炎症に細菌感染が重なり、膿のような鼻汁が出ることがあります。
- 歯の根の病気(歯根由来):上あごの奥歯の歯根の炎症が鼻へ通じ(口鼻瘻管)、片側の鼻汁の原因になることがあります。
- 真菌(アスペルギルスなど):とくに犬で、鼻の痛みや出血、鼻の周りの脱色をともなうことがあります。
- 異物:草の種などが鼻に入り込み、急に始まった片側のくしゃみ・鼻汁の原因になることがあります。
- 鼻腔内の腫瘍:中〜高齢で、片側から進む鼻汁・鼻血、顔の変形などをともなうことがあります。
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犬の慢性気管支炎
慢性気管支炎は、気管支の粘膜に慢性的な炎症が続き、2か月以上にわたって咳が続く状態を指します(他に咳の原因がないことが前提です)。中〜高齢の犬に多く、炎症で気道が過敏になり、ちょっとした刺激でも咳き込みやすくなります。
- 乾いた咳が長く続き、運動や興奮、冷たい空気などで悪化しやすいのが特徴です。
- 気道の粘膜が厚くなり、粘り気の強い分泌物(痰)がたまることで、さらに咳が出やすくなります。
- 気管虚脱や心臓病を併発していることもあり、原因の切り分けが大切です。
診断では、胸部レントゲンで気管支の変化を確認し、必要に応じて気管支鏡や気管支肺胞洗浄(BAL)で気道の内部や分泌物を調べ、感染やアレルギー、寄生虫などと見分けます。管理は、炎症をしずめる抗炎症治療を中心に、気管支拡張薬や環境の改善、体重管理を組み合わせて進めます。
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症状・サイン
鼻腔・気管の疾患は、次のようなサインで気づかれます。どの症状も、原因によって対応が変わります。気になる様子があればご相談ください。
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診断・検査
診断の目的は、「その咳・鼻汁が、通り道のどこで、何によって起きているのか」を見極めることです。とくに大切なのは、心臓病・肺の病気・腫瘍としっかり見分けることです。その子の負担が少ない検査から順に進めます。
問診・聴診・視診
咳の音・出るタイミング・発症時期、生活環境をくわしくうかがい、気管や胸の音を聴診します。ご家庭で撮った咳や呼吸の動画が診断にとても役立ちます。
レントゲン検査
気管のつぶれ、気管支の変化、肺や心臓の状態を確認します。気管虚脱は呼吸の相によって見え方が変わるため、複数のタイミングで撮影することがあります。心臓病との切り分けにも重要です。
内視鏡検査(気管鏡・鼻鏡)
気管や鼻の中を直接のぞき、気管虚脱のグレード分類や、鼻の炎症・異物・腫瘍の有無を評価します。あわせて分泌物や組織を採取できます。全身麻酔が必要です。
CT・生検(組織検査)
鼻腔・副鼻腔や気道の状態をくわしく描き出し、腫瘍や真菌、歯根由来の病変などを見極めます。確定診断には組織の生検が必要になることが多く、提携施設と連携して進める場合があります。
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治療の考え方
鼻腔・気管の疾患は、多くが内科的な管理を中心に進めます。治し切ることが難しくても、症状をコントロールし、その子が快適に過ごせる時間を長く保つことが目標です。
気管虚脱の内科的管理
鎮咳薬(咳をしずめる)・気管支拡張薬・抗炎症薬などを、その子の状態に合わせて組み合わせます。あわせて体重管理・環境の工夫がとても重要です。多くの子は、この内科的な管理で症状が落ち着きます。
鼻炎・副鼻腔炎の治療
原因に応じて対応します。細菌感染には抗菌薬、真菌には抗真菌薬、歯根由来なら歯科処置、異物なら除去。慢性鼻炎では、ネブライザー(吸入)で分泌物をやわらげ、鼻づまりを楽にする管理も有効です。
慢性気管支炎の管理
気道の炎症をしずめる抗炎症治療を中心に、気管支拡張薬や吸入療法を組み合わせます。刺激(煙・強い香りなど)を避ける環境づくりと体重管理も、咳を減らす大切な柱です。
難治例への外科・提携施設のご紹介
内科治療で十分に管理できない重い気管虚脱には、気管ステントや体外プロテーゼといった外科的な選択肢があります。専門的な設備と技術を要するため、適応があれば実施可能な提携施設をご紹介します。
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ご家庭での管理
診察室の外での毎日の工夫が、症状の安定を大きく左右します。とくに気管虚脱・気管支炎では、ご家庭でできることがたくさんあります。
適正体重を保つ
肥満は、気管や気道を圧迫し、咳を悪化させる最大の要因のひとつです。適正体重を保つことは、気管虚脱の管理でもっとも効果的なケアのひとつ。減量の進め方はご相談ください。
首を圧迫しないハーネスに
首輪でのどを圧迫すると、気管への負担が増え咳を誘発します。お散歩は、首ではなく胸で支えるハーネス(胴輪)に切り替えましょう。強く引っぱらせない工夫も大切です。
興奮・暑さ・刺激を避ける
興奮や高温多湿、タバコの煙や強い香りは、咳や呼吸苦の引き金になります。室温・湿度を快適に保ち、刺激の少ない環境を整えましょう。発作的な咳が続くときは無理をさせないでください。
「年のせいの咳」「クセになっているくしゃみ」と思っていたものが、実は管理できる病気であることは少なくありません。その子とご家族が幸せに過ごせることを目標に、通り道のどこで何が起きているのかを一緒に確かめていきましょう。
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さらに詳しく知りたい方へ(参考リンク)
より深く知りたい方のために、当院が診療の拠りどころとしている信頼できる情報源をご紹介します。外部サイトへ移動し、専門的な内容や英語のページを含みます。気になる点は、遠慮なく担当獣医師におたずねください。
- 犬の気管虚脱/MSD獣医マニュアル・飼い主向け(英語) — 好発犬種・特徴的な咳・体重管理を含む管理の全体像を、飼い主向けにわかりやすく解説。
- 犬と猫の鼻炎・副鼻腔炎/MSD獣医マニュアル・獣医師向け(英語) — ウイルス・細菌・真菌・歯科・腫瘍など原因の鑑別と、CT・鼻鏡・生検による診断を専門的に整理。
- 犬の慢性気管支炎の総説(Today's Veterinary Practice・獣医師向け・英語) — 2か月以上続く咳という定義、気管支鏡・BALによる診断、抗炎症を中心とした治療をまとめた総説。

